骨・関節感染症における内服抗菌薬治療ガイダンス介入の効果 : スタンフォード大学の研究
著者

メイヨークリニック感染症科 松尾貴公

6ヶ月前

骨・関節感染症における内服抗菌薬治療ガイダンス介入の効果 : スタンフォード大学の研究

Implementing Oral Antibiotics for Bone and Joint Infections: Lessons Learned and Opportunities for Improvement

Open Forum Infect Dis. 2024 Nov16;11(12):ofae683.
骨・関節感染症における内服抗菌薬治療ガイダンス介入の効果 : スタンフォード大学の研究

研究方法

研究デザイン

2023年4月のガイダンス導入前後で患者を比較した、 後ろ向きコホート研究。

対象

骨・関節感染症で入院治療を受けた18歳以上で、 退院後も経口または静注で抗菌薬投与を継続した患者。

除外基準

治療期間が2週間未満の患者、 非典型感染*、 免疫不全患者、 骨・関節感染症以外の感染症を合併する患者など。

*結核や非定型細菌

主な評価項目

経口抗菌薬投与のみで退院した割合、 90日以内の治療失敗率、 入院期間、 PICC関連有害事象。

主な研究結果

対象患者

186例 (導入前 : 53例、 導入後 : 133例)

経口抗菌薬投与のみで退院した割合

導入前 : 25% (13例)、 導入後 : 70% (93例)

導入後で有意に高かった (p<0.01)。

治療失敗率

導入前 : 8% (4例)、 導入後9% (12例)

導入前後で有意差は見られなかった (p=0.75)。

入院期間の中央値

導入前 : 8日、 導入後 : 7日

導入後で有意に短縮した (p=0.04)。

PICC関連有害事象の発生率

導入前 : 6% (3例)、 導入後 : 1% (1例)

有意差は見られなかったものの (p= 0.07)、 ガイダンス導入後に減少傾向がみられた。

総抗菌薬投与期間の中央値

導入前 : 66日、 導入後 : 49日

導入後で有意に短縮した (p=0.04)。

疾患による特徴

人工関節感染症*¹および脊椎骨髄炎/椎間板炎*²の患者では、 経口抗菌薬治療を受ける可能性が低かった。

*¹aRR 0.65、 95%CI 0.46-0.92 *²aRR 0.43、 95%CI 0.23-0.82

また、 経口抗菌薬投与群における治療失敗例のうち、 64% (7/11例) が糖尿病足感染症患者であった。

骨・関節感染症における内服抗菌薬治療ガイダンス介入の効果 : スタンフォード大学の研究

骨・関節感染症は、 古典的には静脈内抗菌薬が標準治療とされてきました。 しかし、 近年のOVIVA trial¹⁾を含めたいくつかの研究で、 経口抗菌薬の安全性と有効性が示されています。

本ガイダンス導入後に、 経口抗菌薬切り替えによる入院期間が短縮され、 PICCラインに関連する合併症が減少する傾向が見られた点は重要な結果です。 本研究では正式なコスト分析は行われていませんが、 過去の研究では経口抗菌薬の使用が医療コストを大幅に削減することも示されています²⁾³⁾。

一方で、 本研究の臨床への応用において注意が必要な点もあります。 特に、 脊椎骨髄炎や人工関節感染症の患者では経口抗菌薬の使用割合が依然として低く、 これらの患者に対する効果は不明な部分が多いため、 さらなる研究が求められます。

また、 経口抗菌薬への切り替え時には、 嘔吐や下痢などの消化管症状による吸収不良や、 患者の内服コンプライアンスについて十分な考慮が必要です。

今後は、 骨・関節感染症における各疾患ごとの経口抗菌薬治療の成績に関する大規模な研究が望まれます。

<出典>
1) N Engl J Med. 2019 Jan 31;380(5):425-436.
2) Clin Infect Dis. 2021 Nov 2;73(9):e2582-e2588.
3) Clin Infect Dis. 2020 Jun 24;71(1):207-210.

監修医師 : 松尾 貴公先生

2011年 長崎大学医学部卒業、 聖路加国際病院初期研修・内科専門研修・内科チーフレジデント・感染症科フェロー・医員を経て2021年 テキサス大学ヒューストン校/MDアンダーソンがんセンターにて臨床留学。 2022年 同チーフフェロー、 2023年 同アドバンストフェロー、 2024年よりメイヨークリニック感染症科の整形外科感染症フェローとして骨関節感染症に特化したトレーニングを行い更なる研鑽を積んでいる。 また、 日本チーフレジデント協会 (JACRA) 世話人を経て、 現在日本感染症教育研究会 (IDATEN) KANSEN JOURNAL編集委員・米国感染症学会 (IDSA) 感染症教育推進委員。 2024年2月よりFebrile Podcast ID Digital Institute (IDDI)のメンバーも務めており、 デジタルデバイスを活用した新しい感染症教育に積極的に取り組んでいる。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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