HOKUTO編集部
3ヶ月前
がん関連静脈血栓塞栓症 (CA-VTE) は、 がん患者の死因や予後不良因子として重要です。 本連載ではCA-VTEについて、 福井大学の今村善宣先生にレクチャーしていただきます。 第1回では、 病態や疫学を学びましょう!
2003年 慶應義塾大学総合政策学部卒業
2009年 福井大学医学部医学科卒業
福井県立病院 初期臨床研修医
2011年 神戸大学医学部附属病院腫瘍・血液内科
2015年 同大学大学院医学研究科修了
博士号 : 腫瘍・血液内科学
2024年 現職
血栓塞栓症はがん救急*の1つに数えられる、 臨床的に重要な疾患である。 血栓塞栓症ががん診断に先立つこともあり、 注意を要する。
また、 血栓塞栓症はがん患者の死因第2位であり、 直接的な死因になり得る¹⁾。
静脈血栓塞栓症と (CA-VTE) と動脈血栓塞栓症 (CA-ATE) に大別される。
CA-VTEには、 肺動脈塞栓症(PE)と深部静脈血栓症 (DVT)が含まれる。 また、 症状の有無により症候性と無症候性に区別される。
がんは種々の経路を介して血栓を誘発する 「過凝固準備状態」 にある。 以下の発症メカニズムが知られている²⁾。
がん化の過程で、 組織因子の発現が亢進される。 また、 選択的スプライシングにより可溶性組織因子が生成され、 がんの増殖や血管新生を促進している。
がん由来のマイクロパーティクルは、 血小板などと膜の融合を通じてRNA情報を伝達し、 がんの進展に関与する。
上皮間葉転換によって可塑性と運動性を得た循環がん細胞は、 フィブリンや血小板と結合してがん-フィブリン-血小板凝集塊を形成する。
この凝集塊は、 がん細胞が脆弱性を克服し免疫監視機構から逃れる手段である一方で、 宿主の止血機構に大きな負担をかける。
がんの進展と組織因子を関連づけるとともに、 がんに伴う播種性血管内凝固の発症にも関与する。
日本人における、 VTEの最多の発症要因はがん (27%) である³⁾。
VTEはがん患者の直接死因になるばかりでなく、 予後不良因子の側面を持っており、 全死亡に関するハザード比は3.23と報告されている⁴⁾。
がん患者のVTEリスクは、 一般集団よりも4~7倍高いとされている。 リスクはがんの経過によって変動し、 初回診断~入院中および再発後で最もリスクが高い。
がん患者のVTEリスクは、 患者関連因子、 がん関連因子、 治療関連因子という3つの側面から評価することが重要である⁶⁾。
また、 VTEの古典的リスクとしてVirchowの三徴 (血流異常、 凝固異常、 血管内障害) が知られている⁷⁾が、 がん患者はこれらの因子が積み重なっていると捉えることもできる。
白人のVTEの遺伝的背景として、 第V因子ライデン変異が注目されてきた。 日本人ではこの変異がないため、 日本人の発症率は白人のVTE発症率に比べて低いと長年信じられてきた。
しかし、 本邦で実施された複数の大規模コホート研究の結果、 少なくともがん患者においては、 VTE有病率は白人と同程度であることが明らかになった。
Cancer-VTE registry研究では、 StageIVのがん患者の治療前有病率は11.2%であった⁸⁾。
診断時にDVT陰性であっても、 定期的な下肢静脈超音波検査により、5人に1人は経過中にVTEを発症することが神戸大学より報告されている⁹⁾。 なお、 このリスクはがん種や組織型によらなかった。
がん患者の増加と治療成績の向上により、 がん関連VTEの発症頻度は当面増加し続ける見通しである。 2030年代後半のCA-VTE患者は、 2010年代後半と比べて26%増加すると推定されている¹⁰⁾。
CA-VTEの発症予測について、 推奨可能な確立したバイオマーカーは存在しない。
VTE診断において、 D-dimerは感度は高いが特異度は低いマーカーとして知られている*が、 がん患者の場合はがんの存在自体がD-dimerを陽性にすることが多いため、 診断能が低下している。
外来化学療法中のがん患者のVTE発症予測として、 Khorana risk scoreの有用性が確立している¹²⁻¹³⁾。
メタ解析でも、 低リスク~高リスクの3分類が支持されている¹³⁾。また、 日本人コホートにおいても、 Khorana risk score分類の有用性が確認されているが、 BMIのカットオフ値は25kg/m²の方が適切な可能性がある¹⁴⁾。
がんの進展と血栓傾向は深く結びついており、 がん患者のVTE発症リスクが高いのは必然である。 がん患者ではVTEの可能性をいつも念頭に置いて診察し、 患者教育を怠らないことが重要である 。
2024年4月に、地元福井大学に異動しました。臨床腫瘍学、血液内科学、腫瘍循環器学、がんゲノム医療、リアルワールド研究と多角的な活動をしています。学生・初期研修医・後期研修医、 Uターンをご検討中の先生、 どなたでも大歓迎です。 ぜひお気軽にお問い合わせください。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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