亀田総合病院
3ヶ月前
進行がん患者はフレイル指数が高く、 救急患者の急性度は相当なものである。 がん患者の緊急病態は、 がんの初期症状、 既知のがんの進行、 がんの再発、 治療の副作用に起因し、 中には生命を脅かすものもあるため注意が必要である。 がん治療が外来に移行するにつれ、 合併症は病院外で発生する可能性が高くなってきたことから、 救急外来を受診するケースも増えてきている。 本稿では、 救急外来におけるがん患者へのアプローチを概説する
講師: 宮地康僚先生(亀田総合病院腫瘍内科医長)
がんの種類と病変の部位、 そして、 過去の合併症を把握しておくと、 症状にがんがどのように関わっているかどうかを判断しやすい。 この情報に基づいて、 解剖学的および病態生理学的な枠組みで鑑別疾患を挙げると良い。
がんによる解剖学的な異常はしばしば 「つまる」、 「押しつぶす」、 「破壊する」 ことで救急病態の原因となり、 侵襲的な処置を必要とする。
特に感染症が悪性胆道狭窄等により生じるのでドレナージの可能性を常に考える。 そして日々の関係する他科と良好な関係を築いておく。
▼病変の位置の把握
病変の部位は自身で画像から把握するのが一番だが、 過去の画像診断のレポートも参考になる。
脳転移はルーチンのスクリーニング対象にならないがん種もあるので、 頭痛、 吐気、 神経症状が出現した場合は、 過去に指摘されていなくても脳転移を考えておく必要がある。 原発巣が切除されていても局所再発している場合もある。
▼転移性病変の把握
肺がん、乳がん、メラノーマ、胃がん、腎がん
肺がん、 乳がん、 前⽴腺がん、 ⾻髄腫
胃がん、 ⼤腸がん、 膵臓がん、 卵巣がん
がんにおける機能異常に注⽬することでがんに関連する病態を把握しやすくなる。
▼血栓、 出血
担がん患者は⾎栓症のリスクが通常の7倍に上ることが知られている。
原発巣 (消化管・肺など) と転移巣 (脳など) の腫瘍出⾎にも注意が必要である。
<血栓症・出血を起こしやすいがん>
血栓 : 膵がん、 胃がん、 卵巣がん、 肺がん、 膀胱がん、 大腸がん
出血 : 膀胱がん、 肺がん、 胃がん、 大腸がん、 腎がん
▼代謝異常
がんが産生する液性因子等により、 以下の病態が生じることがある。
低Na血症 (SIADH (抗利尿ホルモン不適合分泌症候群) などによる)
高Ca血症
▼集めるべき情報
細胞分裂が早い細胞 (⾻髄細胞、 ⽑⺟細胞、 消化管粘膜、 ⽪膚) に影響する。そのため消化器毒性、 骨髄抑制、 脱毛、 皮膚障害が出現しやすい。
▼代表的な殺細胞薬
シスプラチン、 カルボプラチン、 ネダプラチン、 オキサリプラチン
フルオロウラシル、 メトトレキサート、 ペメトレキセド、 ゲムシタビン
タキサン、 エリブリン、 ビンカアルカロイド
イリノテカン、 エトポシド
ブレオマイシン、 ドキソルビシン
シクロフォスファミド、 メルファラン、 ベンダムスチン、 テモゾロミド、 ダカルバジン、 ブスルファン
▼有害事象
上記の他、 倦怠感、肝障害、 腎障害、や、 薬剤によっては末梢神経障害、 間質性肺炎、 ⼼毒性、 アレルギー反応、 代謝異常を生じる。
副作⽤は各サイクルで同じタイミングで繰り返すことが多いため、 最終投与⽇とこれまでの副作⽤歴により症状の予測が可能。
がん細胞の表⾯や内部にある、 がん細胞に⽐較的特異的な物質をターゲットにした治療法であり、 特徴的な副作⽤があることが知られている。
▼代表的なEGFR阻害薬
ゲフィチニブ、 オシメルチニブ
パニツムマブ、 セツキシマブ
▼代表的なVEGF阻害薬
ベバシズマブ、 ラムシルマブ
スニチニブ、 レゴラフェニブ、 レンバチニブ、 パゾパニブ
▼有害事象
間質性肺炎が数%に起こることが知られているため、 特に注意する。
上⽪細胞の成⻑阻害 (⽪膚障害、 下痢)
EGFR阻害薬では間質性肺炎に注意する。
血管新生を阻害するためVEGF class effectと呼ばれる血管系の副作用が存在する。
チロシンキナーゼ阻害薬では倦怠感、 骨髄抑制、 消化器毒性、 心機能障害 (心不全、 不整脈) 甲状腺機能障害などが追加で出る。
VEGF阻害薬では、 稀だが致死的な副作⽤;血栓塞栓症、 出血、 消化管出血等が存在するため、 注意が必要。
腫瘍免疫細胞の働きを抑制する 「免疫チェックポイント」 を阻害することで、 がん細胞に対する免疫を活性化・持続さ せる薬剤である。
▼代表的な免疫チェックポイント阻害薬
イピリムマブ
ニボルマブ、 ペムブロリズマブ
アベルマブ、 アテゾリズマブ、 デュルバルマブ
▼有害事象
ICI使⽤歴があればirAEを念頭に置き対処を⾏う。 新規の症状は積極的にワークアップし、安易に帰宅させず専⾨家に相談をすべきである。
▼胃腸障害 (下痢・大腸炎)
▼間質性肺炎
▼心筋炎
▼筋炎
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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