HOKUTO編集部
7日前
真性多血症 (polycythemia vera : PV) は、 血栓症をはじめとする合併症リスクを伴う骨髄増殖性腫瘍であり、 特に若年例を含む低リスク症例の治療方針は議論が続いている。 日本の造血器腫瘍診療ガイドラインでは、 低リスクPVに対する細胞減少療法は原則として推奨されておらず (カテゴリー3)、 瀉血不耐や白血球・血小板の著明な上昇、 脾腫進行時に限って考慮される (カテゴリー2A)。 一方、 近年はロペグインターフェロンα (ropeg-IFN-α) を含む新たな治療選択肢の有用性を示す報告が蓄積されつつあり、 従来の層別化に基づく治療戦略の再考が求められている。 本稿では、 Blood誌に掲載された最新の知見をもとに、 低リスクPVにおける細胞減少療法の現時点での位置づけと、 実臨床での応用について概説する。
低リスクPVでは瀉血とアスピリンが基本だが、 特定の病態があれば細胞減少療法を検討する。 これらは単独でも介入契機となるが、 複数の所見が重なる場合は積極的な治療が推奨される。 臨床判断では、 患者全体の状況を踏まえ、 リスクとベネフィットのバランスを慎重に評価すべきである。 以下に、 細胞減少療法を検討すべき主な臨床状況を示す。
強い疲労感、 掻痒感、 寝汗、 早期満腹感などによりQOLが大きく損なわれている場合には、 MPN-SAFなどのバリデートされた評価ツールを用いて症状を定量的に把握し、 治療介入の要否を客観的に判断することが重要である。 実際、 MPN患者では健常対照群と比較してQOLが有意に低下していることが示されている。
ヘマトクリット管理のために年間4~6回以上の瀉血を要し、 忍容性や生活への影響が問題となる場合は、 瀉血による血栓症リスクや疲労感の増加も踏まえ、 細胞減少療法への切り替えを検討すべきである。
高血圧、 糖尿病、 脂質異常症などの心血管危険因子を有する場合は、 血栓症リスクの上昇が懸念されるため、 リスク評価とともに細胞減少療法の導入を含めた治療戦略を検討し、 併存症の管理も徹底すべきである。
白血球増多 (WBC >15,000/mm³、 特に不安定な推移や35,000/mm³超の持続) は、 血栓症に加えて骨髄線維症 (post-PV myelofibrosis: PPMF) や急性骨髄性白血病への進展リスクと関連することから、 細胞減少療法の適応となる。
一方、 血小板増多 (Plt >100万/mm³) は、 後天性フォン・ヴィレブランド病などの出血リスクと関連しうるが、 血小板数単独では血栓症リスクとの明確な関連性は乏しいとされる。
また、 進行性の脾腫は疾患の進展やPPMFへの移行を示唆する兆候であり、 治療方針を決定するうえで重要な指標となる。
TET2、 DNMT3A、 SRSF2などの非ドライバー遺伝子変異は疾患進行に影響しうる。 JAK2 V617FのVAF (Variant Allele Frequency) が50%超の場合、 静脈血栓症リスクが高く、 特に若年例では治療介入を検討すべき根拠となる。
特に25歳未満で診断された若年PV患者では、 晩期合併症リスクを踏まえ早期介入が検討される。 IFN-αは骨髄線維症への進展を抑制しうる治療選択肢である。
妊娠中や手術前など一時的にリスクが増大する状況では、 IFN-α (妊娠時) やHU (周術期) による細胞減少療法が選択される。
低リスクPV患者に対する細胞減少療法の第一選択薬は、 インターフェロンα (IFN-α) またはヒドロキシカルバミド (HU) であり、 患者背景や治療目標に応じた適切な選択が求められる。 以下に、 それぞれの薬剤の特徴を示す。
若年者では、 JAK2変異アレル頻度の低下や骨髄線維症への進展抑制といった長期的な疾患修飾効果が期待されており、 実際に20年時点での骨髄線維症フリー生存率 (MFS) は、 IFN-α治療群で無治療群に比べ有意に高いことが示されている。 なお、 IFN-αは妊娠中にも使用可能な唯一の細胞減少薬であるが、 気分障害や自己免疫疾患などの副作用には留意が必要である。
短期間でヘマトクリットのコントロールが可能であり、 迅速な治療反応が求められる周術期などに適している。 一方で、 有害事象として皮膚癌や粘膜皮膚毒性が報告されており、 これらに対する定期的なモニタリングが必要である。
第一選択薬としての位置付けではないものの、 MPN-SAFスコアで評価される症状の改善に対して高い効果が認められている。 さらに、 JAK2 V617F VAFの低下が血栓リスクの軽減に寄与する可能性も示唆されている。
細胞減少療法中のモニタリングは、 以下の指標を継続的に評価することが推奨される。
- 臨床症状の変化
- 血算
- LDH値
- 脾腫の大きさ
- 瀉血の頻度と忍容性
- 心血管リスクの推移
- JAK2 V617F VAFの経時変化
特に、 JAK2 V617F VAFの低下は疾患修飾効果の指標とされており、 長期的な有害イベントの予防に寄与する可能性がある。 そのため、 該当する患者においては定期的な測定が望ましい。
低リスクPV患者においても、 個別の臨床背景や分子プロファイルに基づく治療介入が重要であり、 リスク層別化は静的ではなく、 動的に再評価すべきである。 適切な細胞減少療法の選択と継続的なモニタリングにより、 合併症の予防および長期的な予後改善を目指すことが、 現代の治療戦略の中心に位置づけられている。 将来的には、 より多くの低リスクPV患者が疾患修飾を目指した治療の恩恵を受ける可能性も示唆されている。
Blood. 2025;145(16):1717-1723.
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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