ポイント
- 確定診断と全身スクリーニングを迅速に行い、治療につなげる.
- 原発性肺癌のバイオマーカー検索のため、原発巣、リンパ節、胸水などから十分な検体を採取する.
- 内科医、外科医、放射線科医などが参加するキャンサーボードにおいて、個々の患者に最適な治療方針を決定する.
- 患者や家族への病状説明時は平易な言葉で、推奨する治療や代替治療の効果、副作用、違いなどを詳細に説明する.
肺癌を疑う患者が外来受診したら
- がんセンターでは肺癌の確定診断後の患者を診療することが多い.
- 一方、一般病院では、肺癌疑い患者の受診後に適切な検査を行い、治療方針を決定していく.
- これらをスムーズに実施するために推奨される流れを、日本肺癌学会編集の『肺癌診療ガイドライン―悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含むー2021年版』を参考に概説する.
①初診時のポイント
胸部画像検査での注意点
- 胸部画像で肺癌が疑わしい場合、血液検査や喀痰検査 (細胞診や培養) で肺癌以外の疾患を鑑別する (肺癌の検出に腫瘍マーカーは行わないよう提案されているが、実臨床では他疾患との鑑別目的で実施することが多い. 複数の腫瘍マーカーを測定する場合、保険の査定にも注意を要する) .
- 胸部画像検査で結節影を呈する疾患は、肺癌以外に肺結核、肺化膿症、サルコイドーシス、過誤腫、硬化性肺胞上皮腫、アミロイドーシスなど多岐にわたる. 結節影=肺癌と考えてはならない.
胸部CT検査での注意点
- CT検査は、胸部または全身の造影検査が望ましい. 気管支鏡などの生検検査の実施を想定し、1mmスライス以下の薄いスライス幅の肺野条件画像を再構成しておくと良い.
- 高分解能CTや他の検査で良悪性の判断が困難で、かつ生検による確定診断が困難な場合は、高分解能CTを用いた月単位から年単位の経時的な画像フォローが望ましい(日本CT検診学会の『低線量CT による肺がん検診の肺結節の判定基準と経過観察の考え方 第5版』*参照).
*日本CT検診学会 : https://www.jscts.org/index.php?page=guideline_index
②確定診断時のポイント
病変に合わせた生検の方法
①CT-bronchus sign陽性の場合
- 中枢気道病変や結節に気管支がつながっている病変 (CT-bronchus sign陽性) では、気管支鏡による生検が望ましい.
- 気管支鏡実施時は、ラジアル型超音波内視鏡 (EBUS) 、仮想気管支鏡ナビゲーション、ガイドシースキットなどが有用である. また、クライオ生検では通常の鉗子よりも大きく、挫滅の少ない検体を採取可能である.
②肺門・縦隔リンパ節腫脹がみられる場合
- EBUSガイド下針生検 (EBUS-TBNA) を行う.
- 一般的に、肺野病変に対する生検よりもリンパ節生検の方が感度が高い.
③肺末梢病変の場合
- CTガイド下経皮針生検が有用である.
- 合併症として気胸、出血、空気塞栓に注意を要する.
④上記の方法で診断が困難な場合
全身スクリーニング
- 全身スクリーニングにはFDG-PET/CTと頭部造影MRIが有用である.
- 病期以外に、心肺機能、腎機能、間質性肺炎や自己免疫疾患の有無、認知機能、日常生活動作 (ADL) なども治療方針決定の重要な要素となるため、的確に評価する.
分子診断
- 進行・再発の非小細胞癌では、分子診断が特に重要である. 分子診断には十分な検体量が必要であるため、生検技術の修練を要する.
- 分子診断には生検検体以外に、血液検体を用いた固形癌に対する包括的ゲノムプロファイリング (FoundationOne Liquid CDx) も有用である.
③説明時のポイント
告知は落ち着ける場所、家族同席が望ましい
- 特別な場合を除き、患者以外にキーパーソンとなる家族の同席が望ましい. 患者が説明にショックを受け、内容を覚えていないリスクや、患者・家族間での情報の伝達ミスを防ぐことが狙いである.
- 癌の告知時は、プライバシーが保たれた静かな空間で、十分な時間を確保して説明する. また、再発の告知時も同様の場面設定に心がける.
- 検査結果、解釈、方針などの詳細な情報をまとめ、患者側と共有する.
略語や専門用語を避け平易に
- 医学的内容は時に難解であるため、略語や専門用語は避け、平易な言葉を用いる.
- 治療方針については、推奨する治療以外の代替治療についても説明する必要がある. 推奨する治療と代替治療それぞれについて、期待できる効果、副作用、違いなどを説明する義務がある.
- 説明内容は紙にまとめ、説明後に患者側の署名をもらう.
- 進行癌の患者においては、初回の告知時から緩和ケアの重要性を説明すると良い.
- 癌領域では治療方針の選択が予後に直結する可能性があることを念頭に置く. また、昨今では医師の説明義務が問われる訴訟が多いため、注意を要する(『医療者のためのわかりやすい医療訴訟』(医療科学社刊)*を参照).
* 『医療者のためのわかりやすい医療訴訟』書籍紹介ページ : http://www.iryokagaku.co.jp/frame/03-honwosagasu/117/117.html
④治療時のポイント
- 本邦において最も有用なガイドラインは、日本肺癌学会編集の『肺癌診療ガイドライン』*である. 新規薬剤やレジメンが毎年更新されるため、常に最新情報を確認する必要がある.
- 海外のNational Comprehensive Cancer Network (NCCN) によるガイドライン**も有用である.
- ガイドラインに準拠した治療を実践することは重要である. しかし、実臨床においては患者の全身状態、併存疾患、社会的背景、経済的背景、価値観などを十分考慮し、治療方針を決定することが望ましい.
- 国内でまだ承認されていない薬剤やレジメンであっても、治験や臨床試験で実施可能な場合がある. 国内癌研究グループの試験内容やClinical Trials. gov***を参考に、日本国内でも実施可能な治験や臨床試験を確認し、患者へ提案することも検討すべきである.
* 日本肺癌学会 : https://www.haigan.gr.jp/
** NCCN : https://www.nccn.org/guidelines/category_1
*** ClinicalTrials.gov : https://clinicaltrials.gov/
著者
呼吸器内科現場診療シリーズ
気管支喘息 (出雲雄大先生)
気管支鏡 (出雲雄大先生)
COPD急性増悪 (久世眞之先生)
肺癌 (粟野暢康先生)