仲野 兼司(がん研有明病院 総合腫瘍科)
19日前
2024年、 抗PD-1抗体ニボルマブが 「上皮系皮膚悪性腫瘍」 に対して国内で承認されました。 しかし「上皮系皮膚悪性腫瘍」 と一口にいっても、 有棘細胞癌、 基底細胞癌、 乳房外パジェット病、 メルケル細胞癌など多様な組織型が含まれており、 それぞれにおいて有効とされる薬剤や治療戦略は異なります。 本記事では、 近年の薬物療法の進展、 とりわけ各組織型における最新の治療法や臨床試験の動向について解説します。
有棘細胞癌は、 組織学的にはいわゆる扁平上皮癌にあたります。 悪性黒色腫と並び、 免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の有効性が比較的早期から知られていました。
前向き臨床試験では、 抗PD-L1抗体セミプリマブの臨床試験が多く実施されています。 進行有棘細胞癌患者を対象とした第II相試験EMPOWER-CSCC-1では、 その長期成績が報告されています。
主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) は、 投与法を問わず約45~47%と良好な結果を示した。 奏効は持続的であり、 一部の投与群では12ヵ月時点の奏効持続率が88.3%、 無増悪生存期間 (PFS) の中央値は26.0ヵ月と報告された。
J Am Acad Dermatol. 2025 を確認する
ICI治療後に病勢安定 (SD) または病勢進行 (PD) であった症例に対し、 抗EGFR抗体セツキシマブを上乗せする第II相試験I-TACKLEの結果が報告されました。
ペムブロリズマブに抵抗性を示した場合でも、 セツキシマブを逐次的に追加することで、 約43%の患者で再び効果が得られ、 全体の奏効率は63%に達した。
乳房外パジェット病では、 いくつかの特徴的な治療アプローチが検討されています。
乳房外パジェット病の約10-20%がHER2陽性であるため、 HER2標的治療が期待されています。 日本では、 医師主導治験として、 HER2陽性例に対するトラスツズマブ+ドセタキセル療法の第II相試験EMPD-HER2DOCが実施されました。
主要評価項目であるORRは、 76.9% (10/13例) と良好な結果を示した。
ICIの有効性に関するエビデンスは、 現時点では主に症例報告レベルにとどまっており、 他の組織型と比べて治療効果は限定的である可能性が示唆されています。
ドセタキセル治療歴を有する乳房外パジェット病の3例に対して抗PD-1抗体療法を実施したが、 腫瘍遺伝子変異量 (TMB) が高値であっても十分な治療効果は認められなかった。
基底細胞癌は皮膚の表皮や毛包上皮に由来し、 ヘッジホッグ経路の異常が発症に関与していることが知られています。 海外では、 この経路を標的とした薬剤として、 vismodegibおよびsonidegibが承認されています。
ニボルマブ+イピリムマブ併用療法およびセミプリマブの有効性が報告されています。
第II相DART試験の基底細胞癌コホートでは、 ニボルマブ+イピリムマブ併用療法のORRは31%、 6ヵ月時点の無増悪生存率 (PFS率) は73%と報告された。
ヘッジホッグ経路阻害薬治療後の進行例を対象とした第II相試験の最終解析では、 セミプリマブのORRは22%とやや低めであったが、 奏効期間の中央値は未到達、 OS中央値は50ヵ月に達しており、 持続的な抗腫瘍効果が示された。
単純ヘルペスウイルスを遺伝子改変した腫瘍溶解性ウイルス製剤T-VEC (海外では悪性黒色腫に対して適応承認) の有効性に関するデータも報告されています。
T-VECを用いた術前補助療法は、 切除困難な基底細胞癌に対し高い有効性を示し、 試験は早期に有効中止となった。
メルケル細胞癌は、 皮膚の表皮基底層に存在する神経内分泌細胞に由来する、 比較的まれな悪性腫瘍です。 本疾患においても、 ICIの有効性は早期から報告されています。 国内では抗PD-L1抗体アベルマブが承認されており、 海外ではペムブロリズマブやretifanlimabも承認されています。
ペムブロリズマブは、 進行メルケル細胞癌の1次治療として、 オープンラベル第Ⅲ相単群試験KEYNOTE-913の長期成績が示されています。
主要評価項目であるORRは49%を示し、 奏効期間中央値は39.8ヵ月と持続的な効果が確認された。 また、 OS中央値は24.3ヵ月と報告された。
Am J Clin Dermatol. 2024 を確認する
ICI未治療例において、 ニボルマブ単剤とニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性が、 国際共同の第Ⅰ/Ⅱ相非無作為化比較試験で検討されましたが、 併用療法による明確な有益性は認められませんでした。
主要評価項目であるORRは、 ニボルマブ単剤で60%、 ニボルマブ+イピリムマブ併用療法で58%であった。 PFS中央値は、 ニボルマブ単剤で21.3ヵ月、 併用療法では8.4ヵ月であった。
同様に、 完全切除後の術後補助療法としてのニボルマブの有効性も、 第Ⅱ相無作為化比較試験ADMEC-Oで検討されましたが、 現時点では有効性は確立されていません。
主要評価項目である24ヵ月時点の無病生存率は、 経過観察群で73%、 ニボルマブ群で84%であり、 ニボルマブ群において改善が認められたが、 有意差は認められなかった。
▶︎レジメン
▶︎有棘細胞癌の関連論文
▶︎乳房外パジェット病の関連論文
専門 : 腫瘍内科 (骨軟部腫瘍、 頭頸部腫瘍、 原発不明癌、 希少がん、 その他がん薬物療法全般)
一言 : がん薬物療法に関する論文を中心に、 勉強した内容を記事にしています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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