HOKUTO通信
4日前

静岡県立こども病院で2021年、 急性白血病で入院していた生後3ヵ月の乳児に対し、 本来は静脈内に投与する抗がん剤が髄腔内に投与された事案について、 静岡県立病院機構は、 当時の主治医だった男性医師(49)を減給の懲戒処分とした。
処分は2026年5月8日付で、 内容は 「1日分賃金の半額」 とする減給。 当時の院長と診療部長については、 文書による厳重注意とした。 複数の報道によると、男性医師は 「大変申し訳ないことをしてしまった」 と述べているという。
乳児は投与後、 自発呼吸ができなくなるなど重篤な状態となり、 長期人工呼吸管理が続いた。 その後、 2021年11月、 気管切開カニューレ交換時の換気不全で死亡した。
男性医師は業務上過失傷害罪で略式起訴され、 罰金50万円の略式命令を受けている。

病院の法定医療事故調査委員会による報告書によると、 乳児は2020年12月、 乳児白血病の診断で入院した。 著明な白血球増多や呼吸・循環管理が必要な状態だったことから、 通常の一般内科病棟ではなく、 小児集中治療室 (PICU) で治療が行われていた。
2021年1月4日、 骨髄検査とともに、 静脈内・筋肉内・髄腔内の3経路から抗がん剤を投与する予定だった。 このうち、 本来は静脈内投与予定だった 「オンコビン®」 (一般名ビンクリスチン) が、 誤って髄腔内に投与された。
報告書では、 ビンクリスチンについて 「神経毒性が非常に強く、 髄腔内投与は絶対的禁忌」 としている。
投与後、 病院側は直ちに髄液灌流などを実施したが、 乳児は自発呼吸ができなくなり、 長期人工呼吸管理が必要な状態となった。

報告書では、 当日の経過が詳細に記載されている。
当時、 PICUでは他患者の処置も並行して行われており、 処置ワゴン上には複数の薬剤や器材が並んでいた。 看護師は当初、 髄腔内投与薬と筋肉内注射薬のみを処置ワゴンに準備し、 静脈内投与薬は薬剤管理室に残していた。
しかし処置開始直前、 静脈内投与薬も赤いカゴごと処置ワゴン上へ移動されていた。 誰が移動したかは判明していないという。

その後、 血液腫瘍科医師が赤いカゴ内の薬剤を指し 「これだね」 と発言。
看護師は、 指された薬剤が 「静注」 と書かれたビンクリスチンであることに気づいていたが、 「髄注に使うこともあるのか」 と解釈し確認しなかった。さらに、 髄注前に実施すべきバーコード認証やダブルチェックも行われていなかった。
報告書では、 医師側について 「薬剤を区別するよう事前に伝えていたため、 目に入った薬剤が髄腔内投与薬だと思い込んだ」 と分析している。
また、 看護師側については 「薬剤分注コネクタの操作を教わることに集中し、 薬剤確認を行わなかった」 と記載している。

PICUの環境要因についても分析している。
PICUでは血液腫瘍患者の入室自体が少なく、 さらに髄腔内抗がん剤投与は年間0~2件程度だった。
また、 一般病棟では運用されていた 「髄注薬以外を処置室に持ち込まない」 というルールや、 「マルク・ルンバール タイムアウト」 と呼ばれる確認手順が、 PICUでは十分共有されていなかった。
加えて、 PICUでは緊急処置が多く、 ベッドサイドに多種類の薬剤を並べる慣習があったという。報告書は、 「処置ワゴンの上が煩雑で、 見分けがつきにくかった可能性がある」 と指摘している。
報告書は、 確認不足だけでなく、 チーム内コミュニケーションにも踏み込んでいる。
血液腫瘍科医師は、 PICUスタッフとの関係性について 「ホームグラウンドではなく、 遠慮があった」 と説明。
また、 フリー看護師も薬剤認証が行われていないことに気づいていたが、 「処置が始まっていたため言葉に出さなかった」 とされている。
報告書は、 これらについて 「心理的安全性」 が十分ではなかった可能性に言及している。
病院側は再発防止策として、 以下を挙げている。
⚫︎髄注禁忌薬を注射器ではなくボトル払い出しへ変更
⚫︎髄注用注射器への投与経路表示
⚫︎全職員向け確認行動マニュアル整備
⚫︎髄注タイムアウトの院内共通化
⚫︎ベッドサイドでの認証・ダブルチェック徹底
⚫︎薬剤保管場所と責任者の明確化
⚫︎がん化学療法認定看護師や薬剤師の関与強化
報告書では、 薬剤分注コネクタが 「静脈用注射器と神経麻酔用注射器を接続できてしまう」 ことで、 本来のFool Proofを崩していた点にも触れている。
静岡県立こども病院 : 医療事故の院内事故調査報告書の公表について (2022/12/6)

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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