ポイント
- 気管支喘息は妊婦が合併する最も頻度の高い呼吸器疾患である.
- 妊娠中の喘息コントロール不良は先天性奇形や妊娠高血圧症などの合併症発生リスクを増加させる.
- 妊婦の気管支喘息治療薬の主体は吸入ステロイド薬である.
- 気管支喘息合併妊婦への対応について、 『喘息予防・管理ガイドライン2021』と『喘息診療実践ガイドライン2021』を参考に概説する.
妊娠による呼吸機能の変化
特徴的な呼吸機能変化
- 妊娠子宮の増大により横隔膜が挙上し、 呼吸困難を自覚しやすくなる.
- 横隔膜の挙上により機能的残気量が減少し、 低肺換気状態になる.
- 血中プロゲステロン濃度の増加により、 一回換気量が増加する.
- 過換気となり、 血中二酸化炭素分圧が低下し、 呼吸性アルカローシスとなる.
- 喘息の急性増悪をきたし、 低炭酸ガス血症が進行すると子宮動脈の収縮により胎児の低酸素血症を助長する.
鑑別のポイント
- 正常妊娠でも呼吸困難をきたすため、 喘息との鑑別が重要である.
- 夜間や明け方の呼吸困難、 喘鳴、 アレルゲン検索やアトピー素因の確認、 喀痰好酸球増加、 呼気一酸化窒素濃度などを確認し、 診断する.
治療のポイント
気管支喘息合併妊婦の対応
- 呼吸器症状、 活動制限、 急性増悪がないように管理する.
- 肺機能モニタリングにはピークフローメーターによる最大呼気流量の確認が有用である.
- アレルゲン、 タバコの煙、 香料などの喘息症状を悪化させる環境因子を回避する.
- 母体が喫煙者の場合、 禁煙を強く指導する.
薬物治療のポイント
吸入ステロイド薬の中では、 ヒトに対する安全性のエビデンスはブデゾニドが最も多い. 吸入ステロイド薬のみでコントロール不能な場合、 吸入ステロイド薬と長時間作用性β₂刺激薬の配合剤、 ロイコトリエン受容体拮抗薬、 テオフィリン徐放製剤、 クロモグリク酸ナトリウムなどを追加する.
②重症例では経口ステロイド
重症持続型では、 経口ステロイドを検討する.
③抗IgE抗体製剤・アレルゲン免疫療法の継続可
妊娠前から使用時は妊娠中も継続して良い. ただし、 抗IgE抗体製剤以外の生物学的製剤は知見が乏しく推奨できない.
妊婦に使用可能な薬剤
妊娠中の喘息患者に使用できると考えられている薬剤と注意点を表1に示す.
急性増悪の管理
感染症は増悪のリスク因子
- 環境因子への曝露以外に、 感染症も気管支喘息の急性増悪のリスク因子である.
- 感染症の中、 特に冬期はインフルエンザに注意が必要である. インフルエンザにより気管支喘息が重症化することが知られており、 特に気管支喘息合併妊婦はインフルエンザワクチンの接種が推奨されている.
- 新型コロナウイルス感染症は妊婦で重症化することが知られているため、 気管支喘息合併妊婦も新型コロナワクチンの接種が推奨されている.
急性増悪時の対応
- 母体と胎児の状態をモニタリング.
- 短時間作用性吸入β₂刺激薬を繰り返し吸入.
- 血中酸素濃度をSpO₂ 95%以上に保つ.
- ボスミン皮下注は子宮動脈の収縮を引き起こすため、 アナフィラキシーなどの場合に限る.
- 発作の程度により、 ステロイド薬の点滴静注を行う. NSAIDs過敏喘息の既往のある患者には、 コハク酸エステル製剤の使用は避ける.
- これらの治療に反応せず呼吸不全に至った場合、 気管内挿管と人工呼吸器管理を考慮する.
著者
最終更新:2022年7月7日
監修:日本赤十字社医療センター呼吸器内科部長 出雲雄大先生