HOKUTO編集部
9ヶ月前
本年2月22~24日に、 名古屋国際会議場において第21回日本臨床腫瘍学会学術集会 (JSMO2024) が開催されました。 今大会において特に注目されるトピックについて、 大阪国際がんセンター血液内科副部長の藤重夫先生に印象記をお寄せいただきました。
本邦でもReal World Data (RWD) の活用について関心がもたれているが、 欧米と比べて遅れが大きい領域と考えられる。 今回の会長企画シンポジウムでも同様の課題が取り上げられており、 本学会で重要なテーマと考えられていることが示されている。
シンポジウムではフラットアイアンヘルス株式会社の取り組みについて紹介されていたが、 異なる電子カルテシステムに個別対応するシステムを構築しているということで、 本邦のように標準規格がなく独自に開発されてきた電子カルテシステムでも一つのデータベースに集約することができる可能性が示された。 ただ、 非構造化データについては医療知識のある人的資源を用いて構造化するというステップがあり、 その部分に大きなリソースが必要となるのではないかと考えられた。
営利企業が収益の範囲内で対応できるのであれば良いが、 本邦のように医療機関に人的資源の余裕のない環境下で自発的な対応を求められると厳しいところである。 この部分を自動的に構造化できるシステムを構築できるかが重要なポイントではないかと感じた。
抗体薬物複合体 (ADC) は固形癌でも一つの重要なトピックとなっているが、 今回はデルクステカンに関連した最近の話題が中心であった。
B7-H3に対する抗体ifinatamabにデルクステカンを結合させたADC (ifinatamab deruxtecan;I-DXd) がさまざまな癌種において効果を示しており、 今後の展開が期待される内容であった。
B7-H3については血液癌に関しては発現があまり高くないようであるが、 必ずしも発現と効果に相関がある訳でもないというデータも示されていたので、 血液癌においても開発の余地はあるのかもしれない。
抗癌剤治療における費用対効果については、 欧米で特に取り上げられることが多かったが、 今回本邦での取り組みなども紹介されており参考となった。
経済的毒性 (financial toxicity) については、 米国などにおいては患者は破産するか治療を中止するかという究極の選択を迫られることも多いと言われているが、 本邦のような皆保険制度が充実した国でも抗癌剤治療費用が経済的負担となることは少なくないのではないかとの話題もあり、 今後本邦でもさまざまな観点での医療にかかるコストにも注視していく必要を感じた。
遠隔医療ではデジタル化・データの共有が重要な鍵となるが、 その部分は非常に日本の弱いところではあり、 今後人口減少が大きい地域では専門家が不足する可能性も出てくることが予想されるので、 それまでに状況が改善されればと感じた。
米・MDアンダーソンがんセンター (MDACC) で行われている臍帯血からのCAR-NK細胞療法は、 既にN Engl J Med誌などにも報告されているが、 非常に期待される治療法である。 特にoff-the-shelfに使用できる点が実臨床でもメリットがある。
臨床試験結果の解釈に統計学的解析の理解というのは非常に重要である。 さまざまな限界点などを紹介している点は参考になる。 残念ながら結果が微妙な臨床試験というのも存在し、 それを根拠に高額な薬剤が承認されてしまうと本邦のように国民皆保険の場合には医療経済的に問題である。
諸外国ではそういった判断に迷う際には再検証の試験を行いつつも仮免許を与えるような承認制度もあることが紹介されていた。 統計課の先生からも 「短期的な臨床試験の結果のみでは長期的な視点では不確実性が高いのでフォローアップデータでの確認が必要」 という意見も出ており、 こちらも参考となった。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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