【解説】EGFR陽性NSCLCの治療戦略における現状と課題 : 日本の視点から
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HOKUTO編集部

1ヶ月前

【解説】EGFR陽性NSCLCの治療戦略における現状と課題 : 日本の視点から

【解説】EGFR陽性NSCLCの治療戦略における現状と課題 : 日本の視点から
EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌 (NSCLC) の1次治療において、 オシメルチニブ+化学療法及びアミバンタマブ+ラゼルチニブの両併用療法は強く推奨されている。 一方で、 日本人への適用にあたっては、 有効性・安全性の両面で、 グローバルデータとの異同や日本人における特性を踏まえた総合的なアプローチが求められる。 JSMO2026のシンポジウムでは、 日本におけるEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療戦略について、 和歌山県立医科大学附属病院呼吸器内科・腫瘍内科准教授の赤松弘朗氏が現状と課題を解説した。

最新ガイドラインでの推奨レジメン

標準治療に位置付けられた二つの併用レジメン

オシメルチニブ+プラチナ製剤+ペメトレキセドの3剤併用療法及びアミバンタマブ+ラゼルチニブの2剤併用療法は、 ASCO Living Guideline 2026では 「Strong」¹⁾、 日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン 2025年版では 「推奨の強さ : 1」 に位置付けられている²⁾。 これはEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの1次治療における大きなパラダイムシフトといえる。

単剤療法も強い推奨を維持

一方、 オシメルチニブ単剤療法も依然として両ガイドラインで強く推奨されていることを忘れてはならない。

日本人における有効性・忍容性の両面を踏まえ、 個々の患者に最適なレジメンを選択することが求められる。

日本人集団における有効性 : グローバルデータとの一致

FLAURA2試験 : 日本人集団

JSMO2026のPresidential Sessionで発表されたFLAURA2試験の日本人集団解析では、 オシメルチニブ+化学療法群の全生存期間 (OS) 中央値は48.3ヵ月、 HRは0.60 (95%CI:0.36-1.03) であった³⁾。 統計的有意差は認められないものの、 全体集団⁴⁾ [HR:0.77 (95%CI:0.61-0.96) ]と同様の改善傾向が確認された。

>>FLAURA2の日本人解析の詳細を確認する

JSMO 2026レポート

MARIPOSA試験 : アジア人集団

ESMO Asiaで発表済みのMARIPOSA試験のアジア人集団解析⁵⁾では、 アミバンタマブ+ラゼルチニブのOS中央値は未到達であった。 HRは0.74 (95%CI:0.56-0.97) と、 全体集団⁶⁾の0.75 (95%CI:0.61-0.92) と同様の改善傾向が確認された。

>>MARIPOSAのアジア人解析の詳細を確認する

Lung Cancer. 2026 Apr:214:109305

PALOMA-3試験 日本人サブセット

PALOMA-3試験はアミバンタマブのSC製剤とIV製剤をラゼルチニブ併用で比較した試験である。 JSMO2026のPresidential Sessionで発表されたPALOMA-3試験の日本人集団のデータでは、 無増悪生存期間 (PFS) 及びOS共に全体集団と非常に類似した改善傾向が示された。 特に、 OSのHRは0.14 (95%CI:0.02-1.17) と良好な結果が得られた⁷⁾。

日本人集団における忍容性 : 実臨床に即したAEマネジメント

FLAURA2試験 : 日本人集団

FLAURA2試験の日本人集団³⁾では、 全体集団⁴⁾と比較して消化器毒性 (下痢・悪心・食欲減退・便秘) 及び皮膚毒性 (発疹・爪囲炎・口内炎) がより高頻度でみられた。 また、 日本人集団における間質性肺炎 (ILD) の発現頻度は、 全Gradeは15%であったが、 Grade 3は2%にとどまっていた。 他の有害事象の多くはGrade 1-2であり、 Grade 3-4の重篤な有害事象は概ね5%未満であった。

MARIPOSA試験 : アジア人集団

MARIPOSA試験における有害事象は、 全体集団とアジア人集団で概ね同様であったが、 アジア人集団ではアミバンタマブに関連した有害事象の発現率が高い傾向が認められた。 例として爪囲炎 (Grade 3以上が9%に発現) や注入に伴う反応 (18%に発現) などが挙げられる⁵⁾。

PALOMA-3試験 : 全体集団・日本人集団

PALOMA-3試験の全体集団において、 注入に伴う反応はIV群で66%に発現したのに対し、 SC群では13%へと大幅に減少した。 ただし、 爪囲炎などの皮膚毒性についてはSC群とIV群で有意な差は認められなかった⁸⁾。

日本人集団のSC群では、 血中濃度が全体集団より10~20%高い傾向が示された。 爪囲炎69%、 口内炎54%、 低アルブミン血症69%の発現が認められ、 Grade 3-4の有害事象は52%、 重篤な有害事象は29%に認められた⁷⁾。 これらの結果に加え、 本試験は被験者数が限られていることもあり、 日本人への本レジメン導入にあたっては慎重なAE管理が必要である。

二つの併用レジメンについて、 有効性の面ではいずれも遜色ない結果が得られた。 一方、 安全性においては慎重な対応が必要であることが示された。

実臨床への適用で直面する課題 : 高齢者へのアプローチ

主要試験と実臨床における年齢の相違

日本における実臨床を考慮すると、 これらの併用レジメンをそのまま全ての日本人患者に適用するのは困難である。 その理由の一つとして患者の年齢が挙げられる。

FLAURA2試験およびMARIPOSA試験における対象患者の年齢中央値は約60歳であったのに対し、 日本の実臨床では状況が大きく異なる。 500例以上の日本人患者を対象としたリアルワールドデータを用いた研究では、 37%の患者が75歳以上の後期高齢者であり、 これらの高齢者はOSが短く、 有害事象による治療中止率が高く、 後治療実施率が低かった。

日本の診療環境に即した予防的AE管理

高齢者を含む脆弱な患者層への併用レジメン導入にあたっては、 有害事象の予防的管理が不可欠である。

COCOON試験は、 抗菌薬や保湿剤の早期投与による皮膚・爪の有害事象軽減を検討した試験である⁹⁾。 本試験で使用されている薬剤の一部は日本では入手できない。 そのため、 静岡がんセンター 松田先生の主導で、 日本で使用可能な薬剤を用いたJapan Modified COCOON試験が実施されている。

このように、 日本で利用可能な薬剤を活用した独自のAE管理プロトコルの確立が求められる。

>>COCOON試験の詳細を確認する

欧州肺癌学会 (ELCC 2025) レポート

耐性後の個別化治療を見据えたリバイオプシーの重要性

MYKONOS試験 : 2次治療がOSを左右

Flatiron Health databaseを用いたグローバルリアルワールドデータ解析であるMYKONOS試験 (参加国 : 米国・日本・ドイツ・中国) では、 4ヵ国間でOSに有意差は認められなかった。 一方で、 日本人被験者の57%が後治療を受けていた。 これらの結果から、 OS改善にはオシメルチニブ投与後の生存期間、 すなわち後治療の内容が大きく関与する可能性が示唆され、 効果的な2次治療戦略の確立が重要と考えられる。

ORCHARD試験 : 個別化治療が優位

個別化治療を実臨床に導入するためには、 リバイオプシーの実行可能性や薬物耐性の機序・発現率などを把握する必要がある。

ORCHARD試験 (プラットフォーム第Ⅱ相試験) では、 耐性機序に基づいた個別化治療レジメンを検討しており、 個別化治療が非個別化治療よりもOSで良好な結果を示している¹⁰⁾。

>>ORCHARD試験の詳細を確認する

Clin Lung Cancer. 2021; 22: 601-606.

また、 米国の後方視的研究でも、 個別化治療は非個別化治療よりOSが優れていたと示されている。

組織+血漿で耐性機序不明例を減少

ORCHARD試験のTR解析¹¹⁾では、 PD時に被験者から組織検体及び血漿検体を取得し、 オシメルチニブへの耐性機序を解析した。 組織検体単独では耐性機序不明が29%、 血漿検体単独では41%であったが、 双方を組み合わせることで14%まで減少させることができた。

>>ORCHARD試験のTR解析詳細を確認する

Clin Cancer Res. 2026 Mar 6.

同様に、 ELIOS試験¹²⁾でも、 組織検体+血漿検体の相補的使用により陽性率が27%向上することが示されている。

>>ELIOS試験の詳細を確認する

Clin Cancer Res. 2026 Mar 6.

耐性獲得後の治療の主要ターゲット

ELIOS試験¹²⁾のペア生検の解析では、 PD時にEGFR C₇₉₇SおよびMET増幅が新たに認められた一方、 EGFR増幅はみられなかった。 また、 オシメルチニブ投与前後で高いTROP2発現が維持されており、 ADCの有望な標的となることが示された。

また、 MSK-IMPACTデータベースを用いた解析¹³⁾では、 NSCLCの10%にMTAP欠失が認められた。 そのうち約48%がEGFR変異との共変異を有しており、 このサブグループではオシメルチニブの治療成功期間 (TTF) が短いことが報告された。

>>解析の詳細を確認する

J Thorac Oncol. 2026 Mar;21(3):103520.

耐性獲得後の有望薬剤

オシメルチニブ耐性獲得後の治療選択肢として、 Sacituzumab TirumotecanおよびIvonescimabが第Ⅲ相試験でPFS延長を示した。

ダトポタマブ デルクステカンおよびIzalontamab Brengitecanも第Ⅰ/Ⅱ相試験で有望な結果を示している。 これらの薬剤の多くが主に中国で開発が進められている。

リバイオプシーの重要性と課題

耐性獲得後の個別化治療を実現するためには、 組織生検およびリキッドバイオプシーを含むリバイオプシーの重要性がさらに高まると考えられる。 一方で、 最適な実施タイミングや頻度は依然として不明であり、 経済的観点からの保険償還など解決されていない課題も残っている。

出典

1) J Clin Oncol. 2026 Mar;44(7):e56-e88.

2) 肺癌診療ガイドライン -胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む- 2025年版

3) Yanagitani N. JSMO 2026

4) N Engl J Med. 2026 Jan 1;394(1):27-38.

5) Hayashi H. ESMO Asia 2025.

6) N Engl J Med. 2025 Oct 30;393(17):1681-1693.

7) Tamiya M. JSMO 2026.

8) Leighl NB. JCO 2024.

9) J Thorac Oncol. 2025 Oct;20(10):1517-1530.

10) Clin Lung Cancer. 2021 Nov;22(6):601-606.

11) Clin Cancer Res. 2026 Mar 6.

12) Cancer Discov. 2026 Mar 6.

13) J Thorac Oncol. 2026 Mar;21(3):103520.

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解説 : 千葉大・齋藤合氏

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