【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報
著者

HOKUTO編集部

2ヶ月前

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報
神奈川県立がんセンターの廣島幸彦先生による新連載 「がん遺伝子パネル検査の基礎知識」 がスタートします。 第1回は 「検査で分かる変異情報」 です!

著者 : 廣島幸彦先生

神奈川県立がんセンターがんゲノム診療科 部長

2003年 浜松医科大学医学部医学科卒業、 横浜市立大学医学部消化器・腫瘍外科学入局。 2009年 横浜市立大学大学院消化器・腫瘍外科学 博士課程。 2011年 カリフォルニア大学サンディエゴ校留学、 FoundationOneを用いたPrecision medicineに関する研究に従事。 2014年 帝京大学ちば総合医療センター肝胆膵外科 助教。 2017年 横浜市立大学附属病院臨床腫瘍科 助教。 2019年 神奈川県立がんセンターがんゲノム診療科。 2022年4月 現職

はじめに

がん薬物療法のパラダイムシフト 「遺伝子異常を基にした個別化医療の時代」

がん薬物療法は、 従来の化学療法や内分泌療法、分子標的治療などに分類される。 化学療法でよく用いられる細胞障害性抗がん薬は、 正常細胞にも傷害を与えるため副作用が強い。 高齢者など脆弱な患者への適用は慎重に検討する必要がある。

分子標的治療は、 遺伝子変異などのがん細胞のみで生じている異常を標的とする。 そのため正常細胞への影響や副作用が少ないと考えられており、 近年、 新規薬剤の開発が目覚ましく行われている。

分子標的治療の適用判断には、 がん遺伝子パネル検査などのバイオマーカー検査が必要となることが多い。 本稿では、 がん遺伝子パネル検査の対象となる異常とバイオマーカーについて解説する。 

1. 塩基配列の異常

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

(1) 置換 substitution

塩基が他塩基に置き換わる異常

1つの塩基の置換を特に点突然変異 (point mutation) ともいう

(2) 挿入 insertion

余分な塩基が追加される異常

(3) 欠失 deletion

塩基配列の一部が失われる異常

(4) 挿入と欠失の組み合わせ indel

塩基の挿入・欠失がともに起こる異常

2. アミノ酸の変化

塩基配列に異常があると、 翻訳後のアミノ酸にも変化が起こることがある。

▼点突然変異から起こるアミノ酸変化

(1) ミスセンス変異

塩基が置換したことで、他アミノ酸になる変異

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

(2) ナンセンス変異

塩基が置換したことで終止コドンが生成され、 その後の転写が止まる変異

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

(3) サイレント変異

塩基が置換しても、 アミノ酸は変わらない変異

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報
編集部注 : サイレント変異はアミノ酸の変化が起こらないが、 点突然変異から起こるコドンの変化であるためここに記載した。

▼挿入・欠失から起こるアミノ酸変化

(4) インフレーム変異

塩基の挿入や欠失により、 読み枠はずれずにアミノ酸が挿入・欠失する変異

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

(5) フレームシフト変異

塩基の挿入や欠失により、 読み枠がずれ別のアミノ酸が生成される変異

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

なお、 ナンセンス変異とフレームシフト変異を合わせて短縮型変異 (truncating mutaion, truncation) と呼ぶこともある。

3. 遺伝子の異常

パネル検査の対象となる遺伝子の異常に、 コピー数異常 [copy number variation (alteration); CNV (A)] がある。

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

CNVは、 特定の遺伝子や遺伝子領域のコピー数が正常とは異なる状態を指す。 通常、 各遺伝子は2つのコピーを持っているが、 コピー数異常があると、 この数が増加 (増幅: Amp) したり、 減少 (欠失: Loss) したりする。

4. 染色体の変異

パネル検査の対象となる染色体の変異に構造変異 (structural variant; SV) がある。 DNAの構造が大規模に変化する。

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

(1) 重複 (duplication)

染色体の一部に重複が起こる。

(2) 転座 (translocation)

染色体の一部が他の染色体と融合する。

このような変異が、 がん遺伝子*¹やがん抑制遺伝子*²に生じると、 がんの発生や進行に影響を与えることがある。 
*¹正常な細胞の成長や分裂を促進する遺伝子。Gain of function (機能獲得変異) や活性化型変異、 Amp (増幅) によって過剰に活性化されると、 がんの発生や進行を促進する。
*²正常な細胞の成長や分裂を抑制する遺伝子。Loss of function (機能喪失変異) や短縮型変異、 Loss (欠失) によって機能を失うと、 がんの発生や進行が促進される。

パネル検査対象のバイオマーカー

マイクロサテライト不安定性 (MSI)

DNAの短い反復配列 (マイクロサテライト) の長さが変化する現象。 DNAミスマッチ修復遺伝子 (MLH1、 MSH2、 PMS2、 MSH6) *¹の異常によりおこる。 免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子となる。

*¹DNA複製中に発生する誤りを修正するための遺伝子群

腫瘍遺伝子変異量 (TMB)

腫瘍中に存在する全ての遺伝子変異の数。 一般的に、 非同義変異*²の数をtarget territory*³で割ったもの。 単位塩基配列あたりの変異数を表すmutation count/Mb (muts/Mb) で示す。免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子となる。

*²タンパク質のアミノ酸配列を変える変異のこと。
*³解析されたDNAの長さ。 単位はMb。
💡もともとは全エクソンシーケンスのデータで定義されていたが、 現在はがん遺伝子パネル検査で実施されているターゲットシーケンスでも用いられるようになった。

第2回では 「がん遺伝子検査と遺伝学的検査」 について解説する。

【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報

ポストのGif画像
【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報の全コンテンツはアプリからご利用いただけます。
臨床支援アプリHOKUTOをダウンロードしてご覧ください。
今すぐ無料ダウンロード!
こちらの記事の監修医師
こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

監修・協力医一覧
QRコードから
アプリを
ダウンロード!
HOKUTOのロゴ
HOKUTOのロゴ
今すぐ無料ダウンロード!
様々な分野の医師
様々な分野の医師
【新連載第1回】がん遺伝子パネル検査で分かる変異情報