HOKUTO編集部
6ヶ月前
CD70を標的とする新たな同種CAR-T療法CTX130は、 進行性淡明細胞型腎細胞癌に対し有望かつ安全性も高く、 3年を超える完全奏効(CR)例も認められたことが、 多施設共同第Ⅰ相試験COBALT-RCCの結果から示された。 米・The University of Texas MD Anderson Cancer CenterのSamer A. Srour氏が米国癌研究協会 (AACR 2024)で発表した。
2024年のAmerican Association for Cancer Research Annual Meeting (AACR 2024) は、 4月5~10日に米国カリフォルニア州サンディエゴで開催された。 参加者数は2万2,500人以上と過去最多であり、 7,200以上の演題が発表された。 そして、 スーツ率の低いカジュアルかつフレンドリーな学会スタイルは相変わらずであった。
AACRは基礎医学にフォーカスされた学会であり、 基礎研究や橋渡し研究の演題が中心に発表される。 しかし、 近年では早期開発の臨床試験の結果も多く発表されている。
COBALT-RCC試験は、 腎細胞癌に対するCAR-T療法の第Ⅰ相試験である。 なお、 本結果はCancer Discovery誌で同時発表された¹⁾。
がん免疫療法の一つであるCAR-T療法は、 血液腫瘍において臨床的アウトカムの改善が証明され、 実臨床でも使用されている。 一方、 固形腫瘍ではいまだ臨床導入されたものはなく、 標的抗原の選択を含めたCAR遺伝子構造の改善、 遺伝子導入法の改善、 遺伝子導入される免疫細胞の選択、 他治療との併用などさまざまな工夫が試みられている状況である。
腎細胞癌に対しても、 これまでにCAIX²⁾やVEGFR2³⁾、 c-MET⁴⁾などを標的抗原としたさまざまなCAR-T療法が試されてきた。 中でもCTX130は、 下記の特徴を有するCAR-T療法である。
1. CD70が標的
2. 健常ドナー由来のT細胞を使用
3. CRISPR-Cas9の技術を使用
CD70は、 共刺激分子として樹状細胞や活性化T細胞などの免疫細胞に発現しているだけでなく、 さまざまな腫瘍細胞にも発現しており、 腎細胞癌では約80%に発現していることが知られている⁵⁾。 また、 CD70はT細胞上のCD27と結合することによりT細胞の疲弊や、 アポトーシス、 制御性T細胞の増殖などにも影響し、 免疫抑制効果をもたらすことも示唆されている⁶⁾。 このような背景から、 CD70を標的としたCAR-T療法が開発されている。
これまでのCAR-T療法は、 患者自身のリンパ球を採取・遺伝子改変していたため、 投与までに一定の期間が必要であった。 一方、 CTX130は健常人ドナーから採取したリンパ球を使用するため、 患者の状態によらず作成が可能である。
CTX130を製造・保存することにより、 多数の患者にオンデマンド方式で使用することが可能になるかもしれない。 そのため、 CRISPR-Cas9の遺伝子編集技術を使用し、 急性拒絶反応を防ぐためにβ2MローカスをノックアウトしてMHC class I分子を、 GVHDを防ぐためにT細胞受容体 (TCR) を欠損させている。
さらに、 抗CD70 CARの導入にもCRISPR-Cas9の技術を使用し、 T細胞受容体αコンスタント (TRAC) ローカスに正確に挿入されている。 そのため、 より良い抗腫瘍効果が期待される次世代のCAR-T療法の一つと言える⁷⁾。
今回の試験では16例に投与され、 病勢制御率 (DCR)は81%と良好な結果であった。 一方、 その内訳はCRが1例、 安定 (SD) が12例 (75%) と、 前治療歴が多いコホートとはいえ改善の余地が残る内容であった。 しかし、 CRになった1例は36ヵ月を超えてCRを維持しており、 CD70を標的としたCAR-T療法の可能性を示唆すると考えられる。
現在、 さらに改良されたCTX131の開発が進んでいる。 CTX131は、 CTX130と同様にCD70を標的とするCAR-Tであるが、 TGFβもノックアウトすることで腫瘍微小環境の免疫抑制作用の抑制が、 Regnase-1もノックアウトすることでCAR-T細胞の機能維持の効果が期待される。 引き続き、 COBALT-RCCプロジェクトの結果に注目していきたい。
2) NCT04969354
3) NCT01218867
4) NCT03638206
6) The CD70-CD27 axis in oncology: the new kids on the block. J Exp Clin Cancer Res. 2022, 41(1):12.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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