HOKUTO編集部
2ヶ月前
循環器領域における注目トピックやキーワードについて解説する連載。 第3回は、 心不全の原因となる基礎心疾患について、 病歴と概念を中心に解説いただきます (解説医師 : 北海道大学 循環病態内科学教室 上原拓樹先生)。
心不全は症候群の名称であり病名ではないため、 心不全と診断した際にはその原因と増悪因子を考え、 是正する必要があります。
心不全の原因となる基礎心疾患を診断・評価するとき、難しい点がいくつかあります。 しかし、 心不全の最も主たる原因を考え是正することは、 適切な心不全診療を行う上で重要です。
例えば、 拡張型心筋症や肥大型心筋症の診断基準の1つに 「類似した病態を示す二次性心筋症 ( 「特を除外する必要がある」 があります。 しかし、 すべての二次性心筋症を除外することは容易ではありません¹⁾。
虚血性心疾患や高血圧、 糖尿病の合併は日常臨床で非常に多く見られます。 LVEFが低下した心不全において、 虚血性心疾患と高血圧性心疾患、 糖尿病性心筋症を区別するのは困難です。
そのため、 ガイドラインや論文の多くは心不全の原因ではなく 「併存症」 と表現されることが多いです。
基礎心疾患と心不全は互いに影響し合うことが多く、 どちらが原因でどちらが結果なのかを判断するのは容易ではありません。
例えば、 不整脈は心不全の原因・結果どちらにもなり得ます。 心房細動が持続すると心不全を発症することがある一方で、 心不全の進行によって左房が拡大し、 心房細動が生じることもあります。
基礎心疾患が、 心不全の 「原因」 にも 「増悪因子」 にもなり得ることがあります。
例えば肺炎などの感染症は、 心不全の増悪因子にはなり得ますが、 原因となることはほとんどありません。 一方、 高血圧や心筋虚血は、 心不全の原因にも増悪因子にもなり得ます。
左室の後負荷 (圧負荷) が増大するため、 左室の遠心性の心肥大を伴うのが典型的です。 「長年の筋トレによって、 心筋もムキムキに分厚くなった」 と考えると分かりやすいかもしれません。
しかし、 さまざまな心形態を呈するため、 心肥大を認めずに左室駆出率が低下することもあります。
臨床上で頻度が多いのが心房細動です。 心房細動では頻脈になることで心負荷となり、 頻脈誘発性心筋症になることが多いです。
頻脈がなくても、 脈の不整と心房収縮が消失することは心拍出量の低下に繋がるし、 長期の心房細動は弁輪拡大による僧帽弁閉鎖不全小と三尖弁閉鎖不全症を引き起こします。
心室期外収縮 (PVC) も、 不規則な動きと心拍から心不全のリスクになり得ます。 しかし、 心房細動とPVCは心不全の結果として生じることもあるため、 不整脈の出現と心不全の顕在化の病歴が重要です。
心臓には4つの弁があり、 それぞれが狭窄と閉鎖不全を起こし得ますが、 重要な弁膜症は限られます。
大動脈弁狭窄症 加齢性に生じることが多く、 左室の圧負荷が増大するため心肥大を伴うことが多いです。
大動脈弁閉鎖不全症 左室の容量負荷となるため、 左室拡大が主体となります。
僧帽弁閉鎖不全症 原因が特に重要です。 僧帽弁逸脱など、 僧帽弁そのもののが原因である場合 (一次性) は、 心不全の直接的な原因となります。一方で、 左室収縮機能障害に伴う接合不全 (tethering) や左房の弁輪拡大による僧帽弁閉鎖不全小は、 僧帽弁そのものに原因はなく結果として逆流をきたしているため、 二次性と考えられます。
三尖弁閉鎖不全症 右心系の容量負荷などに伴う、 二次性のものが多いです。
冠動脈疾患は、 冠動脈支配領域に沿った壁運動障害を生じるのが通常です。 しかし、 3枝病変や左冠動脈主幹部病変であれば、 びまん性の壁運動障害を呈します。
虚血にさらされた心筋は線維化してリモデリングするため、 左室拡大を伴う収縮機能障害となることが多いですが、 初期には拡張障害のみを認めることもあります。
そのため、 心不全を診療する際には、 典型的な狭心痛がなくても一度は冠動脈の評価を検討します。
上記4疾患に該当しないものは、 いったんは心筋症と考えると分かりやすいでしょう。
心筋症は、 古典的には⼼肥⼤を伴う肥⼤型⼼筋症と、 左室拡⼤を伴う収縮機能障害となる拡張型⼼筋症が有名です。 心アミロイドーシスや心臓サルコイドーシスなどの特徴的な心筋症も存在します。
このほか、 さまざまな原因によって⼆次性心筋症 (アルコール性や薬剤性など) を発症します。
実際には、 本稿で紹介した5つの基礎心疾患に属さない基礎心疾患 (収縮性心膜炎などの心膜疾患や、 先天性心疾患など) も存在しますが、 まずは代表的なこれら5つの基礎心疾患を理解しておくことが重要です。
⼼不全診療を⾏う際には、 これらを疑う病歴や所⾒がないかを考え、 必要に応じて検査を追加するとよいでしょう。
著書
循環器病棟の業務が全然わからないのでうし先生に聞いてみた (医学書院)
うし先生と学ぶ 「循環器×臨床推論」 が身につくケースカンファ (医学書院 : 2025年3月発売)
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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