【解説】重症・難治性喘息への対応~生物学的製剤の特徴と使い分け~
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HOKUTO編集部

2年前

【解説】重症・難治性喘息への対応~生物学的製剤の特徴と使い分け~

【解説】重症・難治性喘息への対応~生物学的製剤の特徴と使い分け~

ポイント

  1. 生物学的製剤の出現で、 気管支喘息の表現型タイプ分けへの注目がより高まっている。
  2. 生物学的製剤は表現型によっては全身性ステロイドあるいは高用量の吸入ステロイド投与より前に検討する治療である。
  3. 重症喘息に使用できる生物学的製剤は5剤となり、 その使い分けについて最低限の知識は研修医、 後期研修医でも必須である。
  4. 気管支喘息はリウマチやアトピー同様、「免疫抑制剤がほぼ不要」な疾患になっていく。

生物学的製剤の検討タイミング 〜難治性喘息は身近に存在する!〜

難治性喘息とは「身の回りのことが何もできないほど重症で毎日ステロイドが必要な人」のみを指すのではない。

現在日本のガイドラインで喘息のコントローラー加療は①ICS/LABA ②ICS/LABA/LAMA ③LTRA (抗ロイコトリエン拮抗薬) の3本柱で示されている (図1)。 その中でもLTRAは、気管支喘息そのものというより鼻症状を中心とした気管支喘息の特定の表現型に推奨されている。 なお、 キサンチン誘導体は近年、 良好なエビデンスがない。

【解説】重症・難治性喘息への対応~生物学的製剤の特徴と使い分け~
喘息診療実践ガイドライン2022を基に筆者作図

専門医へ紹介するべき気管支喘息患者≒"難治性喘息患者”である。 高用量吸入ステロイドや全身性ステロイドをコントローラーとして使用する前に生物学的製剤を検討する必要がある表現型の気管支喘息が存在するからである。

気管支喘息に適応のある薬剤?〜喘息のタイプ分けが進んできた!〜

気管支喘息といえば、 こどもで花粉症やアトピーを合併していて…そんなイメージをお持ちの方も多いのではないだろうか?

気管支喘息は実は明確な診断基準がない

気道の慢性炎症あるいは気道過敏性を呈する疾患という2本柱で考えられている¹⁾。 以前はあまり表現型の解析が進んでいなかった→治療方法の選択に影響がなかった≒疾患特異的な治療がなかった。

しかし、 生物学的製剤の開発により“表現型特異的な治療≒Precision medicine”が気管支喘息の領域でも飛躍的に進んだ!

本来気管支喘息は図2のように、 ピュアな単一の表現型で構成されている患者もいるが、 多くは複数の表現型を、 内包した疾患概念であり、 日本人でも表現型分類を目的としてクラスター解析が複数行われてきた²⁾。

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筆者作図

古くはこの表現型の多くに効果のある治療薬が気管支喘息の治療として重要と判断されており、 それらがステロイド、 気管支拡張薬であった。 しかし、 生物学的製剤の出現により“Th2炎症”を持つ気管支喘息のタイプが急速に注目を集めた。

Th2は、アレルギー性と好酸球性を大まかに合わせた炎症疾患概念と本稿では考えて頂きたい。

気管支喘息の生物学的製剤5つの使い分け~喘息のタイプ分を基に〜

先発の生物学的製剤 (Oma、Mepo、Benra、Dupi) がすべてTh2関連炎症マーカー(好酸球、 FeNO、 IgE)の高値の患者に効果が期待できる生物学的製剤であったために重症喘息の中でHigh Th2とLow Th2を分類するという考え方が急速に広まった (図3)。

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Th2を標的とする生物学的製剤

具体的にはコマーシャルベースで測定することが可能な好酸球、 IgE、 呼気NOの数値が高値であれば、 生物学的製剤を推奨しLow Th2が示唆されるような結果であれば、 気管支温熱療法などを推奨することがガイドラインでも示された³⁾。 このTh2 targetedな生物学的製剤は気管支喘息の患者さんを多く救ったが、 Th2陽性の患者の中でその使い分けについては現在も明確な指針はない。

Omalizumabでは明確な効果を期待するバイオマーカーがなく、 Mepolizumab、 Benralizumab、 Dupilumabでは効果を期待できるバイオマーカーがほぼ同様という問題がある。 そのためTh2バイオマーカーは生物学的製剤の“導入”の指針になっているが、 “選択”の指針になっていない。 自己皮下注の希望や合併症の種類によって選択されているのが実情である。

Omalizumabのlow type2患者への治療、 Benralizumabと好塩基球の関係、 DupilumabにおけるIL-13の特性に注目した研究などもあるがどれも小規模でさらなるエビデンスの構築が待たれる。

Tezepelumabへの期待

5剤目として使用できるようになったTezepelumabは既存の4剤と大きく異なり“High Th2、 Low Th2”双方への効果が期待できるエビデンスがある⁴⁾Tezepelumabは、 一見“すべての気管支喘息の患者”に福音をもたらす可能性を秘めいているが、 実臨床におけるエビデンスの構築が待たれる。

特に気管支喘息の大きな柱である「慢性炎症」のみでなく既存の生物学的製剤でデータのなかった「気道過敏性」の改善データを持つ製剤であり、 生物学的製剤出現が“2型炎症”への理解を急速に進めたように、 さらに気管支喘息の表現型の細分化が期待される。

まとめ

  • 生物学的製剤の出現で、 気管支喘息の細分化が急速に進んでいる。
  • 「気管支喘息に効く薬剤」ではなく、 「どのタイプの気管支喘息に効果があるのか?」という意識が重要。
  • どの領域も深淵化しており若手の先生の負担は増すばかりだが、 それだけ先生方の目の前の患者が救われる。 研鑽を期待します。

参考文献

  1. 「喘息予防・管理ガイドライン2021」作成委員. 喘息予防・管理ガイドライン2021. 一般社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会監修, 協和企画, 東京, 2021
  2. Asthma Phenotypes in Japanese Adults - Their Associations with the CCL5 ADRB2 Genotypes. Allergol Int. 2013;62(1):113-121. PMID: 28942984
  3. 一般社団法人日本喘息学会. 喘息診療実践ガイドライン2022. 相良博典, 東田有智監修, 協和企画, 東京, 2022
  4. Tezepelumab in Adults and Adolescents with Severe, Uncontrolled Asthma.N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1800-1809.PMID: 33979488
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こちらの記事の監修医師
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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