HOKUTO編集部
3日前
循環器領域における注目トピックやキーワードについて解説する連載。 今回は、3月に改訂された 「心不全診療ガイドライン」 から、 心不全の分類と薬物療法について解説いただきます (解説医師 : 北海道大学 循環病態内科学教室 上原拓樹先生)。
2025年3月の第89回日本循環器学会において、 大幅に改訂された 「心不全診療ガイドライン」¹⁾が発表されました。
心不全は非常にcommonな症候群であり、 どの診療科にも関わる一方で、 新しいエビデンスや治療薬などの発展が著しいです。
今回は、 心不全の分類と薬物療法について、 ガイドラインの改訂点を整理しながら実臨床で押さえておきたいポイントを紹介します。
心不全はこれまでも左室駆出分画 (LVEF) で分類されてきましたが、 そのカットオフについては文献によってさまざまでした。 今回のガイドラインで、 本邦におけるカットオフが定義されました。
また、 HFrEF・HFmrEF・HFpEF以外の定義として、 「初回のLVEFが40%以下、 かつ経過中に10%以上改善し、 LVEFが40%を超えた」 心不全として 「LVEFの改善した心不全 (heart failure with improved ejection fraction: HFimpEF) 」 が紹介されています。
前版のガイドラインでも、 HFrEFに対してはアンジオテンシン受容体拮抗薬/ネプリライシン阻害薬 (ARNI) とβ遮断薬、 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRA)、 SGLT2阻害薬の導入が推奨されていましたが、 今版ではこれら4剤をできるだけ早期に確実に導入することが強調されました。
4剤いずれかによる治療を行っているNYHA心機能分類II~IVのHFrEF患者 (ここではLVEF<45%) に対して、 ベルイシグアトの使用が新規に推奨クラスⅡaとなりました。
心保護薬以外にも、 HFrEFの薬物療法についてはいくつかの変更点があります。
利尿薬として従来はループ利尿薬が基本であり、 それでも体液貯留のコントロールが不良の場合にはトルバプタンの使用が推奨クラスⅡaでした。 今版では、 トルバプタンと同様の推奨クラスⅡaでサイアザイド系利尿薬も考慮するようになりました。
QOL改善や経静脈的強心薬からの離脱、 β遮断薬導入の補助としての短期投与として経口強心薬が推奨クラスⅡaになりました。
また、 洞調律であっても心不全悪化による死亡または心不全入院の抑制を目的としてジゴキシンの投与が推奨クラスⅡbとなりました。 なお、 ジゴキシンを使用する場合には低用量で使用します。
これまで、 HFpEFの予後の改善を証明した心保護薬はありませんでした。 しかし、 SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンとダパグリフロジンが心血管死および心不全入院を有意に減少させることが示され²⁾³⁾、 欧州のガイドラインで推奨クラスⅠとなりました。
これを受け、 本邦のガイドラインでもHFpEFに対するこれらのSGLT2阻害薬の使用が推奨クラスⅠとなりました。
非ステロイド骨格であるフィネレノンも同様にHFpEFの血管死+心不全入院を有意に減少させた⁴⁾ことを受け、 今回のガイドラインでもクラスⅡaで新規に推奨となりました。
なお、 2025年4月時点のフィネレノンの適応は 「2型糖尿病を合併する腎不全患者の心血管イベント抑制目的の使用」 であることに注意が必要です。
上記のほか、 肥満症合併のHFpEFに対して心血管死減少・再入院予防を目的としてGLP-1受容体作動薬の使用がクラスⅡaで推奨となりました。
ただし、 基となるエビデンスではBMI 30kg/m²以上を肥満症と扱っていますが、 欧米人とアジア人での人種の違いや個々の薬剤の添付文書上の適応、 本邦の肥満症の定義がそれぞれ異なるため注意が必要です。
HFmrEFの薬物療法はHFpEFに概ね準じていますが、 HFmrEFはHFrEFの側面も持つためARNIがクラスⅡa、 β遮断薬がクラスⅡbで推奨となっています。
近年ではnon-HFrEFとしてHFpEFと一緒に括られることも増えてきました。 そのため、 HFpEFに準じた薬物療法を行いつつ、 血圧や心拍数、 併存疾患などを加味しながらこれらの薬剤の追加を検討すると良いでしょう。
HFimpEFに対しては、 特定の治療法はありません。 しかし、 HFrEFに対して至適薬物療法を導入後にLVEFが改善したとしても、 薬物療法を中断するとその後心不全の増悪リスクがあるため、 ガイドラインでも安易な中断や減量はしないように記載されています。
今回は最新の心不全診療ガイドラインのうち、 特に改定された薬物療法についてまとめました。 特にLVEFの保たれた心不全に対して、 予後を改善する有効な薬物療法がなかったところにSGLT2阻害薬やフィネレノン、 GLP-1受容体作動薬が登場したことが革新的です。 他にも盛りだくさんですので、 是非一度ガイドラインをご自身で確認してもらえたら幸いです。
著書
循環器病棟の業務が全然わからないのでうし先生に聞いてみた (医学書院)
うし先生と学ぶ 「循環器×臨床推論」 が身につくケースカンファ (医学書院 : 2025年3月発売)
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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