【解説】切除不能のKRAS G12C変異大腸癌の治療
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5ヶ月前

【解説】切除不能のKRAS G12C変異大腸癌の治療

【解説】切除不能のKRAS G12C変異大腸癌の治療
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切除不能大腸癌のKRAS G12C変異大腸癌の治療はどうすべきか?

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【解説】切除不能のKRAS G12C変異大腸癌の治療
ソトラシブ、 adagrasibを始め、 KRAS G12C阻害薬が第I/II相試験で有望な結果を示している。 ソトラシブはパニツムマブとの併用を検討した第Ⅲ相試験で標準治療と比較して主要評価項目である無増悪生存期間 (PFS) の有意な延長を認めた。 今後、 本邦でも治療の選択肢となる可能性があるが、 早期の耐性が示唆されるなど未解決の課題は残っており今後も注目が必要である。 

KRAS G12C阻害薬の開発

KRAS変異陽性大腸癌は全大腸癌の約半数を占めるが、 KRAS G12C変異陽性大腸癌の頻度は全体の約3%とされる。 KRAS変異を有する大腸癌は予後不良であることが報告されているが、 その中でも特にG12C変異は予後不良とされている。

KRAS変異に対する治療は創薬不可能 (undruggable) と考えられてきたが、 KRASのswitch Ⅱポケットに対して結合し、 変異しているシステインと共有結合することでGTP結合を阻害することができる低分子が開発され、 KRAS G12C阻害薬が出現した。 非小細胞肺癌においてはソトラシブが奏効割合28%、 またadagrasibが奏効割合43%、 奏効期間8.5ヵ月と良好な結果を示し、 ともに米国食品医薬品局 (FDA) の承認を得ている。 これらの薬剤を中心に大腸癌においても治療開発が進んでいる。

KRAS G12C阻害薬による試験

表1 ソトラシブとadagrasibの試験一覧 (nは大腸癌のみ含む)
【解説】切除不能のKRAS G12C変異大腸癌の治療
ORR ; objective response rate, DCR ; disease control rate, PFS ; progression free survival, OS ; overall survival

CodeBreaK100試験

CodeBreaK100試験¹⁾は標準治療終了後のKRAS G12C変異陽性固形癌を対象として実施された単群の第Ⅰ/Ⅱ相試験で、 ソトラシブ単剤による安全性と有効性を検討している。 この試験においては大腸癌では奏効割合が7.1%、 PFS中央値が4.0ヵ月と、 非小細胞肺癌と比較して低い結果であった。

CodeBreaK101試験

CodeBreaK101試験²⁾も標準治療終了後のKRAS G12C変異陽性固形癌を対象として行われた第Ⅰb試験であるが、 この試験の中では大腸癌を対象にソトラシブとパニツムマブの併用療法の安全性と有効性が検討されている。 奏効割合が30%、 PFS中央値が5.7ヵ月と単剤よりも有効性が報告され、 大腸癌においては抗EGFR抗体薬との併用療法が有望視された。

KRYSTAL-1試験

KRYSTAL-1試験³⁾は標準治療終了後のKRAS G12C変異陽性固形癌を対象とした単群の第Ⅰ/Ⅱ相試験で、 adagrasib単剤およびadagrasibとセツキシマブ併用療法の安全性と有効性が検討されている。 大腸癌においてadagrasib単剤で奏効割合が19%、 PFS中央値が5.6ヵ月、 adagrasibとセツキシマブの併用療法で奏効割合  (ORR) が46%、 PFS中央値が6.9ヵ月という結果であった。 この結果からも大腸癌におけるKRAS G12C阻害薬と抗EGFR抗体薬との併用療法が有望視された。

CodeBreaK300試験

これらの結果を踏まえ、 フッ化ピリミジンとオキサリプラチン、 イリノテカンの治療歴がある転移再発大腸癌を対象に、 ソトラシブとパニツムマブの併用療法を標準療法 (トリフルリジン/チピラシルもしくはレゴラフェニブ)と比較する非盲検ランダム化第Ⅲ相試験が行われた。 主要評価項目はPFSであり、 副次評価項目として全生存期間 (OS)、 奏効割合、 安全性などが設定された⁴⁾。

ソトラシブは量が960mgと240mgが設定され、 標準治療と1 : 1 : 1にランダム化された。 主要評価項目であるPFSはソトラシブ960mg、 240mg、 標準治療でそれぞれ5.6ヵ月 (95%CI 4.2-6.3ヵ月)、 3.9ヵ月 (同3.7-5.8ヵ月)、 2.2ヵ月 (同1.9-3.9ヵ月) であった。 ハザード比は960mgと標準治療で0.49 (同0.30-0.80)、 240mgと標準治療で0.58 (同0.36-0.93) とPFSの有意な延長を認めていた。

副次評価項目においても奏効割合はソトラシブ960mg、 240mg、 標準治療それぞれ26.4%、 5.7%、 0.0%と試験治療群において良好な結果であった。 OS中央値は8.1ヵ月、 7.7ヵ月、 7.8ヵ月と大きく変わらなかったが、 イベント発生数が未達であった。 一方で試験治療群の治療関連有害事象は、 低マグネシウム血症、 発疹、 ざ瘡様皮膚炎であり、 抗EGFR抗体薬に関連したものがメインであった。 ソトラシブに関連する有害事象としては肝障害があるが、 ソトラシブとパニツムマブ群で11.3%と5.7%で、 標準治療群の7.8%と大きな差はなかった。

この結果からソトラシブ960mgとパニツムマブ併用療法は主要評価項目を満たし、 新しい標準治療になる可能性があると結論付けられている。 しかしPFSは非小細胞肺癌で報告されているものと比べ短く、 OSに関してもイベント数が未到達ながら差がない結果であり、 長期フォローの結果が待たれる結果となっている。

今後の展望

上述の2つの薬剤に加えて、 他のKRAS G12C阻害薬も有効性が期待される臨床試験がいくつか報告されている。

表2 その他のKRAS G12C阻害薬試験 (nは大腸癌のみ含む)
【解説】切除不能のKRAS G12C変異大腸癌の治療
ORR: objective response rate, DCR: disease control rate, PFS: progression free survival, OS: overall survival

GO42144試験

Divarasib (GDC-6036) は、 両薬剤よりも高い効力と選択性を示すように設計されたKRAS G12C阻害剤である。 標準治療終了後のKRAS G12C変異陽性の固形癌を対象として単群の第I相試験が実施された⁵⁾。 大腸癌において奏効割合(ORR)が29.1%、 PFS中央値が5.6ヵ月と単剤でも良好な結果だった。 非小細胞肺癌においてもORR 53.4%、 PFS中央値は13.1ヵ月とソトラシブやadagrasibよりも良好な結果となっており、 より有効性の高いKRAS G12C阻害薬として期待される。

NCT04585035試験

また同様に親和性と選択性を高めたKRAS G12C阻害薬であるD-1553のセツキシマブとの併用療法による第Ⅱ相試験の結果も報告されて⁶⁾おり、 これら新規のKRAS G12C阻害薬の開発にも注目がされる。

一方で大腸癌のKRAS G12C阻害薬は非小細胞肺癌と比べ、 PFSが短いことやOSへの寄与が不明瞭な点がある。 大腸癌での早期の耐性出現が示唆され、 耐性機序への克服のため、 様々な他薬剤との併用療法がこれらのKRAS G12C阻害薬で検証されている。 現状でKRAS G12C変異陽性の患者でKRAS G12C阻害薬の使用は承認されていない。 臨床で遭遇した場合には積極的に治験を検討するに留まるが、 近い将来こうした薬剤が使用可能になることが期待され、 今後の開発に注目したい。

参考文献

  1. KRASG12C Inhibition with Sotorasib in Advanced Solid Tumors. N Engl J Med. 2020 Sep 24;383(13):1207-1217. PMID: 32955176
  2. Sotorasib in combination with panitumumab in refractory KRAS G12C-mutated colorectal cancer: Safety and efficacy for phase Ib full expansion cohort. Ann Oncol. 33(suppl 7): S680-S681, 2022.
  3. adagrasib with or without Cetuximab in Colorectal Cancer with Mutated KRAS G12C. N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):44-54. PMID: 36546659
  4. Sotorasib plus Panitumumab in Refractory Colorectal Cancer with Mutated KRAS G12C. N Engl J Med. 2023 Oct 22. PMID: 37870968
  5. Single-Agent Divarasib (GDC-6036) in Solid Tumors with a KRAS G12C Mutation. N Engl J Med. 2023 Aug 24;389(8):710-721. PMID: 37611121
  6. Safety and efficacy of D-1553 in combination with cetuximab in KRAS G12C mutated colorectal cancer (CRC): A phase II study. Ann Oncol. 34(suppl 2): S410-S411, 2023.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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