【呼吸器感染症の考え方―市中肺炎編―】後期研修医のための呼吸器内科現場診療(日赤医療センター 坂本慶太先生)
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後期研修医のための呼吸器内科現場診療

3年前

【呼吸器感染症の考え方―市中肺炎編―】後期研修医のための呼吸器内科現場診療(日赤医療センター 坂本慶太先生)

【呼吸器感染症の考え方―市中肺炎編―】後期研修医のための呼吸器内科現場診療(日赤医療センター 坂本慶太先生)
本稿では主に呼吸器感染症における基本的な検査や, 私たちが良く目にする市中肺炎, そして市中肺炎における非定型肺炎の考え方を中心に述べていく. 

肺炎の診断は実は難しい

  • 急性の咳嗽や痰を訴えて外来受診をする患者は多いが, そのほとんどは抗菌薬治療を必要としない急性上気道炎や急性気管支炎などといった, いわゆる感冒である.
  • 特に感冒の場合は, 上気道症状 (咳嗽, 鼻汁, 咽頭痛) が強いことが多いが, 喀痰や呼吸困難, 胸膜痛などを伴う際には肺炎を見逃さないように検査を組むのが良い.
  • 肺炎の診断は実は難しく, 患者の臨床症状, 身体所見, 血液検査や胸部単純X線写真, 胸部CTなどを総合して診断を行う¹⁾. また, A-DROPCURB-65, qSOFAなどを用いて重症度分類を行うことも有用である²⁾³⁾. 

呼吸器感染症の基本

「良質な喀痰」が診断と治療のカギ

  • 呼吸器感染症の診療において最も大事なのは「良質な喀痰を採取する」ことである.
  • 良質な喀痰をグラム染色や培養検査に提出する (あるいは自分で確認する) ことで原因菌の特定に結び付き, それが肺炎の診断および治療のカギとなる.
  • 抗生剤のスペクトラムをどれだけ知っていても相手が分からなければ太刀打ちできないのである.

喀痰の採集が難しい場合

  • どうしても喀痰が出ない, 良質な喀痰でないという場合は3%高張食塩水吸入を5-10分程度 (最長でも30分) 行うことをお薦めしたい.
  • 抗酸菌の検出にも有用で, 気管支鏡検査による採痰, 洗浄と比較しても培養陽性の感度において遜色がないという報告もある⁴⁾. 

市中肺炎と起因菌

  • 市中肺炎の主な原因微生物とその検査を以下に示す. 最も分離頻度が高いのは肺炎球菌である.
  • 特に肺炎球菌性肺炎は重症化しやすいため、迅速検査や喀痰培養などを注視しておく必要がある
  • その他、多彩な肺外症状を呈するレジオネラや喫煙者の肺炎に多いインフルエンザ桿菌モラクセラ・カタラーリスなど病歴や臨床所見から得られる情報も重要である.
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市中肺炎の重症度分類

  • また, 予後の予測や治療場所の決定をするうえで重症度の評価は大事である. 重症度と死亡率に相関関係を見出した 🔢Pneumonia Severity Index (PSI)は非常に有名であるが, チェック項目が多く煩雑である.
  • 簡便で使いやすいものには 🔢CURB-65スコア (表3) や 🔢 A-DROPスコア (表4) などがある. 肺炎と診断したあとはこれらの表を参考にしながら診療の場所を決定するとよいだろう. いずれも患者背景や臨床所見を含めた総合的な判断が重要である. 
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非定型肺炎の考え方

  • 市中肺炎の診療において非定型肺炎のカバーを検討すべき状況はどんな時だろうか. 実臨床においては, 非定型肺炎のように見えて, 実は肺炎球菌性肺炎であった, などということは少なくなく, 実際にそういった経験をした先生方も多いのではないだろうか.
  • 抗生剤のカバー範囲を広げることによる薬剤耐性の対策も重要視されつつあり, 明確な答えがない領域ではあるが以下に述べていく.

成人肺炎診療ガイドライン

成人肺炎診療ガイドライン²⁾では非定型病原体による肺炎 (非定型肺炎) を想起する条件が記載されている (表5) .

【呼吸器感染症の考え方―市中肺炎編―】後期研修医のための呼吸器内科現場診療(日赤医療センター 坂本慶太先生)

(🔢 非定型肺炎スコア で計算可能!)

  • この考え方はこれまでのガイドラインでも記載されており, 一貫した重要な指標である. ただしこの領域における課題の一つに「診断の難しさ」がある.
  • 細菌性肺炎と診断された場合に非定型肺炎による混合感染がないのか, また細菌性肺炎の診断も決まらない場合, 非定型肺炎かどうかも判断が曖昧になってしまう. 上述したグラム染色で非定型肺炎を診断することはほぼ不可能であり, 迅速診断検査 (尿中抗原検査, LAMP法) などはリアルタイムではなかったり, 施設間においての差も大きい. また, 感度や特異度の問題も無視できない.

JRSやATS/IDSAのガイドライン

  • JRSやATS/IDSAのガイドラインでは中等症以上なら非定型肺炎のカバーを考慮してもよい⁵⁾とされているが, 一部のランダム化比較対照試験などではルーチンに非定型肺炎をカバーすることは推奨しない⁶⁾ということもいわれており, 現状ではかなり判断に困ることも多いのではないだろうか.
  • 以上のことを踏まえると, 私見も混じってしまうが, 少なくとも非定型肺炎の病原体が起因菌として同定されたとき, 重症市中肺炎のときには非定型肺炎をカバーし, 起因菌が不明な場合でも非定型肺炎を考慮しうる状態のときもカバーしておくことがよいだろう. ③に関しては病歴や患者背景, 身体所見や画像所見を総合的に考え, 個別に対応していくというところが現状であろう. 

引用文献

  1. Gonzales R, et al : Principles of appropriate antibiotic use of uncomplicated acute bronchitis : Background. Ann Intern Med 134 : 521-529, 2001
  2. 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会 : 成人肺炎診療ガイドライン. 日本呼吸器学会, 2017
  3. Lim WS et al : BTS guidelines for the management of community acquired pneumonia in adults : Update 2009. Thorax 64 Suppl 3 : ⅲ1-55, 2009
  4. Anderson C, et al : Comparison of sputum induction with fiberoptic bronchoscopy in the diagnosis of tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med 152 : 1570-1574, 1995
  5. Joshua PM, et al : Diagnosis and treatment of adults with community-acquired pneumonia ; A randomized noninferiority trial. JAMA Intern Med 174 : 1894-1901, 2014
  6. Garin N, et al:β-Lactam monotherapy vs β-lactam-macrolide combination treatment in moderately severe community-acquired pneumonia;A randomized noninferiority trial. JAMA Intern Med 174:1894-1901, 2014) 

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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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