HOKUTO編集部
7日前
肺癌領域における注目キーワードについて解説する本シリーズ第7回は、 2024年12月に国内承認された、 再発SCLCに対する二重特異性T細胞誘導抗体タルラタマブについて概説する (解説医師 : 国立がん研究センター中央病院呼吸器内科医長 吉田達哉先生)。
非小細胞肺癌 (NSCLC) に続き、 小細胞肺癌 (SCLC) においても免疫チェックポイント阻害薬の開発が進んでいる。 未治療の進展型SCLCを対象にした第Ⅲ相試験IMpower133および第Ⅲ相試験CASPIANでは、 化学療法 (プラチナ製剤+エトポシド) と抗PD-L1抗体 (アテゾリズマブ/デュルバルマブ) の併用療法が、 化学療法単独と比較して有意に生存期間を延長したことから、 同治療レジメンは進展型SCLCにおける初回標準治療となっている¹⁾²⁾。
一方で、 SCLCはNSCLCと比較してHLAクラスI分子の発現低下などにより、 免疫抑制的な腫瘍微小環境 (Coldな腫瘍微小環境 [Tumor microenvironment, TME]) が形成されやすいことが知られている。 また現状では、 SCLCの多くがPD-L1をほとんど発現しておらず、 Coldな腫瘍微小環境に免疫細胞を誘導して、 免疫反応性の腫瘍微小環境 (Hotな腫瘍微小環境) へ転換することが新規治療の鍵となっている。
近年、 この免疫抑制機構を克服するために開発されたのが、 既に造血器腫瘍に対して使用されている二重特異性T細胞誘導抗体である。 同抗体は癌細胞とT細胞を架橋、 すなわち 「T細胞を癌細胞の近くに誘導」し、 T細胞を活性化することで、 癌細胞を攻撃する薬剤である (図1) ³⁾。
特に、 SCLCの細胞表面に発現するデルタ様リガンド3 (DLL3: Delta-like protein) ³⁾およびCD3を標的とするタルラタマブは、 早期臨床試験において有望な抗腫瘍効果を示し、 長期間の奏効が報告されている⁴⁾。
第Ⅱ相国際共同非盲検無作為化比較試験Dellphi-301では、 プラチナ製剤併用療法を含む2レジメン以上の治療歴があるSCLCを対象に、 タルラタマブ10mgまたは100mgを2週間隔で投与した場合の有効性と安全性が評価された。 その結果、 有効性と安全性のバランスからタルラタマブ10mgが標準用量として選択された⁵⁾。
10m群の有効性は、 奏効率 (ORR) 40% (95%CI 29–52%)、 無増悪生存期間 (PFS) 中央値4.9ヵ月 (95%CI 2.9–6.7ヵ月)、 全生存期間 (OS) 中央値14.3ヵ月 (95%CI 10.8ヵ月–未到達) であり (図2)、 初回治療例を対象としたIMpower133試験およびCASPIAN試験の結果を上回るものであった。
有害事象 (AE) として、 サイトカイン放出症候群 (CRS) が51%という高頻度で認められ、 免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群 (ICANS) などの神経障害も8%報告された。 これらは従来の免疫チェックポイント阻害薬では経験しない新規AEであり、 管理が課題となっている⁴⁾⁵⁾⁶⁾。
一方で、 CRSやICANSはほとんどが1~2サイクル目に発現することが判明しており、 適切な対処方法を熟知すれば管理可能と考えられる (図3)。
以上のDellphi-301試験の結果を受け、 本邦では2024年12月27日、 癌化学療法後に増悪したSCLCに対してタルラタマブが承認された。 現在、 プラチナ製剤併用療法後に進行したSCLCを対象とした第Ⅲ相試験Dellphi-304など、 複数の第Ⅲ相試験が進行中であり、 その結果が期待される。
¹⁾ Lancet. 2019;394(10212):1929-39.
²⁾ N Engl J Med. 2018;379(23):2220-9.
³⁾ J Hematol Oncol. 2023;16(1):66.
⁴⁾ J Clin Oncol. 2023;41(16):2893-903.
⁵⁾ N Engl J Med. 2023;389(22):2063-75.
⁶⁾ J Clin Oncol. 2023;41(16):2877-80.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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