【専門医解説】転移性去勢抵抗性前立腺癌における遺伝子検査のタイミング (田代康次郎先生)
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HOKUTO編集部

6ヶ月前

【専門医解説】転移性去勢抵抗性前立腺癌における遺伝子検査のタイミング (田代康次郎先生)

【専門医解説】転移性去勢抵抗性前立腺癌における遺伝子検査のタイミング (田代康次郎先生)
2023年、 本邦における転移性去勢抵抗性前立腺癌 (mCRPC) におけるBRCAコンパニオン診断のタイミングは従来のPROfound試験ベースの指針から、 PROpel試験ベースの指針が追加された。 コンパニオン診断の検査タイミングに正解はないが、 複雑な検査の種類、 背景について正確に理解する必要がある。 

コンパニオン検査に関するエビデンス

PROfound試験

2020年12月に本邦において、 mCRPCの患者に対してBRCA遺伝子のコンパニオン検査が承認された。 これは新規ホルモン剤 (ARAT) による前治療が無効であった相同組み換え修復 (HRR) 関連遺伝子変異陽性のmCPRC患者に対するオラパリブ群とARAT群を比較したPROfound試験の結果に基づいている¹⁾。 その結果、 BRCA1/2変異陽性例においてオラパリブ群は画像的無増悪生存期間 (rPFS) および全生存期間 (OS) においてARAT投与群と比較して有意な延長を認めた。

以上の結果から『mCRPCになりARAT一剤が使用され進行した症例を対象にBRCAコンパニオン検査が可能』となり、 変異陽性例はオラパリブの使用が可能となった。 さらに、 いわゆるup-front治療でARATが使用されmCRPCに至った症例も同様の適応となった。

PROpel試験

mCRPCとしてARAT治療歴の無い患者に対するアビラテロン (ABI)+オラパリブ群とABI+プラセボ群を比較したPROpel試験の結果が2022年に報告された²⁾。 この試験の特徴は対象患者がHRR変異の有無を問わないall comerであったことである。 その結果、 ABI+オラパリブ群はrPFSがプラセボ群と比較して有意に延長した。

しかしながら、 最終解析においてBRCA変異陽性集団ではABI+オラパリブ群でrPFSとOSがABI+プラセボ群と比較して有意に優れていたが、 BRCA変異陰性集団ではOSの延長効果が認められなかった。 この結果をうけて、 2023年8月にmCRPCとしてARAT治療歴のない患者へのBRCAコンパニオン検査が可能となり、 その時点でのBRCA変異陽性患者にはABI+オラパリブの併用治療が認められた。

以上の結果から2023年10月に日本泌尿器科学会の見解書 (改訂第5版) が発表され、 以下のフローチャートが示された (図1)³⁾。

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PROpel試験後の変化としてはARAT未使用患者にもBRCAコンパニオン診断検査が可能となったことである。 適応患者の拡大としては劇的な変化ではないが、 検査のタイミングが早くなった対象が出てきたことは大きな進展と考えられる (赤枠が新たに対象となった患者群)。 

コンパニオン診断検査の選択とタイミング

保険診療で行えるコンパニオン診断検査

現在、 本邦において保険診療で行うことができる前立腺癌におけるBRCA変異検査は「BRACAnalysis診断検査 (BRACAnalysis)」「Foundation One® CDx (F1 CDx)」「Foundation One Liquid® CDx (F1 Liquid CDx)」になる。 BRACAnalysisは生殖細胞系列のBRCA変異を検査する。 一方、 F1 CDx は、 癌に関連する複数の遺伝子を一度に包括的に解析を行うがん遺伝子パネル検査であり生殖細胞系列および体細胞系列の変異を検出する。

F1 Liquid CDxの特性と適用

F1 CDx施行後にアーカイブ検体を用いた検査で包括的な結果が得られなかった場合や、 固形腫瘍の腫瘍細胞を検体として検査を行うことが困難な場合にF1 Liquid CDxが実施可能である。 去勢抵抗性前立腺癌患者ではBRCA1/2遺伝子の病的変異を有する確率は10~18%とされている。 前立腺癌におけるBRCA1/2の変異は約半数が生殖細胞系列変異であり、 残りの半数が体細胞変異とされている⁴⁾⁵⁾。

早期診断の重要性

PROfound試験では対象群であるABI/エンザルタミド (ENZ) 群の約60%でオラパリブへのクロスオーバーがなされたにも関わらず、 OSおよびPFSにおいてオラパリブ群の方が良好な結果を得たことから¹⁾、 できるだけ早い段階でBRCAコンパニオン診断を行い、 オラパリブ適応の可否について積極的に判断することが望ましいと考える。

検査の選択とタイミング

BRACAnalysis、 F1CDx・F1 Liquid CDxいずれの検査を行うかは病勢や検査の目的を理解して行う (正解は無い)。 いずれの検査を行うにしても、 BRCA変異が陽性でオラパリブが投与できるなら早い方が治療成績は良好であり、 検査可能になり次第の検査実施を検討することが望ましい。 

我々の施設では検査が可能となった時点でまずBRACAnalysisを行い、 その後、 標準治療が終了に近い時点でF1CDx/F1 Liquid CDxを行いエキスパートパネルの結果を受けて治験の可能性まで検討している⁶⁾。

BRCAコンパニオン検査のタイミングによる保険料については図2を参照

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参考文献

  1. Survival with Olaparib in Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer. N Engl J Med. 2020 Dec 10;383(24):2345-2357. PMID: 32955174
  2. Abiraterone and Olaparib for Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer. NEJM Evidence, 2022. 1(9).
  3. 前立腺癌におけるPARP阻害薬のコンパニオン診断を実施する際の考え方(見解書)改訂第5版. 2023
  4. 5118 - Central, prospective detection of homologous recombination repair gene mutations (HRRm) in tumour tissue from >4000 men with metastatic castration-resistant prostate cancer (mCRPC) screened for the PROfound study. Annals of Oncology (2019) 30 (suppl_5): v328 v329. 10.1093/annonc/mdz248, 2019.
  5. Genomic Biomarkers and Genome-Wide Loss-of-Heterozygosity Scores in Metastatic Prostate Cancer Following Progression on Androgen-Targeting Therapies. JCO Precis Oncol. 2022 Jul:6:e2200195. PMID: 35820087
  6. 田代康次郎ほか. 転移性去勢抵抗性前立腺癌 BRCAコンパニオン診断とオラパリブ使用の実際. 泌尿器外科, 2023. 36(4): p1-8.
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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