Eckらは, 急性期入院患者に対する静脈血栓塞栓症 (VTE) 予防のための抗凝固薬の種類と用量の違いによる有益性と有害性をシステマティックレビューとネットワークメタ解析で評価. その結果, 中等量の低分子ヘパリンはVTE予防の上で有益性と有害性のバランスに優れ, 未分画ヘパリンと直接経口抗凝固薬 (DOAC) は大出血を増加させる可能性が高いことが明らかとなった. 本研究はBMJ誌において発表された.
📘原著論文
Eck RJ, et al, Anticoagulants for thrombosis prophylaxis in acutely ill patients admitted to hospital: systematic review and network meta-analysis. BMJ. 2022 Jul 4;378:e070022. PMID: 35788047
👨⚕️HOKUTO監修医コメント
中等量の低分子ヘパリンはVTE予防の上で有益性と有害性のバランスに優れる、というのは受け入れやすい結果ですね.
研究デザイン
- 対象:入院中の急性期成人患者のVTE予防において, 低・中等量の低分子ヘパリン, 低・中等量の未分画ヘパリン, DOAC, 五糖類, プラセボまたは介入なしを評価した公開および未発表のRCT.
- データソース:Cochrane CENTRAL, PubM/Medline, Embase, Web of Science, 臨床試験レジストリ, 国内医療機関のデータベース.
- 主要評価項目:全死因死亡, 症候性VTE, 大出血, 90日時点またはそれに最も近いタイミングの重篤な有害事象.
- バイアスのリスクはCochrane risk-of-bias 2.0ツールを用いて評価.
- エビデンスの質は, Confidence in Network Meta-Analysisのフレームワークを用いて評価.
研究結果
- 44のRCT (90,095名) が, 主解析に含まれた.
有効性評価
- いずれの介入もプラセボと比較して全死因死亡を減少させないことが示唆された (エビデンスレベル:低~中程度) .
- 以下の介入は症候性VTEを減少させる可能性が高かった (エビデンスレベル:非常に低い~低い) .
- 五糖類 (OR 0.32, 95%CI 0.08~1.07) ,
- 中等量低分子ヘパリン (OR 0.66, 95%CI 0.46~0.93) ,
- DOAC (OR 0.68, 95%CI 0.33~1.34) ,
- 中等量未分画ヘパリン (OR 0.71, 95%CI 0.43~1.19) は,
- 以下の介入は大出血を増加させる可能性が高かった (エビデンスレベル:低~中程度) .
- 中用量未分画ヘパリン (OR 2.63, 95%CI 1.00~6.21)
- DOAC (OR 2.31, 95%CI 0.82~6.47)
安全性評価
- 重篤な有害事象に関しては, 介入間で決定的な差は認められなかった (エビデンスレベル:非常に低い~低い) .
- プラセボの代わりに介入を行わない場合と比較すると, すべての積極的介入はVTEのリスクと死亡率に関しては有利に働き, 大出血のリスクに関しては不利に働いた.
- この結果は事前に指定された感度分析およびサブグループ分析においても強固であった.
結論
- 中等量の低分子ヘパリンは, VTE予防において有益性と有害性のバランスが最も優れていると思われる. 未分画ヘパリン (特に中等量) とDOACは, 最も好ましくない介入であった.
- プラセボまたは無介入のいずれを基準治療とするかによって, 介入効果に系統的な不一致が認められた.
- 本研究の限界は, 不精確さと研究内バイアスのために全般的にエビデンスレベルが低~中程度であったこと, および非一貫性であり, これは事後解析で対処された.