日本食道学会
2ヶ月前
本特集では、 第78回日本食道学会で京都大学腫瘍内科学講座教授の武藤学氏に取材した内容を再編し、 3回に分けてお届けします。 アルコールと食道癌リスクに関する医学的最新知見を整理したうえで、 安心して飲酒が楽しめる社会を目指した最新研究についても紹介していきます。本特集の最終回となる今回は、 日本で発足した 「アルコール健康管理プロジェクト」 の概要や今後の展望を紹介します。
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日本において、 いまだアルコールの健康被害への社会的認知は低く、 飲酒に起因する社会的損失は最大約4兆円とされている。 そのような状況の中、 アルコール曝露リスクにおける個人レベルでの可視化および、 社会レベルでのモニタリングシステムの構築を目指し、 武藤氏を研究代表とする 「アセトアルデヒド関連疾患予防による健康社会の構築」 (以下、 アルコール健康管理プロジェクト) が採択された*。
同プロジェクトは第2回で紹介したアセトアルデヒト測定器を含め、 アルコールによる健康障害リスクを指標とする健康管理事業として、
①個人のアルコール代謝能と職域健診データおよび過去の罹患歴などを参考に大規模なデータベースを構築
②アルコール摂取管理ツールを開発
③職域検診を活用した健康経営サービス
④アルデヒドによる健康障害予防
という4つのサービスを、 法人および従業員向けに展開するという。 これらの取り組みにより、 アルコール関連の疾患予防・早期発見につなげ、 従業員の健康管理を効率的に行うことで業務効率を改善し、 健康経営に貢献することが目標だ。
同プロジェクトにおいて開発中の呼気アセトアルデヒド測定アプリケーションは、 事業社 (管理者) および従業員の双方が用いるモニタリングツールである。 従業員個人がアプリケーションに飲酒量を入力することで、 アルコール摂取によるリスクや危険な飲酒習慣を経時的に確認し、 将来的にどの程度アルコール健康障害のリスクがあるのかについて可視化できる仕組みだ。
また同プロジェクトでは、 アルコール起因の発癌予防を目的に、 ALDH2酵素活性を改善する低分子化合物Alda-1の開発研究も進められている。
Alda-1については、 アルコール摂取後の食道上皮におけるAlda-1のDNA障害の抑制効果について検討した基礎研究で、 ヒトと同一のALDH2遺伝子変異 (Glu504Lys)をノックインしたマウスにAlda-1を投与後に肝組織中のALDH2活性を測定した結果、 ALDH2活性の有意な改善を認めたことが報告されている。
また同マウスに対し、 Alda-1とともに10%濃度アルコールを7日間摂取させ、 食道上皮に生じたDNA障害 (DNAアダクト値) を測定したところ、 Alda-1投与群ではコントロール群と比較し、 1日飲酒量は増加したもののALDH-2活性の回復により食道DNAアダクト値が有意に低下していた¹⁾。
こうしたALDH2活性化薬開発の取り組みについて、 武藤氏は
「ALDH2活性化薬はアルコールの摂取量を増加させる一方で、 アセトアルデヒド由来の食道DNA傷害を軽減する効果がある。 ALDH2不活性型の人に対し、 飲酒前にALDH2活性化薬を投与することで、 アルコール飲酒後の食道DNA傷害を防げる可能性がある」
と期待を寄せている。
本特集では、 3回にわたりアルコールと食道癌の関係について紹介した。 アルコールによる健康被害は明白であるものの、 食道癌を始めとする各疾患への罹病を防ぎ、 「安心して飲酒が楽しめる社会」 を目指し、 食道発癌を抑制する物質の探索が現在も進められている。
今後、 ALDH2活性化薬等の開発により、 アルコール起因の食道癌を予防できる時代が到来するかもしれない。
アルコールと食道がんに関する啓発活動部会 (部会長 武藤学) は、 アルコール関連食道癌の罹患・死亡を減らすことを目的として啓発活動を行っています。 この度 「アルコール飲料と食道がんリスクに関するポスター」 が完成しました。 是非、 ご活用ください。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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