【肝胆膵】ASCO 2025の注目演題は?
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HOKUTO編集部

2ヶ月前

【肝胆膵】ASCO 2025の注目演題は?

【肝胆膵】ASCO 2025の注目演題は?
米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2025) の肝胆膵領域における注目演題について、国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科/先端医療科の丸木雄太先生にご解説いただきました。

はじめに

ASCOは毎年、 米国・シカゴで開催され、 最新の癌治療・研究成果が発表される。 本学会の発表は、 後の標準治療を変えることにつながることも多いため、 癌治療に関わる多くの臨床医が注目している。 今年のASCO 2025でも、 膵癌、 胆道癌において多くの第III相試験の結果がPositiveデータとして報告され、 実臨床を変えることが期待される。 ここでは3つの注目演題について紹介する。

局所進行膵癌

PANOVA-3 : 臨床応用進むTTFieldsの化学療法への上乗せ効果を検証

腫瘍治療電場 (Tumor Treating Fields; TTFields) とは、 癌細胞の分裂を阻害するために使用される、 低強度・中周波の電場を利用した非侵襲的な治療法である。 ノボキュア社 (Novocure) が開発し、 現在は脳腫瘍 (膠芽腫) などの固形腫瘍に対して臨床応用が進められている。

第Ⅲ相PANOVA-3試験は、 局所進行膵癌 (LAPC) を対象に、 TTFieldsとゲムシタビン+ナブパクリタキセル (nab-PTX) 併用 (GnP) 療法の有効性および安全性を評価する第III相国際無作為化比較試験である。 主要評価項目は全生存期間 (OS) であった。

TTFields併用で死亡リスクが18%低減

OS中央値は、 化学療法単独群の14.2ヵ月に比べて、 TTFields群では16.2ヵ月と有意な延長が示された (HR 0.82、 p=0.039)。

忍容性等は良好もPFSは有意差を示さず

副次評価項目である1年OS率や痛みのない生存期間、 QOLもTTFields群で有意に改善した。 またTTFieldsは良好な忍容性を示し、 主な副作用は軽度~中等度の皮膚刺激にとどまった。

一方で、 無増悪生存期間 (PFS) は、 化学療法単独群の9.3ヵ月に対してTTFields群では10.6ヵ月と、 両群間に有意差は認められなかった (HR 0.85、 p=0.137)。

考察 : TTFields併用が進行例への有望な新規治療となる可能性

両群のOSのカプランマイヤー曲線は試験開始後6ヵ月までは重なっており、 その後はTTFields群が優位性を維持していることなどに鑑みると、 TTFieldsの効果は2次治療以降にも継続している可能性などが考えられる。 PANOVA-3試験はLAPCのみを対象にした数少ない第III相試験であり、 治療法の少ない予後不良な膵癌において、 有望な新規治療を示した試験といえる。 解決すべき問題として、 TTFields使用による経済的損失面などが挙げられるが、 今後、 本邦においてどのように導入されていくのかが注目される。

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(ASCO 2025 公式サイトのAbstractに遷移)

切除可能/境界切除可能膵癌

CASSANDRA : PAXG vs mFOLFIRINOX、 術前療法を比較評価

第Ⅲ相CASSANDRA試験は、 切除可能または境界切除可能な膵癌に対して、 術前療法としてmFOLFIRINOX (5-FU、 ロイコボリン、 イリノテカン、 オキサリプラチン) とPAXG (シスプラチン、 nab-PTX、 ゲムシタビン、 カペシタビン) を比較した第III相無作為化比較試験である。 261例が登録され、 PAXG群に133例、 mFOLFIRINOX群に128例が無作為割付された。

主要評価項目は無イベント生存期間 (EFS) *で、 副次評価項目として腫瘍応答率、 CA19-9の変化、 病理学的ステージ、 リンパ節陰性切除率などが評価された。

*EFSは、 病勢進行、 再発、 4週以上の間隔を空けた2回連続での20%以上のCA19.9上昇、 切除不能判断、 術中の転移の確認、 またはあらゆる原因による死亡のうちいずれかが最初に発生するまでの期間と定義された。

EFS中央値は16ヵ月 vs 10ヵ月、 PAXG群で有意に改善

EFS中央値は、 mFOLFIRINOX群の10.2ヵ月に対し、 PAXG群では16.0ヵ月と有意に良好だった (HR 0.64、 p=0.003)。 3年EFS率もPAXG群が31%、 mFOLFIRINOX群が13%であり、 両群間に明確な差が認められた。

副次評価項目もPAXG群で良好な結果

副次評価項目においてもPAXG群は腫瘍縮小効果、 腫瘍マーカーの低下、 病理学的改善、 術中・術後の転移抑制など、 複数の項目で優れていた。

安全性に関しては、 PAXG群でGrade 3/4の好中球減少がやや多く報告されたものの、 全体としては管理可能な毒性と評価された。

考察 : 膵癌の治療戦略見直しに資する重要な結果、 日本人への忍容性が課題に

以上より、 PAXGレジメンはmFOLFIRINOXに比べてEFSを有意に延長し、 術前化学療法としての有用性が示された。 この結果は、 切除可能または境界切除可能膵癌に対する治療戦略の見直しに資する重要なエビデンスとなり、 今後はOSの解析結果が期待される。

なお本邦では現在、 同様の対象に対して、 ゲムシタビン+S-1 (GS) 療法が標準治療となっている。 日本人においてmFOLFIRINOXの毒性が強いことは以前より指摘されており、 mFOLFIRINOXよりもやや毒性の強いPAXGに対する忍容性があるかどうかという点も課題である。

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切除可能/境界切除可能胆道癌

AIO/CALGP/ACO-GAIN : 術前後GC療法の有効性を評価

第Ⅲ相AIO/CALGP/ACO-GAIN試験は、 切除可能または境界切除可能胆道癌を対象に、 術前化学療法の有効性を評価した第III相無作為化比較試験である。 同試験では、 ゲムシタビン+シスプラチン併用 (GC) 療法を術前術後に3サイクルずつ投与する群 (A群) と、 術前療法なしで直接手術を行い、 担当医師の判断で術後化学療法を行う群 (B群) が比較された。

mOSは27.8ヵ月、 死亡リスク54%低減

2019年12月~24年3月に68例が登録され、 A群に32例、 B群に30例が無作為割付された。 試験開始時のサンプルサイズは300例であったものの、 症例登録の進捗が不良であり、 68例の登録で打ち切りとなっている。

主要評価項目であるOS中央値は、 B群の14.6ヵ月に比べて、 A群では27.8ヵ月と有意な延長が認められた (HR 0.46、 95%CI 0.22–0.96、 p=0.04)。 また、 R0切除率 (腫瘍の完全切除率) もB群の33.3%に対しA群で62.5%と、 高い結果となった。

EFSや術後死亡率も改善

副次評価項目であるEFSも、 A群で良好な傾向が示された。 術後の30日/90日死亡率は、 A群でいずれも4.2%、 B群で24%/28%と、 A群で低い結果となった。 A群の治療関連有害事象 (TRAE) の発現は、 Grade 3が38.7%、 Grade 4が3.2%で発現したものの、 致命的な有害事象は報告されなかった。

考察 : 試験の結果は良好も、 解釈に慎重を期する必要あり

AIO/CALGP/ACO-GAIN試験の結果、 術前術後にGC療法を行うことにより、 OSの延長およびR0切除率の向上が示され、 術後の死亡率も低下することが明らかとなった。 しかし、 本試験は予定症例登録を満たさず少ない症例数での解析が行われているために、 結果の解釈を慎重に行う必要がある。 また、 B群における術後早期の死亡率が高く、 本試験の登録症例における標準治療が手術単独とされていることへの疑問も発生する。

本邦では、 切除可能胆道癌に対する術前化学療法 (ゲムシタビン+シスプラチン+S-1 [GCS] ) の有効性を評価する第III相JCOG1920試験が進行中であり、 こちらの結果に期待が膨らんでいる。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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