【亀田】救急外来におけるがん患者へのアプローチ (宮地康僚先生)
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亀田総合病院

4ヶ月前

【亀田】救急外来におけるがん患者へのアプローチ (宮地康僚先生)

【亀田】救急外来におけるがん患者へのアプローチ (宮地康僚先生)
進行がん患者はフレイル指数が高く、 救急患者の急性度は相当なものである。 がん患者の緊急病態は、 がんの初期症状、 既知のがんの進行、 がんの再発、 治療の副作用に起因し、 中には生命を脅かすものもあるため注意が必要である。 がん治療が外来に移行するにつれ、 合併症は病院外で発生する可能性が高くなってきたことから、 救急外来を受診するケースも増えてきている。 本稿では、 救急外来におけるがん患者へのアプローチを概説する

講師: 宮地康僚先生(亀田総合病院腫瘍内科医長)


がん特有の病態を把握する

がんの種類と病変の部位、 そして、 過去の合併症を把握しておくと、 症状にがんがどのように関わっているかどうかを判断しやすい。 この情報に基づいて、 解剖学的および病態生理学的な枠組みで鑑別疾患を挙げると良い。

解剖学的異常

がんによる解剖学的な異常はしばしば 「つまる」、 「押しつぶす」、 「破壊する」 ことで救急病態の原因となり、 侵襲的な処置を必要とする。

特に感染症が悪性胆道狭窄等により生じるのでドレナージの可能性を常に考える。 そして日々の関係する他科と良好な関係を築いておく。

▼病変の位置の把握

病変の部位は自身で画像から把握するのが一番だが、 過去の画像診断のレポートも参考になる。

脳転移はルーチンのスクリーニング対象にならないがん種もあるので、 頭痛、 吐気、 神経症状が出現した場合は、 過去に指摘されていなくても脳転移を考えておく必要がある。 原発巣が切除されていても局所再発している場合もある。

転移性病変の把握

  • 脳転移しやすいがん

肺がん、乳がん、メラノーマ、胃がん、腎がん

  • ⾻転移しやすいがん

肺がん、 乳がん、 前⽴腺がん、 ⾻髄腫

  • 腹腔播種しやすいがん

胃がん、 ⼤腸がん、 膵臓がん、 卵巣がん

機能的異常

がんにおける機能異常に注⽬することでがんに関連する病態を把握しやすくなる。

血栓、 出血

担がん患者は⾎栓症のリスクが通常の7倍に上ることが知られている。

原発巣 (消化管・肺など) と転移巣 (脳など) の腫瘍出⾎にも注意が必要である。

<血栓症・出血を起こしやすいがん>

血栓 : 膵がん、 胃がん、 卵巣がん、 肺がん、 膀胱がん、 大腸がん
出血 : 膀胱がん、 肺がん、 胃がん、 大腸がん、 腎がん

▼代謝異常

がんが産生する液性因子等により、 以下の病態が生じることがある。

  • 電解質異常

低Na血症 (SIADH (抗利尿ホルモン不適合分泌症候群) などによる)

高Ca血症

  • 内分泌異常
  • 腫瘍随伴症候群
  • 悪液質

治療に関連した病態を把握する

▼集めるべき情報

  • 抗がん剤名、 最終投与⽇、 有害事象、 デバイスとその位置を把握することが重要となる。
  • 使用している抗がん剤が殺細胞薬、 分子標的薬、 免疫チェックポイント阻害薬のどの種類に該当するかを、 まずは把握する。

殺細胞薬

細胞分裂が早い細胞 (⾻髄細胞、 ⽑⺟細胞、 消化管粘膜、 ⽪膚) に影響する。そのため消化器毒性、 骨髄抑制、 脱毛、 皮膚障害が出現しやすい。

▼代表的な殺細胞薬

  • 白金製剤

シスプラチン、 カルボプラチン、 ネダプラチン、 オキサリプラチン

  • 代謝拮抗薬

フルオロウラシル、 メトトレキサート、 ペメトレキセド、 ゲムシタビン

  • 微小管作用薬

タキサン、 エリブリン、 ビンカアルカロイド

  • トポイソメラーゼ阻害薬

イリノテカン、 エトポシド

  • 抗腫瘍性抗生物質

ブレオマイシン、 ドキソルビシン

  • アルキル化薬

シクロフォスファミド、 メルファラン、 ベンダムスチン、 テモゾロミド、 ダカルバジン、 ブスルファン

  • 酵素:Lアスパラギナーゼ

▼有害事象

上記の他、 倦怠感、肝障害、 腎障害、や、 薬剤によっては末梢神経障害、 間質性肺炎、 ⼼毒性、 アレルギー反応、 代謝異常を生じる。

副作⽤は各サイクルで同じタイミングで繰り返すことが多いため、 最終投与⽇とこれまでの副作⽤歴により症状の予測が可能。 

分子標的薬

がん細胞の表⾯や内部にある、 がん細胞に⽐較的特異的な物質をターゲットにした治療法であり、 特徴的な副作⽤があることが知られている。

代表的なEGFR阻害薬

  • チロシンキナーゼ阻害薬

ゲフィチニブ、 オシメルチニブ

  • 抗体薬

パニツムマブ、 セツキシマブ

代表的なVEGF阻害薬

  • チロシンキナーゼ阻害薬

ベバシズマブ、 ラムシルマブ

  • 抗体薬

スニチニブ、 レゴラフェニブ、 レンバチニブ、 パゾパニブ

▼有害事象

  • EGFR阻害薬

間質性肺炎が数%に起こることが知られているため、 特に注意する。

上⽪細胞の成⻑阻害 (⽪膚障害、 下痢)

EGFR阻害薬では間質性肺炎に注意する。 
  • VEGF阻害薬

血管新生を阻害するためVEGF class effectと呼ばれる血管系の副作用が存在する。

チロシンキナーゼ阻害薬では倦怠感、 骨髄抑制、 消化器毒性、 心機能障害 (心不全、 不整脈) 甲状腺機能障害などが追加で出る。

VEGF阻害薬では、 稀だが致死的な副作⽤;血栓塞栓症、 出血、 消化管出血等が存在するため、 注意が必要。

免疫チェックポイント阻害薬

腫瘍免疫細胞の働きを抑制する 「免疫チェックポイント」 を阻害することで、 がん細胞に対する免疫を活性化・持続さ せる薬剤である。

代表的な免疫チェックポイント阻害薬

  • 抗CTLA-4抗体

イピリムマブ

  • 抗PD-1抗体

ニボルマブ、 ペムブロリズマブ

  • 抗PD-L1抗体

アベルマブ、 アテゾリズマブ、 デュルバルマブ

▼有害事象

  • 全身に多彩な有害事象が発生する。 非特異的で急激な発症もあり注意を要する。
  • 皮膚障害、 腸炎、 間質性肺炎、 内分泌疾患などが多いことが知られている。
  • 治療開始から3ヵ月以内に起こることが多いが、 3ヵ月以上経過した後にも起こることがあるため、 「使用したことがあるか」 「いつ使用したか」 という情報が重要となる。
  • 致死的毒性は開始2-3ヵ月で生じやすい。
  • 有害事象が複数同時に発症することもあるため⼀つの診断だけで判断するのは不⼗分である場合もある。
ICI使⽤歴があればirAEを念頭に置き対処を⾏う。 新規の症状は積極的にワークアップし、安易に帰宅させず専⾨家に相談をすべきである。

irAEについての対応

高頻度なirAE

▼胃腸障害 (下痢・大腸炎)

  • 30~40%と頻度が高く、 発症者の5%が腸穿孔などで死亡する (止痢薬は注意)。
  • 感染症を慎重に否定する。
  • Grade1 (3回以内) なら3日後のフォローも検討。 症状が持続または悪化する場合はステロイドでの治療を開始。
  • Grade2以上 (4回以上) ならCT+内視鏡と高用量ステロイド (PSL 1~2mg/kg) を投与。 それでも3日以上続く場合は、 インフリキシマブやベドリズマブも検討する。

▼間質性肺炎

  • 症状が出たら専⾨家と連携し、 広域抗菌薬を検討しつつ速やかにステロイド治療を開始する。
  • ⾼⽤量ステロイド (mPSL 1~2mg/kg) を投与後、 48時間で改善がなければ免疫抑制薬を使⽤ (例 : インフリキシマブ5mg/kg (14⽇後に2nd doseも)IVIG、 MMFなども併⽤)。
  • しばしば感染症、 癌性リンパ管症との鑑別が問題になる。

致死的なirAE

▼心筋炎

  • 抗CTLA-4抗体と抗PD-L1抗体併⽤で注意。
  • 致死率 約40%であり、 「いつもと異なる倦怠感」 として⾒逃さないことが重要。
  • CK、 トロポニン、 BNP、 ⼼電図、 ⼼エコーをチェックすること、 軽症でも急速に悪化し得る (例︔房室ブロック、 ⼼室細動など) のでただちに循環器内科に相談すること。
  • 診断したらICUレベルのモニタリングでmPSL (1g/⽇ 3-5⽇) を開始すること。
  • 筋炎、重症筋無⼒症 (約10%)の合併に留意。

▼筋炎

  • CK上昇/筋⼒低下があれば疑い、 重症筋無⼒症と⼼筋炎の合併を⾒逃さないようにする (発症中央値28~30⽇)。
  • 専⾨家と連携し各種検査を実施する (CK、 ⼼電図、 必要に応じてMRIや筋電図)。
  • 軽~中等症ならプPSL (0.5~1mg/kg)を投与し、 改善がなければ治療強化とMG・⼼筋炎の再評価を⾏う。
  • 重症ならmPLSパルス後、 PSL 1mg/kg/⽇投与。 4週継続し10mg/⽉ずつ漸減する。
  • 致死的あるいはステロイド不応なら、 IVIG、 MMF、 リツキシマブを検討する。
  • 症状に応じ、 脳転移や脊椎転移も鑑別する

Take Home Message

  • がん患者は解剖学的・機能的な異常を⽣じる。 外科的、 内視鏡的介⼊の必要を意識し、 即時対応できるようにする必要がある。
  • がんの種類と病変の部位、 これまでの合併症歴、 抗がん剤とその投与⽇、 設置されたデバイスを確認することが重要である。
  • 進⾏がんでも⻑期⽣存可能な⼈がいるため、 安易に余命を短いと判断せず治療の可能性を探る。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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