【韓国vs日本】食道癌の標準的な治療選択の違いは? (韓国延世大学ワークショップ)
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HOKUTO編集部

7ヶ月前

【韓国vs日本】食道癌の標準的な治療選択の違いは? (韓国延世大学ワークショップ)

【韓国vs日本】食道癌の標準的な治療選択の違いは? (韓国延世大学ワークショップ)

はじめに

本邦における食道癌診療は、 偉大な先生方の努力により、 手術においては頸・胸・腹部の3領域郭清術が確立され、 薬物療法においてはドセタキセルとシスプラチン、 5-FU併用 (DCF) 療法が日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) を中心に開発され、 最終的に標準的な術前治療として確立された。

一方、 本邦の隣国である韓国や台湾においては、 欧米で行われたCROSS試験等を背景に、 食道癌の標準的な周術期治療として術前化学放射線療法が広く行われており、 JCOG1109試験の発表後も標準治療が異なる現状がある。

今回、 韓国のYonsei大学のワークショップで講演を行い、 各国のエキスパートと議論する機会をいただいたことから、 その内容を自身の講演と絡めながら共有する。

【韓国vs日本】食道癌の標準的な治療選択の違いは? (韓国延世大学ワークショップ)

1. JCOG trials in neoadjuvant or adjuvant settings

JCOG食道癌グループは1978年に設立された研究グループであり、 食道癌の約50~60%を占める切除可能な局所進行食道癌に対する治療開発を中心に行ってきた。 当初は有効な周術期治療が確立されておらず、 頸・胸・腹部の3領域リンパ節郭清術を伴う食道切除術が標準治療であった。

術後CF療法:JCOG9204

そのような中、 シスプラチンと5-FU併用 (CF) 療法の開発が進められ、 無治療経過観察と術後CF療法を比較したランダム化第III相試験であるJCOG9204試験が実施された。 この試験の主要評価項目である無病生存期間において、 無治療経過観察群と比較して術後CF療法群は有意な延長を証明し、 特に病理学的リンパ節転移陽性例でその有効性が示唆された。 この結果から、 切除可能な局所進行食道癌の術後、 病理でリンパ節転移陽性例においては術後CF療法が標準治療として確立した。

術前CF療法:JCOG9907

その後、 最適な周術期治療のタイミングを明らかにするために、 術前CF療法と術後CF療法を比較したランダム化第III相試験であるJCOG9907試験が実施された。 この試験の主要評価項目である無増悪生存期間に関しては両群で有意差を認めなかった (HR 0.84、 95%CI 0.63-1.11) ものの、 副次評価項目である全生存期間 (OS) に関しては、 術後CF療法と比較して術前CF療法群は有意な延長を示した (HR 0.73、 95%CI 0.54-0.99) 。 

この結果から、 切除可能な局所進行食道癌に対して、 術前CF療法と手術が標準治療として確立した。

術前DCF療法:JCOG1109

しかし、 JCOG9907試験のサブグループ解析で、 cT3症例やcStage Ⅲ症例においては、 治療効果が限定的であることが示唆されており、 5年OS割合が55%であったことから、 さらなる強度の高い周術期治療が希求されていた。 そのような中で、 術前DCF療法や、 術前CFと放射線併用 (CF-RT) 療法が開発され、 術前CF療法を対照群として、 術前DCF療法、 術前CF-RT療法を比較したランダム化第III相試験であるJCOG1109試験 (NExT) が実施された。 

この試験の主要評価項目であるOSにおいて、 術前CF療法群と比較して術前DCF療法群は有意な延長を証明した (HR 0.68、 95%CI 0.50-0.92) が、 術前CF-RT療法群は有意差を認めなかった (HR 0.84、 95%CI 0.63-1.12) 。 

この結果から、 切除可能な局所進行食道癌に対して、 術前DCF療法と手術が標準治療として昨年確立した。

術前DCF/DCF療法+ニボルマブ:JCOG1804E

しかしながら、 JCOG1109試験における術前DCF療法群の5年OS割合は66%であり、 さらに強度を高めた治療法が求められていたことから、 術前CF療法、 または術前DCF療法、 術前FLOT療法にニボルマブを上乗せした治療法の第I相試験であるJCOG1804E試験 (FRONTiER) が実施されている。 

現在まだ最終結果は報告されていないが、 術前CFとニボルマブ療法群と術前DCFとニボルマブ療法群においては、 病理学的完全奏効割合 (pCR) が7.7%、 25.0%と有望な結果が報告されている。

術後ニボルマブ vs S-1:JCOG2206

一方、 2021年にCheckMate 577試験の結果から、 術後ニボルマブ療法が保険診療下で使用可能となったが、 術前化学療法後のnon-pCR例におけるデータは存在しないことや、 術後S-1療法が第II相試験で有望な結果を示したことから、 最適な術後治療の確立を目的に、 術後無治療経過観察を対照に、 術後ニボルマブ療法、 術後S-1療法を比較するランダム化第III相試験であるJCOG2206試験 (SUNRISE) が今年より開始された。

発表後の質問として、 韓国の研究者より「術前化学放射線療法の方が術前DCF療法よりも腫瘍縮小が得やすいのでは?」との指摘があった。

実際にpCR割合はCF-RT群で36.7%、 DCF群で18.6%であり、 臨床的な肌感覚として同意する内容であったが、 長期的にはOSで予後の延長が期待できるのはDCF療法であり、 CF-RT療法の選択は一般には行われないなどの議論が行われた。

発表後にYonsei大学の腫瘍内科医と話したが、 ほぼ全例がCROSSレジメンで治療が行われていること (DCF療法は数例だけしか経験ないとのこと) や、 韓国では術後ニボルマブ療法がいまだ保険承認されていないなど、 各国の実臨床の状況が大きく異なることが改めて浮き彫りになった。

2. Immuno-oncology for ESCC

切除不能ESCC

切除不能な進行食道扁平上皮癌(ESCC)に対する有効な薬物療法は長らく、 フッ化ピリミジン系、 プラチナ系、 タキサン系薬剤と種類が限定的で、 治療効果もOS中央値が約10ヵ月と不良であった。 そのような中で、 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有効性がKEYNOTE-180試験やATTRACTION-1試験で示唆されたことから、 2次治療例を対象に第III相ランダム化比較試験であるKEYNOTE-181試験やATTRACTION-3試験が行われた。

ペムブロリズマブとニボルマブ

KEYNOTE-181試験ではペムブロリズマブの有効性が検証されたが、 最終的に主要評価項目では対照群と比較して優越性を証明できず、 食道扁平上皮癌かつPD-L1陽性 (CPS10以上) 例で有効性が示唆されたことから、 この対照に限って実臨床で使用可能となった。 

一方、 ATTACRION-3試験では主要評価項目であるOSに関して、 タキサン群と比較してニボルマブ群で有意な延長を認めたこと (HR 0.77、 95%CI 0.62-0.92]から、 ニボルマブは食道扁平上皮癌の標準的な2次治療として確立された。 

CF+ペムブロリズマブ/ニボルマブ、さらにレンバチニブやTAS-102の追加

その後に行われた1次治療におけるICIの有効性を検証した KEYNOTE-590試験やCheckMate 648試験において、 CF療法と比較して、 CFとペムブロリズマブ療法 (HR 0.73、 95%CI 0.62-0.86) 、 CFとニボルマブ療法 (HR 0.74、 99.1%CI 0.58-0.96) 、 ニボルマブとイピリムマブ療法 (HR 0.78、 98.2%CI 0.62-0.98) はそれぞれOSの有意な延長を証明した。 

しかし、 これらの治療法のOS中央値はいまだに約1年であり、 現在、 レンバチニブを初回治療に上乗せした治療法の優越性を検証するLEAP-014試験や、 TAS-120を初回治療に上乗せした治療法の第I相試験等が進行中である。

抗PD-L1抗体、 抗TIGIT抗体による検討も

切除不能なESCCに対する標準治療は化学放射線療法であるが、 いまだに予後は限定的であり、 抗PD-L1抗体アテゾリマブを上乗せした治療法を検討したTENERGY試験や、 ニボルマブを上乗せした治療法の安全性を検討したNOBEL試験、 ペムブロリズマブを上乗せした治療法を検証するKEYNOTE-975試験、 抗PD-L1抗体デュルバルマブを上乗せした治療法を検証するKUNLUN試験、 後療法としてのアテゾリズマブ、 抗TIGIT抗体tiragolumabを検証するSKYSCRAPER-07試験が行われている。 

TENERGY試験は既に報告されており、 主要評価項目であるcCR割合が42.1%と事前の規定を上回った。 今後の第III相試験の結果次第では標準治療にICIが組み込まれる可能性をどの試験も秘めている。

切除可能ESCC

切除可能な局所進行ESCCに関してもICIの開発は進められており、 術前化学放射線療法にペムブロリズマブを上乗せした治療法を検討した第I相試験であるPALACE-1試験ではpCR割合が56%と有望な結果が報告されていたが、 Yonsei大学が行った試験ではpCR割合が23%にとどまるなど、 ICIの上乗せ効果について一貫した結果が得られていない。 

一方で術前化学療法に関してはFRONTiER試験も含めどの治療開発においても、 約10%のpCRの上乗せが示唆されており、 ある程度一貫した傾向が報告されている。

発表後には、 韓国の研究者より「JCOG試験はなぜ第I相試験も含めて試験完遂し、 positiveな結果が多いのか?」との質問があったが、 早期から後期相のいずれにおいても、 対象症例設定や選択、 課題選択、 登録促進における事務局の熱意等が考えられた。 また台湾の研究者からは、 「1次治療開始前に評価するバイオマーカーは?」との質問があり、 現状本邦の保険システムではPD-L1発現のみとなると考えられた。

最後に

現在医師10年目に入り、 臨床や研究、 教育に従事する日々が続いているが、 大学生や初期研修の時には全くイメージできなかった環境に足を踏み入れている。 しかし、 この環境は自分の可能性をさらに広げられる二度と無いチャンスと考え、 このような海外での講演等も含めて、 これからもチャレンジを続けていきたいと考えている。

いろいろなキャリア形成や過程、 目標等がHOKUTOのユーザーの皆様にはあるだろうが、 私の経験が皆様の今後のキャリア形成の参考になれば幸いである。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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