HOKUTO編集部
7ヶ月前
2024年第1四半期に胃癌治療関連で注目するべき論文として術前(周術期)化学療法に関する論文を解説する。 本邦においては、 食道癌に対する術前化学療法は標準治療として確立されているが、 胃癌に対しては一定の見解が得られていない。 一方、 胃癌の1次治療においては、 免疫チェックポイント阻害薬が標準的1次治療となったことから、 胃癌術前治療の国内外の臨床試験結果を再確認しておくことは重要と思われる。 そこで最近の第Ⅱ相試験あるいは第Ⅲ相試験から、 今後の胃癌術前治療戦略を考察する。
Neoadjuvant and adjuvant pembrolizumab plus chemotherapy in locally advanced gastric or gastro-oesophageal cancer (KEYNOTE-585): an interim analysis of the multicentre, double-blind, randomised phase 3 study.
Lancet Oncol. 2024 Feb;25(2):212-224. PMID: 38134948
第Ⅲ相試験KEYNOTE-859の結果から、 HER2陰性進行再発胃癌に対する1次治療として、 抗PD-1抗体ペムブロリズマブと化学療法の併用療法が全生存期間 (OS) を有意に改善することが示された。 これを受けて術前治療としてのペムブロリズマブの有用性を検討したのが、 KEYNOTE-585試験である。
病理学的完全寛解 (pCR) 率は、 ペムブロリズマブ群は、 対照群に比較して有意に良好であり (12.9% vs 2.0%、 p<0.00001)、 無イベント生存期間 (EFS) もペムブロリズマブ群で有意に良好であった (中央値44.4ヵ月 vs 25.3ヵ月、 HR 0.81、 p=0.0198)が、 OSでは有意差がなかった (p=0.0178)。 1次治療における有用性や本論文におけるpCR率から考えてOSの延長が強く期待されていたにも関わらず、 少々残念な結果であった。
胃癌の1次治療における免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) と化学療法との併用は、 第Ⅱ/Ⅲ相試験ATTRACTION-4においても無増悪生存期間 (PFS) は有意に改善するもののOSは有意に改善しないという知見があることから、 ICIを1次治療で用いる場合の弱点である可能性もある。
Neoadjuvant atezolizumab plus chemotherapy in gastric and gastroesophageal junction adenocarcinoma: the phase 2 PANDA trial.
Nat Med. 2024 Feb;30(2):519-530. PMID: 38191613
PANDA試験は、 抗PD-L1抗体アテゾリズマブ単独治療後にアテゾリズマブ+化学療法併用治療を行う胃癌術前療法を検討したの第Ⅱ相試験である。 試験の結果、 70%に主要病理学的奏効 (MPR)、 45%では病理学的完全奏効(pCR)を認めるという良好な成績であった。 治療前の組織像では、 PD-1+CD8+T細胞浸潤が奏効例において顕著に高かった。
最初のアテゾリズマブ単独治療によって、 腫瘍微小環境が変化することがその後の化学療法との併用により大きな上乗せ効果を発揮できた可能性がある。
これは、 後述する同時期に発表されたDANTE/IKF-x633試験の作業仮説通りであり、 もしかしたらATTRACTION-4試験やKEYNOTE-585試験の弱点を克服できる可能性がある。
Perioperative Atezolizumab Plus Fluorouracil, Leucovorin, Oxaliplatin, and Docetaxel for Resectable Esophagogastric Cancer: Interim Results From the Randomized, Multicenter, Phase II/III DANTE/IKF-s633 Trial.
J Clin Oncol. 2024 Feb 1;42(4):410-420. PMID: 37963317
DANTE/IKF-x633試験は、 切除可能な胃・食道癌に対して、 術前FLOT療法 (ドセタキセル+オキサリプラチン+ホリナートカルシウム+5-FU)へのアテゾリズマブ併用の有効性を検討した多施設共同第Ⅱ/Ⅲ相無作為化比較試験である。
pCR率はアテゾリズマブ併用群で24%であり、 化学療法単独群では15%であった(p=0.0032)。
pCR率とPD-L1 combined positive score (CPS)との相関関係がみられるが、 CPS<1であっても化学療法単独群よりも完全奏効 (CR) 率が高い傾向を認めることに注意が必要である。 ICIはPD-L1の発現がCPS<1症例での治療効果に懸念はあるが、 化学療法に比較すると局所治療効果が改善する可能性がある。
Neoadjuvant camrelizumab and apatinib combined with chemotherapy versus chemotherapy alone for locally advanced gastric cancer: a multicenter randomized phase 2 trial.
Nat Commun. 2024 Jan 2;15(1):41. PMID: 38167806
胃腺癌の術前療法において、 化学療法に抗PD-1抗体camrelizumab+VEGFR阻害薬apatinibを併用する群と化学療法単独群の比較試験である。
切除標本における残存腫瘍細胞が10%未満を著効例と定義すると、 camrelizumabとapatinib併用化学療法群で33.3%であり、 化学療法単独群は17.0%であった (p=0.044)。 全奏効率 (ORR)、 R0切除率もcamrelizumabとapatinib併用化学療法群で有意に良好であった。 まだ観察期間が短いため両群の生存予後に有意差はなかった。
Short‑term outcomes of preoperative chemotherapy with docetaxel, oxaliplatin, and S‑1 for gastric cancer with extensive lymph node metastasis (JCOG1704).
Gastric Cancer. 2024 Mar;27(2):366-374. PMID: 38180622
JCOG1704試験は、 リンパ節転移陽性の胃癌を対象に、 術前ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1 (DOS療法) の3剤併用療法の安全性および有効性を検討した国内多施設共同第Ⅱ相試験である。
pCRは57% (46例中26例) であり、 pCR率は24% (46例中11例)であった。 日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)における他の第Ⅱ相試験でのpCR率を以下に示す。
Perioperative versus adjuvant S-1 plus oxaliplatin chemotherapy for stage II/III resectable gastric cancer (RESONANCE): a randomized, open-label, phase 3 trial.
J Hematol Oncol. 2024 Apr 8;17(1):17. PMID: 38589926
RESONANCE試験は、 Ⅱ/Ⅲ期切除可能胃癌への術前+術後SOX (S-1+オキサリプラチン) 療法 (PC群) と術後SOX療法 (AC群) を比較した無作為化比較試験である。
3 年時のRFS率はPC群がAC群に比較して有意に良好であった (61.7% vs 53.8%、 p=0.019)。 残念ながらこの試験では、 pRRやOSに関する解析がされておらず、 ICI併用化学療法による術前治療に比較した有用性は考察できない。
A prospective phase II clinical trial of total neoadjuvant therapy for locally advanced gastric cancer and gastroesophageal junction adenocarcinoma.
Sci Rep. 2024 Mar 29;14(1):7522. PMID: 38553594
こちらの第Ⅱ相試験では、 臨床病期T3-4および/またはN陽性の局所進行性胃癌および胃食道接合部癌を対象に、 術前化学放射線療法(NCRT)に続く術前強化化学療法(NCCT)の有効性を検討した。 S-1を併用した術前放射線化学療法 (NCRT、( 45Gy/25回) を施行し、 その2~4週間後にNCCT( SOXレジメンを4~6サイクル) が施行された。 試験の結果、 病理学的部分奏効(pPR)は71.4%であり、 pCRは35.7%であった。
固形癌に対する術前治療の目的は、 ①物理的に切除できない微少残存腫瘍の確率を低下させる、 ②腫瘍を縮小させることで手術手技を容易にさせる、 ③場合によっては、 手術自体を回避できる可能性も模索できる-ことなどが想定される。 一般論として、 術前治療が著効した症例では、 術後の全予後が良好であると認識されている。 しかしながら、 放射線治療を併用した場合には、 局所治療効果が全身の微少残存腫瘍の減少と一致していない。 したがって、 NCRT症例におけるpCRは、 放射線を併用しない薬物療法で得られるpCRとは意味が異なる。
一方、 ICIを併用した術前療法でpCRが得られた場合には、 微少残存腫瘍も消失している可能性が高いため、 良好な長期予後が期待される。
しかしながら今回取り上げた❶~❹の試験結果では、 局所の病理学的治療効果や無増悪生存予後が良好であることは確認できたが、 全生存予後については、 言及されていないか、 あるいは明確な改善効果が得られていない。 一部の症例では、 長期の無増悪生存が得られることから 「治癒」 と判断できるが、 当初の期待に比べると上乗せ効果が低い印象である。
ICIと化学療法は、 もしかすると 「同時併用」 ではなく連続的に投与することで局所の免疫環境を改善させる、 という考え方も検討する価値があるのかもしれない。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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