【膠原病に伴うILD 診療指針2025】多発性筋炎 / 皮膚筋炎併発ILDの改訂点は?
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HOKUTO編集部

23日前

【膠原病に伴うILD 診療指針2025】多発性筋炎 / 皮膚筋炎併発ILDの改訂点は?

【膠原病に伴うILD 診療指針2025】多発性筋炎 / 皮膚筋炎併発ILDの改訂点は?
『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療の指針2025』 (日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同編) ¹⁾が、 2025年4月に発刊された。 第65回日本呼吸器学会では、 本指針の編集委員である東海大学医学部付属八王子病院内科学系リウマチ内科学特任教授の佐藤慎二氏が、 同書中の各論である 「多発性筋炎 / 皮膚筋炎に併発する間質性肺疾患 (PM / DM-ILD) 」 に関する改訂ポイントを解説した。

PM/DM-ILD治療アルゴリズムの全体像

2025年版におけるPM / DM-ILD治療アルゴリズムの全体像は、 急性・亜急性型と慢性型の2つに大別された。 佐藤氏によれば、 急性・亜急性型の重症度判定や重症度別の治療推奨や開始のタイミング、 慢性型の線維化抑制のための治療推奨など、 前版 (2020年版) に比べてより実臨床に即した具体的な治療アルゴリズムへアップデートされているという。

佐藤氏は今回、 急性・亜急性型のPM / DM-ILDと慢性型PM / DM-ILDの治療の流れにおける変更点について解説を行った。

急性・亜急性型の改訂点

RP-ILD・非RP-ILDの鑑別を追加し、 治療法を層別化

2020年版の急性・亜急性型PM / DM-ILD治療アルゴリズム (案) では、 最初に 「急性あるいは亜急性か」 を見極めることが推奨されていた。 2025年版では急性・亜急性型と判断した患者において、 予後不良である 「急速進行性ILD (RP-ILD) 」 であるか否かを初期段階で判断することが推奨されている。

2025年版において、 RP-ILDは

 「原疾患以外の原因を除外のうえ、 室内気またはベースラインの酸素必要量から、 数日~数週間以内に高用量の酸素需要または気管内挿管を要する状態へ急速に進行するILD」 

と定義。 また、 前版に引き続き 「身体所見・画像所見より予後不良と想定される場合は、 抗MDA5抗体の結果を待たず早期に3剤併用療法を開始してよい」 ことも明記されている。

予後不良因子の評価指標を明示

急性・亜急性型PM / DM-ILDの予後不良因子として、 以下の5項目が明示された。 下記因子が複数認められる場合は治療抵抗性が高いとされる。

  1. 60歳以上
  2. SpO₂<95%
  3. CRP≧1mg / dL
  4. フェリチン≧500mg / dL
  5. KL-6≧1,000U / mL

佐藤氏は、 「これらの予後不良因子を基に患者の重症度と予後を評価し、 治療強度および治療開始のタイミングを適切に判断することが大切だ」 と述べた。

抗MDA5抗体の有無による治療分岐と新たな選択肢

今回の改訂により、 急性・亜急性型PM / DM-ILDの治療については、 RP-ILDであるか否かに加えて,抗MDA5抗体の陽性 / 陰性によって治療方針が以下の①~④の通り細分化された。 佐藤氏は 「急性 / 亜急性型においては、 3剤併用療法以外の具体的な治療選択肢とECMO / 肺移植の導入についても明記された点が大きな特徴といえる」 と説明した。


①RP-ILD / 抗MDA5抗体陽性例

RP‑ILDかつ抗 MDA5 抗体陽性例には、 メチルプレドニゾロン (mPSL) パルス療法先行を含む初期3剤併用療法 (高用量グルココルチコイド (GC) : プレドニゾロン [PSL] ) +カルシニューリン阻害薬(CNI : タクロリムス (TAC) またはシクロスポリン [CYA]*) +間歇的シクロホスファミド静注療法 (IVCY) が推奨され、 その後2週間以内に血漿交換療法 (PE) の併用が考慮される。

また、 3剤併用療法+血漿交換療法が無効の場合は、 これまで有効性が報告されているトファチニブ (TOF) などのJAK阻害薬、 リツキシマブ (RTX)、 ミコフェノール酸モフェチル (MMF)、 免疫グロブリン静注 (IVIG)、 ポリミキシンB固定化カラムによる直接血液灌流法 (PMX-DHP) の追加あるいはスイッチが選択される。 なお、 各治療法においてエビデンスに基づいた優先順位は明記されていない。

上記の治療を実施しても無効の場合は肺移植の検討が推奨され、 橋渡しとしてECMOを導入する選択肢も明記された。

*2025年版では、 臨床研究の結果と保険収載の観点よりタクロリムス併用が推奨されている。

②RP-ILD / 抗MDA5抗体陰性例

RP‑ILDかつ抗 MDA5 抗体陰性例には、 抗MDA抗体陽性例と同様の3剤併用療法による治療を継続し、 反応性が良好の場合は、 高用量GC (PSL) + TAC (またはCYA) の2剤併用を継続し、 IVCYの早期終了も許容される。 反応不十分あるいは無効の場合は、 TOFなどのJAK阻害薬、 RTX、 MMF、 IVIG、 PMX-DHPなどの追加あるいはスイッチが選択される。


③非RP-ILD / 抗MDA5抗体陽性例

非RP‑ILD / 抗 MDA5 抗体陽性例で予後不良因子を伴う症例では、 RP-ILDと同様に3剤併用療法が選択肢として明記された。 導入後も増悪が認められる場合は、 PEの併用が考慮される。 これらの治療を実施しても無効の場合は、 他の治療薬の追加あるいはスイッチ、 さらにはECMOや肺移植が考慮される。


④非RP-ILD / 抗MDA5抗体陰性例

mPSLパルス療法の先行を含む高用量GC (PSL) +CNI単剤の2剤療法が基本選択となり、 効果が乏しければCNI+IVCY併用が考慮される。

慢性型の改訂点

慢性型においては、 進行性か非進行性かを鑑別したうえで治療が選択され、 非進行性の場合は経過観察が考慮される。 佐藤氏は 「慢性型に関しては、 抗MDA抗体および抗ARS抗体の有無に応じた治療分岐は削除し、 呼吸器科と膠原病内科での治療方針の違いや、 進行性の線維化をきたす症例への治療対応についても明記した」 と説明した。

免疫抑制薬の治療オプションを具体化

2025年版では、 進行性の症例に対する免疫抑制薬の具体的な選択肢が明記されるとともに、 治療法の多様性に関する注記が追記された。 また症例によってはPSLの追加やPSL単剤療法、 メチルプレドニゾロンパルス療法の併用も検討することなど、 治療方針の多様性が脚注にて記載された。

慢性型に対して適応が検討される免疫抑制薬は以下の通り。

  • タクロリムス (TAC)
  • シクロスポリン (CYA)
  • 間歇的シクロホスファミド静注療法 (IVCY)
  • アザチオプリン (AZA)
  • ミコフェノール酸モフェチル (MMF)
  • リツキシマブ (RTX)

ニンテダニブの適応基準が明記

進行性肺線維症 (PPF) (進行性線維化を伴う間質性肺疾患 : PF-ILD) の基準を満たす肺線維化を伴うILDに対しては、 2025年版では抗線維化薬ニンテダニブの併用を考慮することが明記された。

なお、 PM / DM-ILDに対する抗線維化薬の有効性の明らかなエビデンスは現時点では無いものの、 近年,複数の国際研究において膠原病 (全身性硬化症 : SSc、 関節リウマチ : RA) に併発するILD、 PPF (PF-ILD) に対するニンテダニブの有効性が報告されており、 今後のエビデンス蓄積が重要であることが併せて記載されている。

肺移植の可能性について言及

肺移植については、 慢性型で上記の治療にも関わらず進行あるいは再燃を繰り返して呼吸機能が大きく低下した場合には、 急性・亜急性型と同様に選択肢となることが示された。

ACR / Chest GLとの相違点

高用量GCの導入等に推奨の差あり

なお Systemic autoimmune rheumatic diseases (SARD)に伴うILDの指針として、 米国では2023 米国リウマチ学会 (ACR) / 米国胸部疾患学会議 (Chest) ガイドライン²⁾があるが、 同ガイドラインと本指針には相違点がある点に注意が必要となる。

佐藤氏は 「本指針では抗MDA5抗体陽性RP-ILDに対して高用量GC+CNI+IVCYによる3剤併用療法およびPEの積極的な初期介入が示された。 一方で、 2023 ACR / Chestのガイドラインでは、 高用量GC+免役抑制薬2剤とされており、 具体的な免役抑制薬についての言及はなく、 1次治療では条件付きでPE療法は行わないことと早期の肺移植を検討することが推奨されている」 と説明した。

まとめと展望

IIM-ILDにおけるPM / DM-ILDの治療アルゴリズムは、 急性 / 亜急性型と慢性型に大別されたうえで治療の流れが再整理され、 予後不良因子やRP-ILDへの対応、 抗線維化薬や肺移植まで幅広く網羅した内容へとアップデートされた。

今後の課題として、 佐藤氏は 「エビデンスに基づいた各治療薬の有用性や各治療薬,特に抗線維化薬の適切な導入のタイミングならびに肺移植の適応判断などに関しては、 引き続きさらなる検討が必要だ」 と説明。 そのうえで、 「これまでの臨床経験・観察研究の蓄積を基に作成された今回の治療アルゴリズムは最適解の1つであると考えており、 実臨床において少しでも役に立つ指針となるのであれば幸いである」 と総括した。

出典

¹⁾ 日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2025 作成委員会.膠原病に伴う間質性肺疾患診断・治療指針2025.2025.メディカルレビュー.

²⁾ Arthritis Rheumatol. 2024 Aug;76(8):1182-1200.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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