HOKUTO編集部
5ヶ月前
本連載は4人の腫瘍内科医による共同企画です。 がん診療専門医でない方でもちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けします。 第14回は、 虎の門病院・山口雄先生から、 「がん患者さんから食事について聞かれたら」 です! ぜひご一読ください。
👨「どんな食事をすればがんの進行 (再発) を抑えられるでしょうか?」
「何か食べてはいけないものはありますか?」
がん患者さんの診療を行っていると、 このような質問を受けることがあります。
さまざまな研究データをご存じの先生は、
👨⚕️「がんの進行 (再発) を抑えてくれる食事は分かっていません。 あまり気にせず、 好きなものを食べると良いですよ」
と答えるかもしれません。 かつて私も似たような返答をしていました。 しかし今では、 もっと患者さんに寄り添った答え方があると思っています。
これまでに実施されたコホート研究、 症例対象研究などの結果から、 がんの発症リスクに関連する食事内容・食生活が分かっています。
一方で、 がんの発症リスクを下げる食品としては野菜・果物があり、 主に消化器がん、 肺がんとの関連が示唆されています。
このようにがん発症と食事には密接な関連があることが判明している一方で、 冒頭の患者さんからのご質問にあるような、 がんの再発予防・予後改善につながる食事に関して、 質の高いデータは無いのが現状です。
肥満度が高いと、 再発リスクが高くなることは乳がん、 大腸がんなどで報告されています。 しかし、 体重を減らすことで再発率が下がるか否かは分かっておらず、 さらなる研究が必要です。
また、 ケトジェニックダイエット (糖質制限食) に関しても研究は行われていますが、 推奨できるほどの根拠あるデータに乏しく、 カロリー不足・食に対する満足度の低下などのデメリットが大きいため、 実施すべきではありません。
食事と同様に患者さんの関心が高いサプリメントについては、 ネガティブな結果が複数の無作為化比較試験で報告されています。 ビタミンD、 オメガ3脂肪酸はがん発症リスクの低下に結びつかず、 ビタミンAやビタミンEはかえって肺がん、 前立腺がんの発症リスクを上昇させることが示唆されています¹⁾²⁾³⁾⁴⁾。
上記のようなデータを知っていると、 冒頭のような質問を受けた場合、 患者さんを安心させるために 「気にせず何でも食べてください」 と答えがちです。 しかし、 このような質問をする患者さんは、 がんに対して自分が努力できることをしたい、 という気持ちを持っています。 したがって返答の仕方によっては、 そのような感情を無下に扱ってしまうことになるかもしれません。
効果は不確実であることを前提に、 患者さん自身ができることを伝えることが、 患者さんの満足につながる場合があります。
以上を踏まえて、 私が患者さんに話している内容は以下のとおりです。 研究データがあまり豊富ではない領域でも、 可能な範囲で患者さんの希望に寄り添った対応をすることを心がけています。
食事全般について
「がんの進行 (または再発) を抑えられる特定の食事は分かっていません。 ただし、 発症予防に効果のある食事は分かっているので、 それらを意識すると良いかもしれません」
「食事はバランスが大事です。 特定の栄養素や食物を偏って摂取すると、 体に悪い影響を及ぼす可能性があります」
食生活について
「肥満は避け、 理想体重を目指しましょう。 揚げ物などの高カロリーな食品、 糖分の多い飲料水、 スナックなどは避け、 スーパー、 コンビニで売っているお惣菜などを購入する際にはカロリー表示をチェックする習慣をつけてください」
「アルコールは控えることを心がけましょう。 1日缶ビール1缶くらいであれば問題ありませんが、 休肝日を作ることを推奨します」
食事内容について
「牛肉、 豚肉だけでなく、 週2-3回は魚、 鶏肉、 卵などからタンパク質を摂りましょう。 または、 豆類、 豆腐、 納豆などの植物性タンパク質でも構いません」
「ベーコンなどの加工肉、 いくら・たらこなどの塩辛い食べ物は、 できるだけ食べないでください」
「野菜は毎食、 果物は毎日摂取するとよいでしょう」
サプリメントについて
「サプリメントはむやみに摂取せず、 必要な栄養素は食事で満たすことを意識してください」
1. N Engl J Med. 1994;330(15):1029-35.
2. JAMA. 2011;306(14):1549-56.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。