アブストラクト
1) 長期管理の主役は吸入ステロイド (ICS).
2) 初期治療はICS/LABA. コントロール不良の場合は、 トリプル製剤 (ICS/LABA/LAMA).
3) コントロール良好状態が3~6か月持続したら、 治療のステップダウンを検討. ただし、 ステップダウンの時期は、 ウイルス感染後、 アレルギー性鼻炎の悪化時、 旅行前などを避ける.
4) ICS/LABA/LAMA±LTRAでもコントロール困難な喘息では、 生物学的製剤使用が考慮され、 専門医に紹介する.
1. はじめに
気管支喘息の長期管理で用いる薬剤
気管支喘息の治療の長期管理の主役は、 気道炎症を抑制する吸入ステロイド (ICS: Inhaled corticosteroid) である. 喘息の長期管理薬の基本的な戦略を図1に示す.
治療強度を上げる場合は、 長時間作用性β₂刺激薬 (long-acting β₂ agonist; LABA) を上乗せする、 さらに治療強度を上げる場合は、 長時間作用性吸入抗コリン薬 (long-acting muscarinic antagonist: LAMA) を追加する. 適宜、 ロイコトリエン受容体拮抗薬 (leukotriene receptor antagonist: LTRA) も併用する.
薬物治療だけでなく、 生活指導も大切であり、 アトピー素因を有する患者では、 アレルゲン (ダニ、 真菌類など) の回避指導が重要である. 喫煙や受動喫煙、 過労も含めた増悪因子の除去に努める.
テオフィリン製剤は、 弱い効果と安全性の懸念から、 長期管理として使用する機会は減っている. 世界的な喘息ガイドラインのGINA (Global Strategy for Asthma Management and Prevention) でも、 テオフィリン製剤を長期管理薬として使用しないことを推奨している¹⁾.
近年のトレンドとして、 治療ステップ3以上の喘息に対して、 トリプル製剤 (ICS/LABA/LAMA) が、 喘息治療薬として新たに加わり、 日常臨床で処方される頻度が増えている.
本稿では最近の喘息長期管理に関し解説する.
2. 治療ステップ
本邦の喘息・予防管理ガイドライン2021では、 気管支喘息の治療強度を示す治療ステップは1-4に分かれる. 基本的に毎週喘息症状があれば治療ステップを1段階上げ、 毎日喘息症状がある場合は治療ステップを2段階上げる²⁾.
ダニアレルギーが関与する喘息で、 特にアレルギー性鼻炎合併例で、 安定期%FEV1.0≧70の場合には、 アレルゲン免疫療法 (=病因アレルゲンを投与して、 アレルゲン曝露による症状を緩和する治療) を考慮する.
治療ステップ1
長期管理薬
- ICS (低用量)
- 上記が使用できない場合
- LTRAまたはテオフィリン徐放製剤
※症状が稀なら必要なし
追加治療
- アレルゲン免疫療法 (LTRA以外の抗アレルギー薬)
増悪治療
治療ステップ2
長期管理薬
- ICS (低~中用量)
- 上記で不十分な場合に以下のいずれか1剤を併用
- LABA、LAMA、LTRA、テオフィリン徐放製剤
※LABAは配合剤使用可
追加治療
増悪治療
治療ステップ3
長期管理薬
- ICS (中~高用量)
- 上記に以下のいずれか1剤、あるいは複数を併用
- LABA 、LAMA、LTRA、テオフィリン徐放製剤、抗IL-4Rα抗体
※LABA、LAMAは配合剤使用可
追加治療
増悪治療
治療ステップ4
長期管理薬
- ICS (高用量)
- 上記に以下の複数を併用
- LABA 、LAMA、LTRA、テオフィリン徐放製剤、抗IgE抗体、抗IL-5抗体、抗IL-5Rα抗体、抗IL-4Rα抗体、経口ステロイド薬、気管支熱形成術
※LABA、LAMAは配合剤使用可
追加治療
増悪治療
3. 治療の実際
1 治療導入期 ~中用量ICS/LABAによる導入~
- 症状が頻回でない軽症例では、 ICS単剤で治療しても良いが、 ICS単剤で治療開始した場合に速やかに症状が改善されないことで、 患者が通院治療を中断するリスクはある.
- 治療導入早期には、 抗炎症治療とともに、 気管支拡張治療薬で症状を改善させることも重要である. よって、 現在、 未治療の喘息の初回治療では、 中用量ICS/LABAを導入するのが主流である²⁾.
- 喘息初回治療では、 そもそも診断が喘息であるかも不明なことが多い. 実臨床における喘息の診断は、 多くの場合「喘息に合致する病歴・身体所見」+「ICS/LABAによる症状改善」で行われるという意味でも、 初期治療は中用量ICS/LABAとなることが多い³⁾.
- 治療介入後の効果判定には、 できるだけ喘息コントロールテスト (asthma control test: ACT) を用いる.
2 中用量~高用量ICS/LABA導入後も喘息コントロール不良の場合
- 中用量~高用量ICS/LABAでもコントロール不良の場合は、 LAMAを追加してトリプル製剤 (ICS/LABA/LAMA) にする.
- 近年行われたメタアナリシスで、 中等度から重症の喘息において、 トリプル吸入薬は、 ICS/LABAと比較して増悪を減少したと報告されている⁴⁾.
3 吸入デバイス
- 喘息治療の主薬は吸入薬であるが、 吸入デバイスは、 加圧式定量噴霧吸入器(pressurized meter dose inhaler; pMDI)とドライパウダー吸入器 (dry powder inhaler: DPI) の2つに分かれる.
- 勢いよく吸入ができるならDPIを選択する. レルベア®など1日1回で済むデバイスを選択した方が、 患者のコンプライアンスも上がる可能性がある.
- 特に75歳以上の高齢者では、 吸気流速の低下により、 ドライパウダー吸入器 (dry powder inhaler: DPI) では、 有効な吸入が困難な可能性があり フルティフォーム®などのpMDIを考慮する. LAMAであるスピリーバ®は、 ソフトミスト吸入器 (solt mist inhaler: SMI) であり、 pMDIと同様に吸気が弱くても吸入可能である.
- 患者さんとデバイスの相性があるため、 喘息コントロールが不良の場合は、 治療のステップを上げるだけでなく、 「DPIからpMDIへ」、 あるいは「pMDIからDPIへ」のように、 吸入デバイスを変更してみるのも一つの方法である.
4 ステップダウン
- 喘息のコントロール良好状態が3~6か月続いたら、 治療のステップダウンを検討する²⁾.
- ただし、 ステップダウンの時期としては、 ウイルス感染後、 アレルギー性鼻炎の悪化時、 旅行前などを避ける¹⁾.
- ICSの完全な中止は、 増悪リスクの上昇と関連しており、 慎重な判断が必要である⁵⁾.
- 成人喘息の10年後の寛解率 (無治療による症状消失) は12~20%と報告されている²⁾⁶⁾. よって、 多くの喘息患者において、 早期に薬剤中止することは困難な可能性があり、 長期的な治療が重要である.
5 難治性喘息
- 高用量ICS/LAMA/LABA±LTRAを用いても喘息コントロールが不良であれば、 難治性喘息として生物学的製剤 (抗IgE抗体薬、 抗IL-5抗体薬、 抗IL-5α抗体、 抗IL-4α抗体) が考慮されるため、 専門医に紹介する²⁾⁷⁾.
- 経口ステロイドは全身性の副作用が多く定期使用すべきではない²⁾.
参考文献
- ASTHMA GIF. 2021 GINA MAIN report. 2022 (accessed. 2021)
- 「喘息予防・管理ガイドライン2021」作成委員:喘息予防・管理ガイドライン2021. 協和企画, 東京, 2021
- 一般社団法人日本喘息学会. 喘息診療実践ガイドライン2021. 協和企画, 東京, 2021
- Kim LHY, et al. Triple vs Dual Inhaler Therapy and Asthma Outcomes in Moderate to Severe Asthma. JAMA. 2021 ; 325(24) : 2466-2479. PMID: 34009257
- Rank MA, et al. The risk of asthma exacerbation after stopping low-dose inhaled corticosteroids: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Allergy Clin Immunol. 2013 ; 131(3) : 724-729. PMID: 23321206
- Holm M, et al. Remission of asthma: a prospective longitudinal study from northern Europe (RHINE study). Eur Respir J. 2007 ; 30(1) : 62-65.
- 一般社団法人日本呼吸器学会 難治性喘息診断と治療の手引き2019作成委員会. 難治性喘息の診断と治療の手引き 2019. メディカルレビュー社, 東京, 2018
著者
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