令和で激減?医療訴訟の逆転判決
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8日前

令和で激減?医療訴訟の逆転判決

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医療訴訟が珍しくなくなった今、 医師は法律と無関係ではいられない。 連載 「臨床医が知っておくべき法律問題」 17回目のテーマは 「逆転」。

「逆転劇」 は小説や映画では格好の題材になるし、 スポーツで観戦の醍醐味になる。 先生方が治療している疾病のように辛い逆境や不遇に苦しんでいる人には一種の希望にもなるだろう。

では、 裁判の世界ではどうか。 「逆転裁判」 というゲームがあるように、 逆転はつきものだが、 「なかなかない」 のが実情だ。

刑事裁判

「逆転」 率は8%程度

令和で激減?医療訴訟の逆転判決

刑事事件は法律上、 1審で持っていた証拠を2審で提出することは原則できない。 ボクシングに例えれば、 第2ラウンドは新たに殴り合うのではなく、 第1ラウンドの動画を別の審判 (裁判官) がみて、 第1ラウンドの判定の妥当性を検討する手続きである。

最高裁の統計資料 (2023年度) によると、 殺人など重大事件を扱う裁判員裁判では、 一審の有罪率96%、 控訴率は35%程度。 一方、 逆転に相当する破棄自判・破棄差戻は8.5%程度である。

最高裁への上告事案でも、 被告人からの上告で無罪になったものは、 2023年度にはない。 検察からの上告で無罪が変更されたものは50%あったようだ。

民事裁判

「令和」は医療裁判の逆転が減少?

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民事裁判の場合、 控訴率は毎年20%程度であるが、 医療事件に限ると、 64.3%と非常に高い。 医療事件は、 専門性が高く、 限界事例も多いため、 裁判官の判断も分かれやすいこともあろう。 ただ、 やはり医療訴訟は 「人格訴訟」 といわれるように、 訴訟自体が目的になっている側面があるからであろう。 控訴審での破棄率 (逆転率) は通常事件では25%前後だが、 医療事件の統計は見当たらなかった。

医療事件における最高裁での逆転は、 平成の時代は結構見られた。 多くは医療側を逆転敗訴させる患者の救済的な内容だったが、 令和になってからは少ない。 トンデモ判決と言われる不当判決が、 ウェブ上などで指摘されることを裁判官が目にすることが多くなったからではないだろうか。

判例の検索サイトで 「最高裁×破棄×医師×注意義務」 で検索すると、 ヒットするのは1件だけ (最高裁判所第2小法廷判決・令和5年1月27日) である。

裁判の経緯は以下だ。 統合失調症での任意入院を繰り返していた患者が飛び降り自殺した事案で、 高松地裁は、 病院の対応に問題はないとして患者側の請求を棄却。 2審の高松高裁は、 「他の病院と比較した上で入院先を選択する機会を保障するため,病院は無断離院をして自殺する危険性があることを説明すべき義務を負っていた」 と説明義務違反による賠償を命じた。

判決が揺れる中、 最高裁は、 「病院の判断に誤りがない以上、 他の病院との比較説明など必要はない」 と再逆転で病院を勝たせている。 当時、 1審の高松地裁は、 医療側に対して非常に不利益な判決を連発していることで有名な裁判所だった。 最高裁は 「さすがにこれは見過ごせない」 と判断したようである。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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