HOKUTO編集部
9日前
進行性尿路上皮癌(UC)の長期病勢コントロールを目指した薬物療法は大きく進歩し、 新たな標準治療も登場しつつある。 近年のトレンドと蓄積されたエビデンスについて、 北海道大学 腎泌尿器外科学教室准教授の安部崇重氏が第62回日本癌治療学会で発表した。
術後の高リスク筋層浸潤性UCを対象とした第Ⅲ相試験CheckMate 274において、 主要評価項目であるITT集団およびPD-L1≧1%の集団における無病生存期間 (DFS)、 副次評価項目である両集団における全生存期間(OS)の中央値は、 いずれも抗PD-1抗体のニボルマブ群でプラセボ群と比べて有意な改善を示した(長期フォローアップの追跡期間中央値 ITT集団 : 36.1ヵ月、 PD-L1≧1%の集団 : 34.5ヵ月)¹⁾。
ただしDFSの原発巣別のサブ解析において、 腎盂および尿管癌のハザード比 (HR) は、 それぞれ、 1.23 (95%CI 0.67-2.23)、 1.56 (95%CI 0.70-3.48)と、 プラセボ群でより良好な結果となった²⁾。
これを踏まえて『最適使用推進ガイドライン ニボルマブ (遺伝子組換え) ~尿路上皮癌~』では、
「原発部位により本剤の有効性が異なる傾向が示唆されていることから、 腎盂・尿管癌患者においては、 術前補助療法歴を踏まえ、 本剤以外の治療選択肢も考慮する。 また、 シスプラチン (CDDP) を含む術前補助療法歴のない患者における既存治療と比較した本剤の有効性は不明であることから、 CDDP等の白金系抗悪性腫瘍剤による治療が可能な場合にはこれらの治療を優先する」
と記載されている³⁾。
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CDDP適格の筋層浸潤膀胱癌 (MIBC) を対象とした第Ⅲ相試験NIAGARAにおいて、 主要評価項目である無イベント生存期間 (EFS) 中央値は、 術前化学療法単独 (化学療法群) と比べて、 術前の抗PD-L1抗体デュルバルマブ+化学療法併用およびデュルバルマブ単剤術後療法 (デュルバルマブ群)で有意な改善を示した (追跡期間中央値 42.3ヵ月)。
もう1つの主要評価項目である病理学的完全奏効 (pCR) 率は、 有意差が認められなかった(データカットオフ : 2022年1月) ものの、 その後の再解析において改善傾向が認められた (データカットオフ : 2024年4月) 。
副次評価項目であるOS中央値は、 デュルバルマブ群で有意な改善を示した (HR 0.75 [95%CI 0.59-0.93] 、 p=0.0106、 追跡期間中央値 46.3ヵ月)。
Grade3/4の治療関連有害事象 (AE) 発現率は、 両群ともに41%であった。死亡に至ったAEは、 それぞれ5%、 6%、 治療に関連して死亡に至ったAEは、 両群ともに0.6%に認めた。
以上のNIAGARA試験について、 安部氏は 「現在は術前化学療法後、 病理結果により術後療法としてニボルマブを投与することが許容されているため、 ICIを用いた周術期薬物療法において術後ニボルマブと術前・術後デュルバルマブのどちらが優れているかについて本試験では明確な答えが出ておらず、 今後の臨床課題といえる。 一方で、 デュルバルマブ群のAE発現率は化学療法群と大きく変わらず、 毒性に関してはマイルドな印象がある」 と述べた。
また、 術後療法実施の有無については、 ctDNA分析が予後予測に有用であり、 分子的残存病変(MRD) 検査を用いた患者選択が大いに期待されるという。
転移性膀胱癌では『膀胱癌診療ガイドライン2019年版』 (編 : 日本泌尿器科学会) の2021年補足において、 抗PD-L1抗体アベルマブによる維持療法のクリニカル・クエスチョン (CQ) が追加されている⁴⁾。
JAVELIN Bladder 100試験
プラチナ製剤ベースの化学療法で病勢進行 (PD)を認めなかった進行UCを対象とした第Ⅲ相試験JAVELIN Bladder 100において、 主要評価項目であるOS中央値、 および追加解析の化学療法開始からのOS中央値は、 いずれもBSC (best supportive care) 群と比べてアベルマブ+BSC(アベルマブ群)で有意な改善を示した(追跡期間中央値 アベルマブ群 : 38.0ヵ月、 BSC群 : 39.6ヵ月)⁵⁾⁶⁾。
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AVENANCE試験
プラチナ製剤ベースの化学療法でPDが認められず、 アベルマブによる維持療法を受けた進行UCを対象としたフランスの実臨床での非介入前向き・後向き試験AVENANCEにおいて、 2次治療で抗体薬物複合体 (ADC )が使用された患者のOS中央値は40.8ヵ月であった (追跡期間中央値 26.3ヵ月) 。
同試験で使用されたADCの多くはエンホルツマブ ベドチンであった⁷⁾ことから、 安部氏は 「2次治療でADCが投与された患者のOS中央値は3年超という驚くべき結果であった。 これは従来に比べさらに強力な治療法としてエンホルツマブ ベドチンが登場したからこその成績だと考えられる」 と述べた。
『膀胱癌診療ガイドライン2019年版』において、 1次治療のプラチナ製剤併用化学療法後に再発または進行した局所進行または転移性膀胱癌に対し、 抗PD-1抗体ペムブロリズマブの使用が推奨されている⁸⁾。
KEYNOTE-045試験
プラチナ製剤併用化学療法後の進行UCを対象とした第Ⅲ相KEYNOTE-045試験において、 主要評価項目であるOS中央値は、 化学療法群と比べてペムブロリズマブ群で有意な改善を示した(追跡期間中央値 27.7ヵ月)⁹⁾。
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実臨床の生存率に関する日本のコホート研究
傾向スコアマッチングを使用した後ろ向きコホート研究にて、 直近5年間 (2016-20年) は、 ペムブロリズマブ上市前の9年間 (2003-11年) と比べて癌特異的生存率 (CSS) およびOSの中央値が有意に延長し (CSS : 21ヵ月 vs 12ヵ月、 p=0.0002 / OS : 19ヵ月 vs 12ヵ月、 p=0.0008)¹⁰⁾、 ペムブロリズマブ投与による予後の改善が示された。
『膀胱癌診療ガイドライン 2019年版』の2022年アップデートにおいて、 抗Nectin-4標的抗体薬物複合体エンホルツマブ ベドチン (EV) に関するCQが追加されている¹¹⁾。
EV-301試験
プラチナ製剤を含む化学療法および免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) による治療歴のある進行UCを対象とした第Ⅲ相試験EV-301において、 主要評価項目であるOSおよび副次評価項目であるPFSの中央値は、 いずれも化学療法群と比べてEV群で有意な改善を示した (追跡期間中央値 11.1ヵ月) ¹²⁾。
EV-301試験について安部氏は 「3次治療の有効性としては、 驚異的な結果である」 と振り返った。
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THOR試験
ICIを含む治療後にPDを認めたFGFR変異陽性の進行UCを対象とした第Ⅲ相THOR試験において、 主要評価項目であるOS中央値は、 化学療法群と比べてFGFR阻害薬エルダフィチニブ群で有意に改善した。 副次評価項目である客観的奏効率 (ORR) は、 エルダフィチニブ群で45.6%、 化学療法群で11.5%だった (追跡期間中央値 15.9ヵ月)¹³⁾。
安部氏は 「エルダフィチニブはFGFR変異陽性に対する経口薬であり、 エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ併用療法 (EV+P) が標準治療になった際に、 逐次療法として有用な選択肢になるのではないか」 と期待を述べた。
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安部氏によれば、 ICI+化学療法は、 臨床試験において予後の有意な改善が得られないレジメンが多くみられるなか、 下記試験では良好な結果が示されたという。
未治療の進行UC患者を対象とした第Ⅲ相試験CheckMate 901において、 主要評価項目であるOSおよびPFSの中央値は、 いずれもGC療法群と比べてニボルマブ+GC療法 (NIVO+GC群) で有意な改善を示した (追跡期間中央値 33.6ヵ月) ¹⁴⁾。
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未治療の進行UCを対象とした第Ⅲ相試験EV-302/KEYNOTE-A39において、 主要評価項目であるOSおよびPFSの中央値は、 いずれも化学療法群と比べてEV+P群で有意に改善した (生存追跡期間中央値 17.2ヵ月) 。
またEV+P群のAEとして、 末梢神経障害や皮膚障害、 高血糖等がみられた¹⁵⁾。
EV-302/KEYNOTE-A39試験について安部氏は 「EV+P療法は非常に良好な結果が期待できるレジメンであり、 適応になる患者がいれば実臨床での導入を前向きに検討したい」 と述べた。
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最後に安部氏は 「近年、 進行UCに対しては術後療法や維持療法、 その後の救済療法が続々と登場しており、 長期的な病勢コントロールが得られる可能性が高まりつつある。 そのなかで、 救済療法については、 新たな臨床課題の解決が求められている。 また、 EV+P療法は、 導入療法に大きな変化をもたらし、 今後、 スタンダードになる可能性が高く、 副作用マネジメントがますます重要になるだろう」 と総括した。
¹⁾ J Clin Oncol. 2024 Oct 11:JCO2400340.
²⁾ NEJM. 2021 Jun 3;384(22):2102-2114.
³⁾ 最適使用推進GL ニボルマブ~尿路上皮癌~
⁴⁾ 膀胱癌診療GL2019年版 2021年補足
⁵⁾ J Clin Oncol. 2023 Jul 1;41(19):3486-3492.
⁶⁾ J Clin Oncol. 2023; 41 (6_suppl): 508-508.
⁷⁾ Eur Urol Oncol. 2024 Oct 23.
⁸⁾ 膀胱癌診療ガイドライン2019年版
⁹⁾ Ann Oncol. 2019 Jun 1;30(6):970-976.
¹⁰⁾ Int J Urol. 2022 Dec;29(12):1462-1469.
¹¹⁾ 膀胱癌診療GL2019年版 2022年補足
¹²⁾ NEJM. 2021 Mar 25;384(12):1125-1135.
¹³⁾ NEJM. 2023 Nov 23;389(21):1961-1971.
¹⁴⁾ NEJM. 2023 Nov 9;389(19):1778-1789.
¹⁵⁾ NEJM. 2024 Mar 7;390(10):875-888.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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