HOKUTO編集部
12日前
がん薬物療法によって発現する悪心・嘔吐は患者が苦痛と感じる代表的な副作用であり、 癌治療においてはその適切な制御が重要な意味を持ちます。 本シリーズでは代表的な制吐療法について、 エビデンスと実臨床での使い方に分けて解説します。 ぜひ参考としてください (第1回解説医師 : 国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科/消化管内科 山本駿先生)。
近年、 がん薬物療法の進歩は目覚ましく、 新たな標準治療が日進月歩のスピードで生み出されている。 一方で、 がん薬物療法に対する支持療法の開発も着実に進められており、 特に悪心・嘔吐に関しては、 オランザピン¹⁾やホスネツピタント²⁾の臨床導入などが進められている。 今回のシリーズではさらに制吐薬の理解を深めることを目的に、 薬剤別にエビデンスと実臨床への応用に着目して取り上げる。 まず第1回目の本稿では、 NK₁受容体拮抗薬のエビデンスに焦点をあてて概説する。
抗癌薬の悪心・嘔吐の発生機序として、 第4脳室最後野の化学受容体引金帯に存在するニューロキニン1 (NK₁) 受容体と、 消化管に主に発現するセロトニン3 (5-HT₃) 受容体の両方に抗癌薬による刺激が加わることで発症するとされている。 そのため、 そのうちの一つであるNK₁受容体を遮断することで制吐効果を示す薬剤が、 NK₁受容体拮抗薬である。
本邦の実臨床で用いられている薬剤として、 アプレピタント (ホスアプレピタント)、 ホスネツピタントがある³⁾。
アプレピタントはNK₁受容体拮抗薬に分類される制吐薬でカプセル製剤であり、 一般に初日に125mg/日、 2~3日目に80mg/日の用量が内服で用いられる。 一方、 ホスアプレピタントは注射薬で、 初日に150mg/日の用量が用いられる。
アプレピタントに関しては、 約20年前にシスプラチンを70mg/m²以上用いるがん薬物療法を受ける予定の癌患者を対象として、 5-HT₃受容体拮抗薬とデキサメタゾンへのアプレピタントの上乗せ効果を検証したプラセボ対照の第Ⅲ相無作為化比較試験が実施された。 本試験には530例が登録され、 アプレピタント群に264例、 プラセボ群に266例が1:1で割り付けられた。
主要評価項目である120時間の嘔吐完全抑制割合は72.7% vs 52.3%と報告され、 アプレピタント群の優越性が証明された (p<0.001)。 加えて、 急性期の嘔吐完全抑制割合は89.2% vs 78.1%、 遅発期の嘔吐完全抑制割合は75.4% vs 55.8%と、 どの時期においてもアプレピタント群で良好な結果だった。
また頻度の高い有害事象として、 疲労が17.2% vs 9.5%、 便秘が8.0% vs 12.1%、 吃逆が13.8% vs 6.8%で報告されている⁴⁾。
注射薬であるホスアプレピタントに関しては、 約10年前にシスプラチン70mg/m²以上を用いるがん薬物療法を受ける予定の癌患者を対象として、 5-HT₃受容体拮抗薬とデキサメタゾンへのホスアプレピタントの上乗せ効果を検証したプラセボ対照の第Ⅲ相無作為化比較試験が国内で実施された。 本試験には347例が登録され、 ホスアプレピタント群に174例、 プラセボ群に173例が1:1で割り付けられた。
主要評価項目である120時間の嘔吐完全抑制割合は64% vs 47%と報告され、 ホスアプレピタント群の優越性が証明された (p=0.0015)。 なお、 急性期の嘔吐完全抑制割合は94% vs 81%、 遅発期の嘔吐完全抑制割合は65% vs 49%と、 こちらの試験でも、 どの時期においてもホスアプレピタント群で良好な結果だった。
またホスアプレピタントに関しては、 注射部位反応が23.6%で報告されており、 具体的には注射部位疼痛が15.5%、 注射部位紅斑が5.2%で確認された⁵⁾。
ホスネツピタントは、 ホスアプレピタントと同様のNK₁受容体拮抗薬に分類される制吐薬であるが、 血中半減期が約70時間とホスアプレピタント (約14時間) と比較して長い薬剤である。
このホスネツピタントの有効性を検証した試験がCONSOLE試験であり、 シスプラチン 70mg/m²以上を用いる化学療法を受ける予定の癌患者を対象として、 5-HT₃受容体拮抗薬とデキサメタゾンをベースに、 ホスネツピタントのホスアプレピタントに対する非劣性を検証した二重盲検第Ⅲ相無作為化比較試験である。 CONSOLE試験には795例が登録され、 ホスネツピタント群に397例、 ホスアプレピタント群に398例が1 : 1で割り付けられた。
主要評価項目である120時間の嘔吐完全抑制割合は75.2% vs 71.0%と報告され、 ホスネツピタント群の非劣性が証明された。 なお、 急性期の嘔吐完全抑制割合は93.9% vs 92.6%、 遅発期の嘔吐完全抑制割合は76.8% vs 72.8%と、 どの時期においても両群でほぼ同等の制吐効果が報告されたが、 特に120~168時間の遅発後期における嘔吐完全抑制割合は86.5% vs 81.4%と、 ホスアプレピタント群で若干良好な傾向だった。
また注射部位反応に関しては、 ホスネツピタント群で11.0%、 ホスアプレピタント群で20.6%と報告され、 ホスネツピタント群で頻度が低下していた (p<0.001)²⁾。
今回の原稿では、 NK₁受容体拮抗薬に関連する主要なエビデンスに関して概説した。 次回は実臨床における具体的な使い方に関して共有する。
第1回:総論編
第2回:高催吐レジメン編
第3回:中催吐レジメン編
第4回:軽度・最小度催吐性レジメン編
第5回:新規開発薬ホスネツピタント
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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