【呼吸器感染症】2025年1月の注目論文3選 (中島啓先生)
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亀田総合病院

15日前

【呼吸器感染症】2025年1月の注目論文3選 (中島啓先生)

【呼吸器感染症】2025年1月の注目論文3選 (中島啓先生)
呼吸器感染症領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 2025年1月に注目度が高かった呼吸器感染症関連の論文を3つご紹介します。

市中肺炎入院治療にマクロライド追加は有効?

J Infect Dis. 2024 Dec 24: jiae639.

Addition of macrolide antibiotics for hospital treatment of community-acquired pneumonia

背景 : RCTとRWDの結果は異なるか?

市中肺炎 (CAP) の治療において、 βラクタム系抗菌薬へのマクロライド系抗菌薬追加の有効性は長年議論されています。 2024年のACCESS試験¹⁾では、 全身性炎症反応を伴うCAPにおいてマクロライド追加が早期臨床反応を改善する可能性が示されました。 今回は英国の大規模なリアルワールドデータからの報告です。

研究デザイン : 8,872例のデータを解析

  • 2016年1月~24年3月における英国オックスフォードシャーのCAP入院患者8,872例の電子カルテデータを解析
  • 初期治療としてアモキシシリンまたはアモキシシリン/クラブラン酸を投与された患者におけるマクロライド追加の影響を評価
  • 主要アウトカム : 30日全死亡率、 入院期間、 SOFAスコアの変化
  • 統計解析;ベースラインの重症度による交絡を調整するため逆確率重み付け法を採用

結果 : マクロライド追加に臨床利益なし

  • マクロライド追加有無で30日死亡率に有意差なし
  • アモキシシリン群 OR 1.05 (95% CI: 0.75-1.47)
  • アモキシシリン/クラブラン酸群 OR 1.12 (95% CI: 0.93-1.34)
  • 入院期間にも有意差なし
  • アモキシシリン群: +1.76日 (95% CI: -1.66, +5.19)
  • アモキシシリン/クラブラン酸群: +0.44日 (95% CI: -1.63, +2.51)
  • SOFAスコアの改善にも影響なし

これらの結果は、 肺炎の重症度による層別解析や欠損データの補完による感度分析でも一貫していました。 集団レベルでは、 マクロライド系抗菌薬の追加はCAP患者の臨床転帰の改善と関連しませんでした。 CAP治療におけるβラクタム系抗菌薬へのマクロライド系抗菌薬の併用については、 有害事象や薬剤耐性のリスクとのバランスを考慮して判断する必要があります。

💬 My Opinion

今回、 英国のリアルワールドデータを用いた解析により、 マクロライド系抗菌薬の追加は30日死亡率や入院期間に有意な改善をもたらさないことが示されました。 このテーマは、 長年議論されており、 ACCESS試験の発表後は、 マクロライド系抗菌薬追加を支持する論調が強まっている印象ですが、 今回のリアルワールドデータでは、 入院患者に対するルーチンでのマクロライド系抗菌薬追加を支持しない結果が出ております。 私の現在論文投稿中の研究でも、 同様の結果が出ております。 重症例にマクロライド系抗菌薬を追加することに関しては多くの国際ガイドラインも支持しておりますが、 全ての入院症例に対してマクロライド系抗菌薬の併用が必要かについては、 今後も議論が続いていくと考えられます。

RSVワクチンは60歳未満の高リスク成人にも有効?

Clin Infect Dis. 2024 Nov 11: ciae550.

Bivalent RSVpreF Vaccine in Adults 18 to <60 Years Old With High-Risk Conditions

背景 : 高齢者向けワクチンは若年高リスク群にも有効か

米国CDCは60歳以上の成人や併存疾患を有する高齢者にRSウイルス (RSV) ワクチンを推奨していますが、 60歳未満の高リスク成人における有効性は不明でした。 本研究では、 ファイザー社のRSVpreFワクチンの免疫原性と安全性が評価されました。

研究デザイン : 若年高リスク群の免疫原性を検証

  • 18-59歳のRSV重症化リスクを有する患者を対象とした第Ⅲ相ランダム化比較試験
  • RSVpreF (120 µg) vs. プラセボを2:1で1回接種
  • 主要アウトカムは、 接種後7日間の副反応、 1ヵ月間の有害事象 (AE)、 試験期間中の重篤な有害事象 (SAE) と新規診断された慢性疾患 (NDCMC)、 免疫原性 (60歳以上の集団との非劣性評価) *
*RSVpreF接種1ヵ月後の免疫原性について、 RSVpreFの有効性が示された主要第Ⅲ相試験RENOIR²⁾の免疫原性サブセットから無作為に選択された60歳以上の集団と比較されました。 RSV-AとRSV-Bの中和抗体価の幾何平均比の95%CI下限が0.667を超え、 かつ血清反応率の差の95%CI下限が-10%を超える場合に非劣性を証明すると設定されました。

結果 : ワクチンは若年高リスク群に有効

  • 参加者678人 (RSVpreF群 453人、 プラセボ群 225人)
  • 副反応の大部分は軽度~中等度で、 重度の事象は2%以下
  • AEの頻度はワクチン群 (7.1%) とプラセボ群 (7.6%) で同程度
  • ワクチン関連のSAEやNDCMCは報告なし
  • RSVpreF接種1ヵ月後、 18-59歳群の60歳以上群に対する非劣性基準は、 RSV-AとRSV-Bの中和抗体価および血清反応率において満たされた。

RSVpreFは良好な忍容性を示し、 安全性の懸念はなく、 既に有効性が示されている60歳以上の集団との免疫ブリッジングにより、 RSV重症化リスクを有する18-59歳における有効性が示唆され、 この集団でのRSV関連疾患予防における使用が支持されました。

💬 My Opinion

高齢者を対象としたRSVワクチンの有効性は既に示されていましたが、 本研究では18-59歳の高リスク患者においても、 安全性と免疫原性が確認されました。 中和抗体価をもとにワクチンの有効性を推定する免疫ブリッジングの考え方に基づき、 18-59歳のハイリスク集団においてもRSVワクチン (RSVpreF) の有効性が示されたと考えられます。 慢性疾患や免疫不全を有する若年成人のRSV感染症予防における新たな選択肢として期待されます。

マクロライドと気管支拡張症患者の心血管病リスク

Eur Respir J. 2024 Dec 12: 2401574.

Cardiovascular Benefits and Safety Profile of Macrolide Maintenance Therapy in Patients with Bronchiectasis

背景 : マクロライドは心血管イベントを減らせるのか

国際ガイドラインでは、 年3回以上の増悪を認める気管支拡張症患者にマクロライド維持療法 (MMT) を推奨しています。 MMTが増悪を減少させることは知られていますが、 心血管イベントに及ぼす影響は明らかになっていませんでした。

デザイン : 大規模コホートでMACEリスクを評価

  • 地域全体を対象としたコホート研究
  • 2001年~18年に香港で診断された気管支拡張症患者をMMT施行有無で分類し、 交絡因子の調整に傾向スコアマッチングを使用
  • 主要評価項目は、 主要心血管イベント (心血管死、 心筋梗塞、 脳卒中の複合: MACE)
  • 安全性評価項目は、 心室性不整脈、 突然心臓死

結果 : MMTはMACEリスクを32%低下

  • 気管支拡張症患者2万2,895例が特定され、 傾向スコアマッチング後、 MMT群1,123例と非MMT群2,014例を解析コホートとした
  • MMT群でMACEリスクが32%低下した : HR 0.68 (95% CI: 0.52-0.90)
  • MACE発生率 (1,000人年あたり) : MMT群 16.38 vs. 非MMT群 24.11
  • 心室性不整脈または突然心臓死のリスク上昇は認められず : HR 0.93 (95% CI: 0.60-1.44)

気管支拡張症患者に対するMMT投与は、 重篤な不整脈関連有害事象のリスク上昇を示すことなく、 MACEリスクの有意な低下と関連していました。

💬 My Opinion

気管支拡張症患者においてMMTが増悪を抑制することは知られていましたが、 心血管系への影響については十分な検討がありませんでした。 本研究では香港の大規模コホートを用いて、 MMTがMACEを32%低下させることを示しました。 さらに不整脈リスクの上昇も認めず、 心血管系の安全性も確認されています。 これらの知見は、 気管支拡張症患者に対するMMTが増悪予防だけでなく、 心血管保護効果も有する可能性を示唆しました。 今後、 前向き臨床試験によるさらなる検証が望まれます。


出典

  1. Lancet Respir Med. 2024; 12: 294-304.
  2. N Engl J Med. 2023; 388: 1465-1477.
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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