HOKUTO編集部
23日前
循環器領域における注目トピックやキーワードについて解説する連載。 第2回は、 慢性心不全の薬物療法について解説いただきます (解説医師 : 北海道大学 循環病態内科学教室 上原拓樹先生)。
心不全は 「心臓に器質的・機能的異常が生じて心ポンプ機能が破綻し、 呼吸困難や倦怠感、 浮腫などが出現し運動耐容能が低下する臨床症候群」 と定義される¹⁾。 「心不全」 は症候群の名称であり病名ではないため、 心不全と診断した際にはその原因 (基礎心疾患) と増悪因子を考え、 是正する必要がある。
一方で近年は、 心不全の原因に関わらず、 予後改善が確認された薬物が複数存在する。 このため、 慢性心不全に対しては早期に至適薬物療法GDMT (guideline-directed medical therapy) を確立することが重要と考えられている。
心不全の薬物療法を考える上で、 左室駆出率 (LVEF) における分類が重要である。 LVEFが低下した心不全をHFrEF、 LVEFが保たれた心不全をHFpEFという。 これらの中間 (LVEFが少し低下した心不全) をHFmrEFという。
LVEFのカットオフは報告によって異なるが、 40%未満をHFrEF、 50%以上をHFpEF、 40%以上50%未満をHFmrEFとすることが多い。
HFrEFにはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬 (ARNI)、 β遮断薬、 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRA)、 SGLT2阻害薬が使用される。 この4剤は"Fantastic 4"とも呼ばれる²⁾。
ARNIは現在、 サクビトリルとバルサルタンの合剤 (エンレスト®) が承認されている。 ARNIは従来のACE阻害薬などと比べてHFrEFの予後を有意に改善することが示されており³⁾、 HFrEFにおいては初期からARNIを導入を検討する⁴⁾。
高K血症と低血圧に注意して、 なるべく高用量での投与を目指す。
β遮断薬も、 用量依存性にHFrEFの予後改善効果が知られている。 心不全への有効性が報告されているのはカルベジロール (アーチスト®) とビソプロロール (メインテート®) である。
カルベジロールとビソプロロールの選択については、 ビソプロロールの方がβ1受容体選択性が高いが、 心不全に対してはどちらを選んでも構わない。 血圧と心拍数などを確認しながら、 高用量の投与を目指す。
MRAは、 利尿薬効果のほかに慢性心不全に対する予後改善効果が報告されている。 心不全に適応があるのはスピロノラクトン (アルダクトン®) とエプレレノン (セララ®) である。
スピロノラクトンとエプレレノンは、 どちらを使用しても構わない。 どちらも25mg/日から開始し、 高K血症などに注意して可能であれば50mg/日を維持量とする。
SGLT2阻害薬は本来、 尿として糖を排泄する糖尿病薬であるが、 心不全の予後改善効果が期待できるため、 糖尿病がなくても導入する。
慢性心不全に対する報告が多いのはダパグリフロジン (フォシーガ®) とエンパグリフロジン (ジャディアンス®) である。 尿から糖を排出する薬剤であるため、 栄養状態の悪化に注意し、 食事摂取量不良が続く場合には休薬する¹⁾。
ダパグリフロジンとエンパグリフロジンは、 どちらを使用しても構わない。 心不全への用量はいずれも10mg/日で、 増量はしない。
HFrEFに対しては有効な薬物療法が複数報告されている一方で、 HFpEFに対しては従来有効な薬物療法がなかった。
しかし、 SGLT2阻害薬のダパグリフロジンやエンパグリフロジンがHFpEFに対する心不全の予後改善効果が報告されたため、 欧州心臓病学会のガイドラインではこれらの薬剤をクラスⅠで推奨となった⁵⁾。
HFmrEFに対しても、 HFrEFほど十分な報告はない。 HFrEFに準じて"Fantastic 4"の4剤を導入することもあるが、 個々の症例をみて検討する。
SGLT2阻害薬についてはHFpEFでも有効性が確認されているため、 導入が推奨される。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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