寄稿ライター
2ヶ月前
こんにちは、 Dr.Genjohです。 連載 「先生の診療科、 食べていけますか?」 の第3回は 「その科、 本当にコスパは良い?」 のテーマについて考察します。
前回は、 どの地域で医師余りが発生するかをご紹介しました。 今回は、 診療科ごとに見ていきましょう。
地方ごとの医師余りは医師偏在指標 (連載第2回参照) で評価していました。 ただ、 診療科ごとの医師余りについては、 現時点では厚生労働省も把握できていません。
診療科別の医師数に関するデータはありますが、 各科の労働時間に関するデータが不足していたり、 患者数が診療科別ではなく傷病名別でのカウントになっていたりするため、 地方ごとの医師偏在指標のような評価が出来ないのです。
そこで、 診療科別の医師数と推移に着目してみます。 上のグラフは全診療科の医師数を2008~2020年でプロットしたものです。
消化器、 循環器など全ての内科が一括りにされていますが、 2008年の10万2388人から2020年時点で11万9767人と17%増えています。 専攻医登録評価システム (J-OSLER) の影響で内科の人気が低迷しているという噂を耳にすることもありますが、 内科全体の実数は着実に増えています。
次に内科の内訳をみてみましょう。 ただ、 厚労省の統計を基にしても、 「内科」 が圧倒的に多く実態がつかめません。 開業医の先生や小規模な病院で勤務する先生が、 本来の専門科を差し置いて一般内科を標榜していることを反映しているためと考えられます。
そこで、 日本内科学会が公表している 「内科領域 研修施設年次報告書」 を参考にします【グラフ1・表1】。 各科を標榜している医師の総数を反映しているわけではないものの、 新専門医制度基幹施設・連携施設に勤めている各科の専門医数を評価することで、 急性期~亜急性期病院に勤める内科の各専門科の推移をある程度把握することは可能です。
感染症、 リウマチ、 呼吸器などの内科専門医が増加する一方、 アレルギー、 糖尿病、 血液などの内科専門医数は振るわないようです。 ただし、 リウマチ/アレルギー、 内分泌/糖尿病などは同じ専門科の中で重複が生じている可能性があることに注意が必要です。
今度は、 内科以外の診療科を見てみましょう。 どの診療科も医師の絶対数は増えていますが特筆すべきは外科です。 医師数はトップをキープしていますが、 ほぼ増加していません。
最後に相対評価を見ていきましょう。 上のグラフは、 2008年の各科の医師数を1.0とし、 2020年時点までにどれくらい増えているかをプロットしたものです。
赤い矢印で示される 「総数」 より上にある科は人気がある、 下にある科は人気がないと考えてもいいでしょう。
リハビリテーション科、 麻酔科、 形成外科、 放射線科などいわゆるコスパ (費用対効果) ・タイパ (タイムパフォーマンス、 時間対効果) が良いイメージのある科の人気はうなぎのぼりです。
一方、 小児科、 脳神経外科、 産婦人科、 外科など大変なイメージのある科は人気がありません。 特に外科は1弱と言ってよいでしょう…。 眼科や耳鼻いんこう科が増えていないことは意外でした。
今回参照したデータは各診療科の医師数のみに限られています。 患者数の増減などを考慮していないため、 診療科ごとの需給バランスを一概に論じることは出来ません。
日本は激務を要求される診療科を選んでも、 それに見合う報酬が得られないため、 コスパ・タイパの良いイメージのある診療科に人気が集中することは道理でしょう。
ただ、 医師余りの時代においては、 人数が増えすぎた診療科内での生存競争が激しくなることは自明の理です。 コスパ・タイパを求めたはずが、 過当競争を勝ち抜くために同科の医師よりも優れていることが生存条件となり、 結果人一倍の努力を要求されるようになるかもしれません。
人気の無い科はもともと激務であることが多い上、 新人が入ってこないため仕事は大変であると言えます。 しかし見方を変えれば、 医師余りの時代においても過当競争に晒されにくいと考えることも出来ます。
どちらを選ぶかは個々人の考えによるところでしょう。 次回はいよいよ【地方ごと+診療科ごと】の各論についてお話します。
Xアカウント : @DrGenjoh
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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