HOKUTO編集部
4日前
日常診療で対応に苦慮することが多い不眠症。 睡眠障害のプロフェッショナルである松井健太郎先生に、 不眠症の診断や治療に役立つ知識をわかりやすく解説いただきます!
不眠症治療において、 2014年のスボレキサントの承認以降、 オレキシン受容体拮抗薬 (dual orexin receptor antagonists; DORA) が新たな治療選択肢として注目を集めている。
オレキシン受容体拮抗薬は従来のベンゾジアゼピン受容体作動薬と異なり、 身体依存や離脱症状が生じにくく、 安全性に優れた薬剤である。 そのため、 近年は不眠症治療における中心的な薬剤と位置付けられている¹⁾。
現在、 わが国ではスボレキサント (SUV)、 レンボレキサント (LEM)、 ダリドレキサント (DAR) の3剤が使用可能である。
スボレキサント (SUV)
レンボレキサント (LEM)
ダリドレキサント (DAR)
近年、 SUV・LEM・DARの有効性と安全性を比較したシステマティックレビュー/ネットワークメタアナリシスが発表された²⁾。
本研究は、 成人の不眠症患者を対象に、 3剤のいずれかを用いた実施された8件の二重盲検無作為化比較試験 (参加者総数5,198例) を統合したものであり、 治療1ヵ月後における主観的不眠症状の変化および有害事象が評価された。
入眠障害に対する効果量の大きさ (標準化平均差) で比較した結果を示す。 LEMの入眠改善効果の強さが際立つ結果であった。
総睡眠時間における効果量の比較を以下に示す。 睡眠時間の延長作用はDAR50が最も大きいことが示唆された。
なお、 中途覚醒時間に関しては、 すべてのオレキシン受容体拮抗薬がプラセボと比較して改善効果を示したものの、 3剤間での統計学的な有意差は認められなかった。
3剤に共通して注意すべき有害事象は 「翌朝への眠気の持ち越し」 であった。
また、 DAR25、 LEM10、 SUV20/15はプラセボと比較して傾眠の発生率が有意に高かった一方で、 DAR50とLEM5では傾眠の発生率がプラセボと有意差を認めなかった。
実臨床における使い分けについて、 以下に私見を述べる。
前提として、 本研究では有効性に関するすべての評価項目において、 3剤ともプラセボを有意に上回っていた²⁾。 したがって、 どの薬剤も一定の有効性が保証されているといえる。
効果を最大にしたい場合、 入眠困難に対してはLEM、 中途覚醒や早朝覚醒に対してはDARをそれぞれ最大量で使用するのが良さそうである。
有害事象については、 少なくとも翌日の持ち越しについては"解釈が難しく、 なんとも言えない"という印象である。 臨床の現場では、 悪夢によりオレキシン受容体拮抗薬が中止となるケースがままあるが、 本研究では触れられていない。
なお、 悪夢の発症率について3剤を比較した報告は現時点ではない。
SUVは10mg錠、 LEMは2.5mg錠があるので、 服薬に不安が強い患者に対してはこのような低用量から使用可能である。
有害事象は用量依存的に生じるはずであり、 少ない用量から始められる点は大きなメリットとなりうる。
Dr.松井の豆知識
余談であるが、 紹介した論文を執筆された岸先生のグループは、 以前にもシステマティックレビューおよびネットワークメタアナリシスにてLEMとSUVの有効性を比較した論文³⁾を発表されており、 これも大変センセーショナルであった (少なくとも私的には)。
この報告では、 入眠障害に対してはSUVよりもLEMが優れることを示唆していた (ここがセンセーショナル)。 一方、 「LEMを最大量で使用するとSUVよりも有害事象が出やすい」 ことも示しており、 SUV目線でいうとまだ救いのある結果だったが、 今回の新しい報告で、 それも打ち砕かれることとなってしまった。
SUVは本来、 40mg/30mgでの上市を目指して治験をしていた薬剤である。 しかし、 安全性への懸念から、 アメリカ食品医薬品局 (FDA) での承認寸前にひっくり返されてしまったようである⁴⁾。 現在使用可能な20mg/15mgは、 いわば"本気を出せていない用量"なので、 ちょっと気の毒である。
RCTの結果から、 入眠障害に対してはLEMを、 睡眠維持困難に対してはDARを使うのが一番効果が大きい可能性が示唆された。 いずれも最大量使用が望ましい。
この記事を執筆している2025年7月の時点ではDARの長期処方は解禁されておらず、 著者自身はDARに対して十分な臨床的実感が得られていない。
LEMとSUVを比較した際には、 既報²⁾³⁾で示されたように、 入眠障害に対しては確かにLEMのほうが良いかなという印象はあるが、 「両者を服用した結果、 SUVのほうが自分に合っている」 という患者もいないわけではないので、 一定の個人差があるのではないかと考えている。
繰り返しになるが、 いずれのオレキシン受容体拮抗薬も、 従来のベンゾジアゼピン受容体作動薬と比較し安全性で優れており、 その有効性も十分に確立されている。 選択肢の幅が広がったのは、 一臨床医としてありがたいことである。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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