HOKUTO編集部
2ヶ月前

非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療において、 現時点で臨床的に確立した効果予測バイオマーカーはPD-L1発現率 (TPS) である。 第66回日本肺癌学会学術集会では、PD-L1 TPSの意義と限界、 主要試験のエビデンスと実装上の課題、 交絡因子の影響を交えて、 大阪国際がんセンター呼吸器内科の國政啓氏が今後の最適化戦略を解説した。
元来のPD-L1 TPSの定義は、 第Ⅰ相KEYNOTE-001試験に由来する。 同試験において、 PD-L1 TPS≥50%が進行NSCLCに対する抗PD-1抗体ペムブロリズマブの有効性と相関することが示された¹⁾。
その後、 ペムブロリズマブと化学療法を比較評価した第Ⅲ相KEYNOTE-042試験²⁾、 ペムブロリズマブ+化学療法と化学療法を比較評価した第Ⅲ相KEYNOTE-189試験³⁾では、 無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) のハザード比 (HR) が、 PD-L1 TPSにより概ね層別化され、 ≥50%を効果予測のカットオフとする妥当性が示された。
では、 PD-L1 TPSの効果予測能において、 実際のアウトカムと結びつけた時にどれだけ価値があるのか。 この疑問に関して、 PD-L1 TPS≥50%の効果予測因子としての有用性を、 EGFR遺伝子変異、 ALK融合遺伝子と比較した結果、 その予測能はEGFR遺伝子変異と同程度であり、 ALK融合遺伝子には及ばないことが過去に報告されている。
またPD-L1 TPS≥50%の進行NSCLCに対するペムブロリズマブと化学療法の有効性を比較評価した第Ⅲ相KEYNOTE-024試験⁴⁾におけるPFS・OSのHR (PFS : 0.5 [95%CI 0.39-0.65]、 OS : 0.62 [95%CI 0.48-0.81]) は、 EGFR遺伝子変異陽性進行NSCLCに対する第1世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) エルロチニブと化学療法の有効性を比較評価した第Ⅲ相EURTAC試験⁵⁾におけるHR (PFS : 0.37 [95%CI 0.25-0.54]、 OS* : 0.64 [95%CI 0.44-0.95]) と同程度であった。
一方で上述の結果は、 ALK融合遺伝子陽性進行NSCLCに対するALK/ROS1-TKIクリゾチニブと化学療法の有効性を比較評価した第Ⅲ相PROFILE 1014試験⁶⁾⁷⁾におけるHR (PFS : 0.49 [95%CI 0.37-0.64]、 OS* : 0.35 [95%CI 0.081-0.718]) と比べて数値的に高値であった。
國政氏は 「PD-L1 TPS≧50%のペムブロリズマブの効果予測能がEGFR遺伝子変異の第1世代EGFR-TKIと同程度であるという結果の解釈は議論の余地があるが、 ALK融合遺伝子に対するTKIに匹敵するほどではなく、 これがPD-L1 TPSのある種の"限界"でもあると言える」 と私見を述べた。
さらに、 PD-L1 TPS≥1%のNSCLCに対するPD-1/VEGF二重特異性抗体ivonescimabとペムブロリズマブの有効性を比較評価した中国の第Ⅲ相HARMONi-2試験では、 PD-L1 TPS≥50%集団 (HR 0.48、 95%CI 0.29-0.79) およびPD-L1 TPS 1~49%集団(同0.54、 95%CI 0.37-0.78)でPFSのHRがそれぞれほぼ一貫しており⁸⁾、 特定のICIにおいては、 現行のPD-L1 TPSによる層別化必ずしも有用な効果予測因子とはならない可能性が報告されているされた。
加えて、 PD-L1 TPSの腫瘍内不均一性により、 組織マイクロアレイ (TMA) と外科切除標本では、 判定が一致しない可能性も指摘されている。
Liらの報告によると、 両者の不一致率は、 PD-L1 TPSのカットオフが≥1%で13.20% (95%CI 8.4-18.0) であった一方で、 ≥50%では6.8% (同3.3-10.4) と相対的に低値を示した⁹⁾ 。 また、 Hwangらの報告によると、 生検面積<8.0mm²では不一致率が71.4%であったのに対し、 生検面積≥8.0mm²では33.3%と低値を示した (p=0.041) ¹⁰⁾ 。
國政氏は、 「これらの結果から、 PD-L1 TPSのカットオフが≥50%で、 十分な大きさ (≥8.0mm²) を有するTMAであれば、 腫瘍全体のPD-L1 TPSを反映しており、 原発の状況が十分予測できることが示された」 と説明した。
また、 アッセイや評価者間によっても判定が一致しない可能性があるという。 Rimmらの報告によると、 NSCLC患者90例の連続切片を基に、 3施設、 13人の病理専門医が4種のPD-L1 IHCアッセイ (22C3、 28-8、 SP142、 E1L3N) でPD-L1 TPSを評価した結果、 22C3、 28-8、 E1L3Nでは高い互換性が認められ、 アッセイによらない判定の堅牢性が示された。
一方で、 SP142ではPD-L1 TPSが相対的に低値を示す傾向が示された。 また、 PD-L1 TPSのカットオフが≥50%では感度・特異度ともに高い一方で、 ≥1%では偽陽性が多くなる傾向が認められ¹¹⁾、 評価者間で判定の一致率が低下する可能性が示された。
AIで解析した場合には、 人 (手動) と比べて効果予測能に差が生じるのかどうかについても研究が行われている。
Baxiらの報告によると、 PD-L1 TPSのカットオフを≥1%または≥5%として、 病理医による手動およびAIでCheckMate試験の保存検体を評価した結果、 手動と比べてAIでPD-L1陽性腫瘍細胞の拾い上げ率が高く、 結果としてPD-L1 TPSが高くなる可能性が示された。 一方で、 ICI治療の効果予測能は手動評価 (AUC 0.596) とAI評価 (AUC 0.602) で差がみられなかった¹²⁾。
國政氏はこの結果に関して、 「AIは手動での評価に非劣性であることが示された」 と述べた。
さらに、國政氏は他のバイオマーカーとの交絡についても言及した。
Skoulidisらの報告によると、 STK11およびKEAP1の欠損変異はICIの治療効果を低下させる独立した因子であり、 STK11欠損変異例ではKEAP1欠損変異の有無によらずPD-L1 TPSの値が低くなる一方で、 KEAP1欠損変異のみを有する場合には低下がみられなかった¹³⁾。 ただし、 PD-L1 TPS≥50%かつSTK11・KEAP1のいずれも欠損変異を有する患者に対するICIの治療効果は現時点では不明瞭であり、 前向きな研究データも報告されていない。
同氏は、 「交絡因子を明らかにしていくことにより、 抗PD-1/PD-L1抗体で長期奏効 (ベストフィット) が期待できる患者の同定が可能になるのではないか」 と考察。 そのうえで 「そのためにはPD-L1 TPSの評価のみでは不十分であり、 こうした交絡因子を考慮した複合的な評価が必要である」 と考察した。
最後に、 國政氏は 「アウトカムとの結びつきとしては十分ではないものの、 PD-L1 TPSは、 依然として実装性と予測能を兼ね備えた中心指標である。 今後、 他のバイオマーカーとの交絡において我々が取り組むべきPD-L1 TPSの課題は、 既存の抗PD-1/PD-L1抗体単剤療法が著効する患者をより正確に絞り込み、 ハザード比を改善していくことである。 TPSを基軸に遺伝⼦変異・ctDNA動態などを組み合わせた複合評価が、 今後の治療最適化の重要戦略となる」 と報告した。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。