HOKUTO編集部
2ヶ月前
神奈川県立がんセンターの廣島幸彦先生による新連載 「がん遺伝子パネル検査の基礎知識」 がスタートします。 第1回は 「検査で分かる変異情報」 です!
神奈川県立がんセンターがんゲノム診療科 部長
がん薬物療法は、 従来の化学療法や内分泌療法、分子標的治療などに分類される。 化学療法でよく用いられる細胞障害性抗がん薬は、 正常細胞にも傷害を与えるため副作用が強い。 高齢者など脆弱な患者への適用は慎重に検討する必要がある。
分子標的治療は、 遺伝子変異などのがん細胞のみで生じている異常を標的とする。 そのため正常細胞への影響や副作用が少ないと考えられており、 近年、 新規薬剤の開発が目覚ましく行われている。
分子標的治療の適用判断には、 がん遺伝子パネル検査などのバイオマーカー検査が必要となることが多い。 本稿では、 がん遺伝子パネル検査の対象となる異常とバイオマーカーについて解説する。
塩基が他塩基に置き換わる異常
余分な塩基が追加される異常
塩基配列の一部が失われる異常
塩基の挿入・欠失がともに起こる異常
塩基配列に異常があると、 翻訳後のアミノ酸にも変化が起こることがある。
▼点突然変異から起こるアミノ酸変化
塩基が置換したことで、他アミノ酸になる変異
塩基が置換したことで終止コドンが生成され、 その後の転写が止まる変異
塩基が置換しても、 アミノ酸は変わらない変異
▼挿入・欠失から起こるアミノ酸変化
塩基の挿入や欠失により、 読み枠はずれずにアミノ酸が挿入・欠失する変異
塩基の挿入や欠失により、 読み枠がずれ別のアミノ酸が生成される変異
なお、 ナンセンス変異とフレームシフト変異を合わせて短縮型変異 (truncating mutaion, truncation) と呼ぶこともある。
パネル検査の対象となる遺伝子の異常に、 コピー数異常 [copy number variation (alteration); CNV (A)] がある。
CNVは、 特定の遺伝子や遺伝子領域のコピー数が正常とは異なる状態を指す。 通常、 各遺伝子は2つのコピーを持っているが、 コピー数異常があると、 この数が増加 (増幅: Amp) したり、 減少 (欠失: Loss) したりする。
パネル検査の対象となる染色体の変異に構造変異 (structural variant; SV) がある。 DNAの構造が大規模に変化する。
染色体の一部に重複が起こる。
染色体の一部が他の染色体と融合する。
このような変異が、 がん遺伝子*¹やがん抑制遺伝子*²に生じると、 がんの発生や進行に影響を与えることがある。
DNAの短い反復配列 (マイクロサテライト) の長さが変化する現象。 DNAミスマッチ修復遺伝子 (MLH1、 MSH2、 PMS2、 MSH6) *¹の異常によりおこる。 免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子となる。
腫瘍中に存在する全ての遺伝子変異の数。 一般的に、 非同義変異*²の数をtarget territory*³で割ったもの。 単位塩基配列あたりの変異数を表すmutation count/Mb (muts/Mb) で示す。免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子となる。
第2回では 「がん遺伝子検査と遺伝学的検査」 について解説する。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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