化膿性肘頭滑液包炎の術後抗菌薬、 最適な治療期間は? (Mayo Clinic)
著者

メイヨークリニック感染症科 松尾貴公

12日前

化膿性肘頭滑液包炎の術後抗菌薬、 最適な治療期間は? (Mayo Clinic)

Optimal antibiotics duration following surgical management of septic olecranon bursitis: a 12-year retrospective analysis

J Bone Jt Infect. 2024 Mar 6;9(2):107-115.
化膿性肘頭滑液包炎の術後抗菌薬、 最適な治療期間は? (Mayo Clinic)

研究方法

研究デザイン

後ろ向きコホート研究

研究期間

2000年1月1日~2022年8月30日

対象施設

米・Mayo Clinic

対象患者

18歳以上の患者

化膿性肘頭滑液包炎と診断され、 外科的治療 (滑液包切除術 : bursectomy) を受けた患者

培養で陽性が確認された患者、 または臨床的な炎症所見と滑液包の膿性所見が認められた患者

除外基準

真菌性や非結核性抗酸菌による感染

術後の培養提出がない症例

主な研究結果

患者背景

対象患者は91例で、 年齢中央値は62歳 (IQR: 51–74歳)、 68%が男性であった。

また、 糖尿病の既往がある患者が19%、 自己免疫疾患の既往がある患者が34%、 喫煙歴のある患者が53%であった。

微生物学的特徴

頻度の高い起因菌はStaphylococcus aureus (64%) であった。 そのうちMSSA*¹が74%、 MRSA*²が26%であった。

*¹メチシリン感受性黄色ブドウ球菌
*²メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

術後の抗菌薬治療

術後の抗菌薬治療は84例 (92%) で実施された。 治療期間の中央値は21日間 (IQR : 14–29日) であった。

バンコマイシンを中心とした治療が多数 (73%) を占めた。 経口抗菌薬のみで治療した患者は25例 (30%)、 静脈内 (IV) 抗菌薬のみの患者は27例 (32%)、 IVから経口に切り替えた患者は32例 (38%) であった。

治療失敗とリスク因子

治療失敗は12例 (13%) であった。

喫煙者は治療失敗のリスクが4.53倍高く (OR 4.53、 95%CI 1.04–20.50、 p=0.026)、 術後抗菌薬を投与されなかった患者の治療失敗率は有意に高かった (OR 7.4)。

抗菌薬の投与期間が21日まで延長されると、 治療失敗率が漸減した。 一方、 21日以上の延長では有意な改善は認められなかった。

化膿性肘頭滑液包炎の術後抗菌薬、 最適な治療期間は? (Mayo Clinic)

適切な抗菌薬治療期間が初めて示された

化膿性肘頭滑液包炎は、 骨関節感染症の中でも頻度は多くない疾患です。 一方、 膝と同様に、 解剖学的に周囲の皮膚が脆弱であること、 また頻繁に動く部位の一つであるため再発が多いことが知られています。

これまで、 化膿性肘頭滑液包炎に対する適切な治療期間は不明なままでした。 本研究により、 「術後21日間の抗菌薬投与」 が、 治療失敗を有意に減少させる結果が示されました。

抗菌薬投与と禁煙指導で治療失敗を防ぐ

外科的なデブリードマン後に術後抗菌薬を投与しない施設もみられますが、 治療失敗のリスクが7.4倍に上昇するため、 抗菌薬の投与が推奨されます。

また、 他の人工関連感染症や骨折関連感染症などと同様に、 喫煙歴がある患者では治療失敗率が高いことから、 禁煙指導が重要であることは言うまでもありません。

今後は臨床的疑問に対する研究が望まれる

今後は化膿性肘頭滑液包炎における経口と静脈内抗菌薬の切り替え時期や、 外科的な治療が初期にできない場合の抗菌薬投与期間の検討などの臨床的疑問に対する研究が望まれます。


著者 : 松尾貴公
2011年 長崎大学医学部卒業、 聖路加国際病院初期研修・内科専門研修・内科チーフレジデント・感染症科フェロー・医員を経て2021年 テキサス大学ヒューストン校/MDアンダーソンがんセンターにて臨床留学。 2022年 同チーフフェロー、 2023年 同アドバンストフェロー、 2024年よりメイヨークリニック感染症科の整形外科感染症フェローとして骨関節感染症に特化したトレーニングを行い更なる研鑽を積んでいる。 また、 日本チーフレジデント協会 (JACRA) 世話人を経て、 現在日本感染症教育研究会 (IDATEN) KANSEN JOURNAL編集委員・米国感染症学会 (IDSA) 感染症教育推進委員。 2024年2月よりFebrile Podcast ID Digital Institute (IDDI)のメンバーも務めており、 デジタルデバイスを活用した新しい感染症教育に積極的に取り組んでいる。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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