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はじめに
覚えておくべき2つの疾患
Megaloblastic macrocytic anemia
Myelodysplastic syndrome
特に巨赤芽球性貧血は、 ビタミンB₁₂または葉酸欠乏による栄養障害であるにも関わらず汎血球減少症となり患者の全身状態も不良となるため必ず鑑別を要する。 補充療法は血液内科でなくても実施可能なので覚えておく。
大球性貧血の4つ鑑別ポイント
- 平均赤血球容積 (MCV) の大きさ
- ビタミンB₁₂または葉酸欠乏
- 甲状腺機能
- アルコール歴
それぞれの目安・基準値や原因疾患については本稿内で詳細に解説する。
MCVの大きさ (エキスパートオピニオン)
巨赤芽球性貧血であることが多い。
(ビタミンB₁₂、 葉酸欠乏など 後述参照)
巨赤芽球性貧血以外であることが多い。
役に立つPearlなので知っておくと良い。 ただし、 上記の感覚に当てはまらないこともあるのであくまで参考程度である。
大球性貧血の診断フローチャート
血液検査の段階で、 異形成のある血球や芽球の出現があるならすぐに骨髄検査を企画する。 実際には、 ビタミンや甲状腺機能などは最初から一緒に評価することが多い。
各論① 巨赤芽球性貧血
(1) 病態
巨赤芽球性貧血とは骨髄において核と細胞質に成熟の差がみられる (核が未熟な) 巨赤芽球が増加する貧血のことである。
(2) 原因
葉酸orビタミンB₁₂欠乏によるDNA合成障害
直接の原因は、 「葉酸の欠乏」または、葉酸から活性型葉酸に変化する際の補酵素である「ビタミンB₁₂の欠乏」によって活性型葉酸が低下することによって起こるDNA合成障害である。
DNA合成障害は赤血球のみならず白血球減少や血小板減少も来すため汎血球減少症となる
ビタミン₁₂と葉酸欠乏の原因¹⁾
薬剤性に要注意!
上記の原因の中でも、 特に 「薬剤性」 は忘れやすい原因であるため注意する。
ビグアナイドやPPIなどは長期処方される薬剤であるため、 処方した段階で巨赤芽球性貧血のリスクがあることを認識しておこう。
(3) 患者像と症状
ビタミンB₁₂欠乏の典型的な患者像
食欲低下、体重減少、活気不良
無効造血による間接ビリルビン上昇
葉酸欠乏の典型的な患者像
食欲低下、体重減少、活気不良
無効造血による間接ビリルビン上昇
<汎血球減少以外の症状:消化器症状>
Hunter舌炎というB₁₂欠乏による舌炎や、 葉酸欠乏による口腔内潰瘍は有名だが¹⁾、 その他に食欲低下、 それに伴う体重減少も顕著である。 まるで悪性腫瘍の患者のような全身状態で来院/搬送されることがある。
巨赤芽球性貧血は、 悪性腫瘍のような食欲低下、 体重減少、 全身状態不良を来す!
<汎血球減少以外の症状:神経症状>
ビタミンB₁₂欠乏では髄鞘化の障害によって生じるとされているが、 諸説あり原因は分かっていない。 もっとも有名なのは亜急性連合変性症という疾患で、 両側対称性、 上肢よりも下肢に強く症状がでる運動失調と深部覚障害である。 ただし全患者に生じるとは限らず、 なくてもビタミンB₁₂欠乏症は否定できない。 逆に、 貧血などがなくても神経障害は生じることがある。 これらは葉酸欠乏症では生じない。
神経症状はビタミンB₁₂欠乏症に特徴的!亜急性連合変性症が有名!運動失調や深部感覚障害の診察を忘れずに行う!
(4) 発症経過の違い
臨床症状から両者を見分けるのは困難。 亜急性連合変性症が生じている場合はビタミンB₁₂欠乏症を疑う。 発症までの経過は違いがある。
ビタミンB₁₂:数年して発症
体内に3-5mg程度の貯蔵量があり、 これは5-10年を賄える量である。 そのため供給されなくなってから数年して発症するのが通常。
葉酸:数週間~数ヶ月で発症
体内に5-10mgの貯蔵量があるが需要の増大や供給量の低下により数週間から数カ月で枯渇。
(5) 診断
ビタミンB₁₂と葉酸の血中濃度
明らかな高値、 低値を示す症例は診断/除外診断は容易である。 しかし境界域の結果だった場合には追加検査をする必要がある。
ビタミンB₁₂と葉酸濃度が境界域ならホモシステイン濃度も測定する!
ホモシステイン濃度も診断に有用
ホモシステインとは葉酸が活性型葉酸に代わる際にメチル基を渡す供給原となる物質でその反応の補酵素がビタミンB₁₂である。 ビタミンB₁₂と葉酸の欠乏によってホモシステインは高値となり診断に有用である。
ある研究では、 ビタミンB₁₂欠乏症の患者の内、 95.9%の患者でホモシステイン濃度の上昇がみられた⁴⁾。
悪性貧血の採血結果に注意
抗内因子抗体が陽性の悪性貧血ではビタミンB₁₂が正常~偽高値となる可能性がある。 理由としては化学発光免疫測定法 (CLIA) や化学発光酵素免疫測定法 (CLEIA) では内因子を使用した測定法であるからである。 その場合は上記のホモシステインが診断に重要となる。
悪性貧血ではビタミンB₁₂が正常~偽陽性となるためホモシステイン濃度が重要!
(6) 治療|ビタミンB₁₂補充
用法用量|筋注または内服による治療
ビタミンB₁₂は胃から分泌される内因子と結合して、 主に回腸末端より吸収される。 そのため、 悪性貧血や胃切除後では内因子が分泌されないためB₁₂は吸収されないと考えられていた。
しかし、 過去の研究から経口投与されたB₁₂の1-2%は内因子を介さない受動輸送により腸から吸収されることが分かっている⁵⁾⁶⁾。 臨床的にも複数のRCTとSystematic review/Meta-analysisにおいて筋注と経口治療は差がないことが示されている⁷⁾⁻¹⁰⁾。
実臨床では症状の緊急性や内服アドヒアランスを考慮して以下のように治療をする。
初期療法|以下の事項に当てはまるかで判断
☑ 症候性の貧血またはHb<8.0g/dL
☑ 神経、 精神神経症状がある。
☑ 原因として腸管の吸収不良が疑われる。
☑ 内服アドビアランスに懸念がある。
(A)1つ以上当てはまる:非経口治療
- 用法用量:1回1,000pg 筋注 1週間毎日または隔日を2週間、 以後、 週1回1カ月間。
- 期間:週1回投与は1カ月間行うことが多い。 神経症状が改善途中なら2-3カ月行う。
- 治療効果判定:重症度によるが治療開始後は毎週~2週間毎に血算と網赤血球を評価。
(B)当てはまらない:経口または非経口治療
- 用法用量:1回1,000pg筋注 週1回4週間 または1,500μg/日分3 毎日内服。
欧米では2,000pg 1日1回投与が行われているが、 日本では保険収載がない。
- 治療効果判定:治療開始後1-2カ月の間で血算と網赤血球、 B₁₂濃度を評価。
維持療法|以下の通り
- 用法用量:1回1,000pg筋注 3-4カ月毎 または 1,500μg/日 分3每日内服
- 原因が取り除けた場合は中止可能。
例)薬剤性、 菜食主義など
例)悪性貧血、 胃切除後など
- 治療効果判定:6-12カ月毎に血算を評価。 ビタミンB₁₂やホモシステイン濃度は症状の再燃がない限りは不要。
(7) 治療|葉酸補充
用法用量は?
治療期間は?
- 治療期間はB₁₂欠乏症と同様に、 原因を取り除くことができるかどうかによる。
- 消化器の異常や内服必要性のある薬剤が原因の場合は補充継続。
- 摂取量低下やアルコール乱用に伴う場合、 それらが改善されれば中止検討。
ビタミンB₁₂欠乏にも効果あり?
- 葉酸補充はビタミンB₁₂欠乏症による血算異常も部分的に改善させる。 一方で神経症状を改善することはできず、 むしろ増悪させる可能性がある¹²⁾。
- よって葉酸補充を行う場合はB₁₂の評価も行い、 低値ならB₁₂の補充も行う。
葉酸とB₁₂の評価は必ずセットで!
悪性貧血のフォロー
- 悪性貧血の患者は消化管悪性腫瘍の発生に注意する。 胃腺癌、 胃カルチノイド腫瘍などのリスクが高い¹¹⁾。
- 悪性貧血と診断した場合、 上部消化管内視鏡検査を行い腫瘍の精査をする。 以後は消化管関連の症状が出現した場合や1年に1回程度の上部消化管内視鏡検査を行う。
(8) Follow-up
典型的には以下の順で治療効果が現れる¹³⁾。
筆者が注目したいのは、 補充療法を始めると早々に患者の全身状態が改善することである。 それまで強い倦怠感で食事摂取もできず、 体重減少が継続していた患者が補充療法の翌日には食事を全量摂取し倦怠感もなくなり非常に感謝されるということは日常臨床でよく経験する。
実際に経験することができた研修医は患者をよく診察し、 治療効果を肌で感じてほしい。
各論② アルコールまたは肝疾患による大球性貧血
(1) 病態
アルコールまたは肝疾患によっても大球性貧血が生じる。 前者はアルコール代謝産物であるアセトアルデヒドによる細胞膜不安定化や細胞分裂阻害作用が関与しているとされる¹⁴⁾¹⁵⁾。
(2) 検査
アルコール飲酒歴や肝機能・脾腫から判断する。 なお、 貧血がなくとも、 赤血球が大球化しているだけの症例もよく経験する。 Macrocytosisと呼ぶが、 平均MCV 100-110fLとする報告があり臨床経験と合致する¹⁶⁾。 アルコールに関連しない肝疾患でもMacrocytosisは生じうる。
(3) 治療
禁酒または肝疾患の治療であり貧血の改善は1-2カ月の内に生じ、 Macrocytosisの改善はさらに数カ月を要する。
各論③ 甲状腺機能低下症と貧血
(1) 病態
機序は不明であるが、 甲状腺機能低下症に大球性貧血が合併することがある¹⁷⁾。
(2) 検査
橋本病のように自己免疫性甲状腺機能低下症は悪性貧血に合併することがあり、 それが原因で大球性貧血(上記の巨赤芽球性貧血)を示すことがあるので必ずB₁₂と葉酸を評価しておく。
(3) 治療
甲状腺機能低下症が原因の場合は甲状腺ホルモン補充によって貧血も改善する。
Take home messages
- 大球性貧血は巨赤芽球性貧血が代表疾患!
- 巨赤芽球性貧血の診断と治療を覚える!
- 意外と多いアルコール/肝疾患や甲状腺疾患による大球性貧血を忘れずに!
連載一覧
- 貧血総論 「もう迷わない!」
- 出血と溶血の違いは?
- MCVによる鑑別総論
- 小球性貧血のマネジメント
- 大球性貧血のマネジメント
- 正球性貧血のマネジメント (最終回)
参考文献
- Guidelines for the diagnosis and treatment of cobalamin and folate disorders.Br J Haematol. 2014 Aug;166(4):496-513.PMID: 24942828
- Association between metformin and vitamin B12 deficiency in patients with type 2 diabetes: A systematic review and meta-analysis. Diabetes Metab. 2016 Nov;42(5):316-327. PMID: 27130885
- Effect of hypochlorhydria due to omeprazole treatment or atrophic gastritis on protein-bound vitamin B12 absorption.J Am Coll Nutr. 1994 Dec;13(6):584-91.PMID: 7706591
- Sensitivity of serum methylmalonic acid and total homocysteine determinations for diagnosing cobalamin and folate deficiencies.Am J Med. 1994 Mar;96(3):239-46.PMID: 8154512Berlin H, et al. Acta Med Scand 1968;184(4):247–58.
- Vitamin B12 body stores during oral and parenteral treatment of pernicious anaemia. Acta Med Scand. 1978;204(1-2):81-4.PMID: 685735
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