Trial of Vancomycin and Cefazolin as Surgical Prophylaxis in Arthroplasty
研究デザインと対象
- オーストラリアの11病院で実施された多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照試験である。
- 2019年1月~2021年10月に人工関節置換術を受けた4,362例の患者が対象とされた。
- MRSA保菌の既往がない成人患者を、 バンコマイシン1.5gまたは生理食塩水プラセボを、 セファゾリンと併用して投与する群に無作為に割り当て、 術後90日以内のSSI発生率を評価した。
主な結果
- バンコマイシン併用群では91例 (4.5%)、 プラセボ群では72例 (3.5%) が発症し、 統計的に有意な差は見られなかった (相対リスク1.28、 p=0.11)。
- 膝関節置換術においては、 バンコマイシン併用群での感染率が5.7%に対し、 プラセボ群では3.7% (相対リスク1.52、 p=0.03) と有意な差が認められた。
- 一方、 股関節置換術ではバンコマイシン併用群で3.0%、 プラセボ群で3.1% (相対リスク0.98、 p=0.94) で、 有意差はなかった。
- 黄色ブドウ球菌は、 バンコマイシン併用群の19/37例 (51%)、 プラセボ群の12/27例 (44%) で検出され、 バンコマイシン群の1例を除くすべての黄色ブドウ球菌はメチシリン感受性であった。
- 術前保菌として、 MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) は24/3,748例 (0.6%) に、 メチシリン耐性S. epidermidis (表皮ブドウ球菌) は981/3,748例 (26.2%) に検出された。
- 急性腎障害は、 バンコマイシン群よりもプラセボ群で高い割合で発生した (2.1% vs 3.6%)。
S. epidermidisの術前保菌が26%も存在したにも関わらず、バンコマイシン併用群のSSIの発生率がプラセボ群と比較して有意差がなかったことには注目すべきです。
しかしながら、 本研究はMRSA保菌率の低い患者を対象としており (MRSA感染または保菌が既知の患者は除外)、 これらの患者へ本研究を適用することはできないことには注意が必要です。
本結果から、 人工関節置換術における感染予防として、 特に、 MRSA感染リスクが低い患者ではバンコマイシンの併用は必ずしも有効ではない可能性があることを示唆しています。
監修医師 : 松尾 貴公先生
2011年 長崎大学医学部卒業、 聖路加国際病院初期研修・内科専門研修・内科チーフレジデント・感染症科フェロー・医員を経て2021年 テキサス大学ヒューストン校/MDアンダーソンがんセンターにて臨床留学。 2022年 同チーフフェロー、 2023年 同アドバンストフェロー、 2024年よりメイヨークリニック感染症科の整形外科感染症フェローとして骨関節感染症に特化したトレーニングを行い更なる研鑽を積んでいる。 また、 日本チーフレジデント協会 (JACRA) 世話人を経て、 現在日本感染症教育研究会 (IDATEN) KANSEN JOURNAL編集委員・米国感染症学会 (IDSA) 感染症教育推進委員。 2024年2月よりFebrile Podcast ID Digital Institute (IDDI)のメンバーも務めており、 デジタルデバイスを活用した新しい感染症教育に積極的に取り組んでいる。
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