メイヨークリニック感染症科 松尾貴公
4ヶ月前
Concomitant septic and crystal arthropathy: a single-centre 10-year retrospective observational study in New Zealand
研究デザイン
10年間の後ろ向き観察研究 (2010年12月~2020年12月)
対象
救急外来で関節穿刺を受けた成人患者 (ICD-10コードによる選定)。
結晶または微生物が陰性の症例は除外された。
評価基準
SAはNewman基準に基づき、 細菌培養や放射線所見で定義した。
CAは尿酸またはカルシウムピロリン酸結晶の確認で診断した。
SACA患者はSA全体の23.6%、 CA全体の7.2%
対象となった567例のうち、 427例がCA、 140例がSA、 33例がSACAと診断された。
SACA患者はSA全体の23.6%、 CA全体の7.2%を占めた。
関節液白血球数3万2,000/mm³以上は感度100%、 特異度約50%
関節液白血球数の中央値はCAで3万3,110/mm³、 SAで9万7,555/mm³、 SACAでは14万4,000/mm³であった。 3万2,000/mm³をカットオフ値とした場合に感度100%、 特異度約50%であった。
SACAはSA単独よりグラム染色陽性率が低い
関節液中のグラム染色陽性率はCAで0.2%、 SAで33.1%、 SACAで21.2%と有意な差が見られた (p<0.001)。
免疫抑制状態や人工関節の存在がリスク因子
SAおよびSACAのリスク因子として、 免疫抑制状態 (OR 1.74、 95%CI 1.03–2.93、 p=0.037) や人工関節の存在 (OR 5.03、 95%CI 0.96–26.32) が挙げられた。
起因菌はS. aureus、 S. pyogenesなど
起因菌はStaphylococcus aureus (25.7%)、 Streptococcus pyogenes (10%) が多かった。
SA患者の死亡率は3.6%
SA患者の入院期間は平均13.4日、 5%がICUに入院し、 死亡率は3.6%であった。
関節痛を主訴に来院した患者を診た際、 感染性関節炎 (SA) か結晶性関節炎 (CA) かを臨床的に見分けることが難しい場合があると思います。
また、 関節穿刺を実施し尿酸あるいはピロリン酸カルシウム結晶の存在が確認できた際に、 「SA合併の可能性があるか?」 という臨床的な疑問に遭遇します。
本研究は、 「グラム染色のみでは、 SAを完全には否定できない」 ということを示しています。 さらにはSA・CA合併の場合はSA単独の場合と比較してグラム染色陽性の割合が低いということも示しています。
このような状況の中で、 本研究の 「CA全体の7.2%にSAの合併を認めた」 という結果を念頭に置き、 培養結果が返ってくるまでの段階で抗菌薬を投与するかどうかを患者ごとに判断する必要があります。
関節液の細胞数に関しては、 古典的な研究では細胞数が5万/μL以上の場合でSAの陽性尤度比は7.7、 2万5,000~5万/μLの場合は2.9であり、 10万/μL以上では28まで増加することが報告されています¹⁾。
SAと関節液の細胞数の大まかな相関関係を理解することは重要です。 しかし、 細胞数が低い場合でも関節液培養が陽性となる場合や、 逆に細胞数が多くても非感染性の原因である場合も存在します。
そのため、 関節液の外観、 細胞数の分画、 グラム染色、 培養結果など他の所見とあわせて総合的に判断することが重要です。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。