HOKUTO編集部
3ヶ月前
2月の寒さが続くこの時期になると、 中学・大学受験や医師国家試験を思い出し、 人生のターニングポイントから少しずつ遠ざかることを実感する。
今月は、 以下の3論文を紹介する。
❶ 食道癌CRT後のアテゾリズマブ維持療法 : EPOC1802試験
❷ 局所進行胃癌の最適な周術期レジメン : RESOLVE試験 最終解析
❸ 再発食道癌の術前奏効と再発治療の関連性
切除不能な局所進行食道扁平上皮癌に対する標準治療はプラチナ系薬併用化学放射線療法 (CRT) だが、 依然として予後不良である。
EPOC1802試験では、 CRT後の局所進行食道扁平上皮癌40例に対し、 アテゾリズマブ維持療法を1年間実施した。 主要評価項目は確定された完全奏効割合 (cCR)、 副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) とした。
主要評価項目であるcCRは42.1% (90% CI: 28.5-56.7%) であり、 90%CIの下限が事前に設定した閾値の20%を上回った。探索的コホート (再発10例) のcCRは50.0%であった。
副次評価項目は、 PFS中央値3.2ヵ月、 12ヵ月PFS率29.6%、 OS中央値31.0ヵ月、 12ヵ月OS率65.8%であった。
安全性では、 治療関連死は認められなかった。
CRT後のアテゾリズマブ維持療法は、 有望なcCR割合を示したが、 長期予後の評価が必要である。
他癌腫ではPACIFIC試験などで、 CRT後の免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 維持療法の有効性が示されており、 EPOC1802試験が食道癌領域でも同様の効果を示すかが重要な課題だった。
EPOC1802試験はポジティブな結果を示したものの、 最終的な判断は国際共同第III相試験 (SKYSCRAPER-07試験: NCT04543617) の結果に委ねられる。 一方、 切除不能食道癌に対するCRTと、 導入化学療法を経た根治切除またはCRTを比較するJCOG1510試験が進行中であり、 導入化学療法が有効であった場合には、 治療法の最適化に向けたさらなる検討が求められるだろう。
中国で実施されたRESOLVE試験は、 局所進行 (cT4aN+M0またはcT4bNanyM0) 胃癌または食道胃接合部癌1,094例を対象に、 術後CapOx療法と、 周術期または術後SOX療法を比較した第III相無作為化比較試験。 主要評価項目の3年無病生存率は、 周術期SOX群で優越性、 術後SOX群で非劣性が確認されている。 本最終解析では、 副次評価項目の5年OSが報告された。
追跡期間中央値62.8ヵ月において、 5年OS率はCapOx群52.1% (95%CI 46.3-57.5%)、 術後SOX群61.0% (同55.3-66.2%)、 周術期SOX群60.0% (同54.2-65.3%) だった。
また、 周術期SOX群はCapOx群と比較してOSの有意な延長を示し (HR 0.79 [95%CI 0.62-1.00])、 術後SOX群もCapOx群と比較して有意にOSを延長した (HR 0.77 [95%CI 0.61-0.98])。
SOX療法は、 周術期、 術後問わず、 アジア人集団における胃癌と食道胃接合部癌の標準療法と考えられる。
RESOLVE試験では、 SOX療法の無病生存率の優位性は既報だが、 最終解析でOSの延長も確認された。 特に注目すべき点として、 術後CapOx療法と術後SOX療法でOSに差が認められたこと、 および周術期SOX療法と術後SOX療法でOSがほぼ同等であったことが挙げられる。
アジア人における診療の視点では、 前者に関してS-1療法の管理に長けている点が影響した可能性がある。 一方、 後者については、 論文では後療法の影響が指摘されているが、 SOX療法の術前治療としての強度が不十分である可能性も考えられる。 実際、 FLOT4試験³⁾やPRODIGY試験⁴⁾では、 術前にタキサンを加えた3剤併用療法の有効性が報告されており、 今後の周術期治療の開発は、 2剤併用ではなく3剤併用が主流となる可能性がある。
現在、 周術期FLOT (5-FU + ロイコボリン + L-OHP + ドセタキセル) 療法にICIを上乗せしたMATTERHORN試験 (NCT04592913) が進行中であり、 その結果次第では本邦の標準治療が大きく変わる可能性がある。
切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対する標準的な周術期治療は術前DCF (ドセタキセル + シスプラチン + 5-FU) 療法だが、 一定の割合で再発し、 その後の緩和的な全身化学療法が必要となる。 本研究は、 術前DCF療法の病理学的奏効が再発治療の効果に与える影響を検討するため、 再発食道扁平上皮癌32例を対象に後方視的解析を行った。
術前DCF療法の病理学的奏効をGrade 0–3で評価し、 非奏効例は13例 (grade 0: 3.1%、 grade 1: 68.7%)、 奏効例は9例 (grade 2: 21.9%、 grade 3: 6.3%) であった。
また、 再発後にプラチナ系薬を含む緩和的化学療法を実施した際の奏効割合は、 奏効例で44.4%、 非奏効例で34.8%であり、 奏効の有無によるPFS中央値は、 それぞれ4.04ヵ月、 2.43ヵ月 (HR=1.02 [95%CI: 0.42-2.48]) と差を認めなかった。
一方、 DCF療法最終投与から6ヵ月以内に再発した症例では、 PFSが有意に短縮 (HR=4.10 [95%CI: 1.12-15.04]) し、 予後不良因子であることが示唆された。
術前DCF療法の病理学的奏効は、 再発治療の効果を予測しないことが示唆された。 一方、 無化学療法期間が6ヵ月未満であることは、 予後不良因子として有意であった。
再発食道扁平上皮癌の治療選択においては、 周術期化学療法 (シスプラチン + 5-FU療法など) の最終投与から6ヵ月以内の再発かどうかを基準に、 プラチナ系薬を含む治療の適応を判断することがコンセンサスである。 しかし、 術前DCF療法施行後の再発に関するエビデンスは限られており、 本研究が初の報告となる。
結果は従来と同様に、 術前DCF療法施行例においても6ヵ月以内の再発か否かが予後因子であることが示唆され、 現行のコンセンサスがそのまま適用可能である可能性が示された。
ただし、 対象となった再発例のすべてが現在の標準治療である 「プラチナ系薬 + フッ化ピリミジン系薬 + ICI」 や 「ニボルマブ + イピリムマブ併用療法」 を受けたわけではなく、 特に後者のデータは限定的である。 そのため、 今後はニボルマブ + イピリムマブ併用療法の有効性に関するさらなる検討が求められる。
気づけば1年の6分の1が過ぎ、 別れの3月が近づく。 時の流れの速さに焦りを感じる今日この頃である。
切除可能局所進行食道腺癌への周術期FLOT、 術前CRTに比べOS改善
局所進行ESCCへの術前DCF療法、 5年時でもOSを有意に改善
切除可能局所進行胃癌、術前DOS上乗せで5年OS/PFS延長
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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