アトピー性皮膚炎の重症度分類と治療評価 (大塚篤司氏)
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HOKUTO編集部

5ヶ月前

アトピー性皮膚炎の重症度分類と治療評価 (大塚篤司氏)

アトピー性皮膚炎の重症度分類と治療評価 (大塚篤司氏)
「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」 が3年ぶりに改訂されました。 本連載では、 近畿大学皮膚科学教室 主任教授の大塚篤司氏に、 ガイドラインの要点を解説していただきます。 第2回は 「重症度分類と治療評価」 です。

1. はじめに

アトピー性皮膚炎は、 多様な臨床像を示し、 患者ごとに異なる重症度と治療反応性を有する。 適切な治療戦略を立てるためには、 疾患の重症度を正確に評価し、 その変化を注意深く観察しながら治療効果を判断することが求められる。 重症度評価は、 患者のQOL向上に直結するだけでなく、 医療資源の適正な配分や治療ガイドラインの遵守にも寄与する。

重症度分類や治療評価は、 診断後の治療計画立案と効果判定において不可欠な要素であり、 臨床現場での実用性が高い。  なお、 今回のガイドライン改訂において、 重症度分類ならびに治療評価の変更はない。

2. 重症度の評価法

アトピー性皮膚炎の重症度評価には、 皮疹の程度や分布、 瘙痒などの自覚症状、 QOL指標が総合的に考慮される。 これらを定量化することで、 軽症から中等症、 重症へと連続的な分類が可能となり、 治療方針の決定や経過観察に役立てることができる。

(1) IGAスコア >>HOKUTOで計算

臨床試験や実臨床で広く用いられる重症度評価として、IGA (Investigator’s Global Assessment)スコアが挙げられる。 皮疹の外観や重症度を総合的に判断し、 0~4の5段階で評価する簡便な指標であり、 治療前後の皮疹状態を客観的に比較するのに適し、 治療効果判定にも有用である。

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(2) 体表面積 BSAの評価

アトピー性皮膚炎病変が身体表面積の何%を占めているかを示す体表面積 (BSA ; Body Surface Area) の測定も重要である。 BSAは病変拡大度を把握し、 全身的な治療介入や生物学的製剤導入の判断材料となる。 5の法則、9の法則、手掌法、Lund and Browder法などが知られている。

アトピー性皮膚炎の重症度分類と治療評価 (大塚篤司氏)
アトピー性皮膚炎の重症度分類と治療評価 (大塚篤司氏)

(3) NRS・VAS

患者が主観的に感じる瘙痒 (かゆみ) の強さを定量化するため、 NRS (Numerical Rating Scale) やVAS (Visual Analogue Scale) などのツールが用いられる。 NRSでは0~10の整数値で、 VASでは0~100mmのスケール上で患者が自身の痒みを評価する。 これにより、 医師は患者の自覚症状変化を把握し、 治療方針の微調整に反映させることが可能となる。

(4) SCORADスコア >>HOKUTOで計算

Scoring Atopic Dermatitisの略で、 紅斑、 浮腫、 滲出、 苔癬化、 鱗屑、 乾燥などの皮疹所見および瘙痒・睡眠障害を点数化する総合的客観的指標である。 臨床研究やガイドラインで用いられる。

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(5) EASIスコア >>HOKUTOで計算

Eczema Area and Severity Indexの略で、 身体を4部位に分け、 紅斑、 浸潤・苔癬化、 掻破痕、 鱗屑を4段階評価し、 体表面積を考慮して算出する総合的客観的指標である。 臨床研究で用いられる。

(6) POEMスコア >>HOKUTOで計算

Patient-Oriented Eczema Measureの略で、 患者報告式の評価法。 過去1週間の湿疹症状や瘙痒に基づくQOL指標である。 臨床研究で用いられる。

IGAスコアやBSA、 NRS・VASと、 SCORAD、 EASI、 POEMなどを併用することで、 ADの重症度と変化をより立体的かつ多面的に捉えることが可能となる。 

3. 治療評価の意義と手法

治療評価は、 選択した治療法が適切か、 あるいは治療強度を増減すべきかの判断を可能にする。 重症度評価と同様に、 治療効果判定には客観的指標と主観的指標の双方を用いることが望ましい。

(1) 短期的評価と長期的評価

治療開始後の短期的変化 (数週~1ヵ月) は、 皮疹所見や瘙痒改善度、 睡眠状態などで評価される。

一方、 長期的評価 (数ヵ月~数年単位) では、 再発頻度、 治療薬使用量の推移、 持続的なQOL改善度などが評価指標となり、 継続的な管理方針の見直しに有用である。

(2) 患者報告アウトカムの活用

患者視点からの評価指標であるPOEMやDLQI (Dermatology Life Quality Index)、 さらにはNRSや痒みのVASは、 治療による症状改善や生活のしやすさを直接的に反映する。

患者報告アウトカム (PRO: Patient-Reported Outcomes) であるこれらの指標を取り入れることで、 医師主導の評価では捉えにくい患者満足度や治療継続意欲を定量的に把握できる。

(3) 医学的検査・画像評価

必要に応じて皮膚バリア機能 (経表皮水分喪失量、 皮膚水分量) を評価することにより、 炎症の変化を客観的に捉えることが可能である。 こうした補助的手段は、 複雑な病態を理解し、 より精密な治療評価に役立つ。


4. 重症度・治療評価時の留意点

重症度分類や治療評価は、 最終的には患者固有の背景因子 (年齢、 併存症、 社会的状況、 嗜好性) を考慮し、 患者中心の治療を実現するための手段である。 各種スコアや客観的指標はあくまで補助的であり、 最も重要なのは、 患者との十分な対話と共感的な医療対応である。

また、 小児や妊婦、 高齢者、 免疫低下状態にある患者など、 特定の集団では標準的評価法を修正・補完し、 個別化した評価・治療が求められる。


アトピー性皮膚炎の重症度分類と治療評価は、 適切な治療戦略立案および治療効果判定において極めて重要である。 IGAスコアやBSA、 NRS、VASなど多面的な評価指標を用いて患者の状態を的確に把握することで、 長期的なQOL向上と治療満足度の増進が期待できる。 臨床医は評価法を適切に組み合わせ、 常に患者中心の治療を目指すことが求められる。
アトピー性皮膚炎の重症度分類と治療評価 (大塚篤司氏)
出典 : 日本皮膚科学会ガイドライン. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024, 日皮会誌 : 134 (11), 2741-843.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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