Beyond the Evidence
1年前
「Beyond the Evidence」 では、 消化器専門医として判断に迷うことの多い臨床課題を深掘りし、 さまざまなエビデンスや経験を基に、 より最適な解決策を探求することを目指す企画です。 気鋭の専門家による充実した解説、 是非参考としてください。
局所進行食道がんにおいて、 術前化学療法の後に根治的切除を受けるもnon-pCRの場合、 術後治療を行うべきか?
本邦の治療戦略において、 術後療法の確立したエビデンスは存在しない。 本CQを解決するために、 JCOG2206試験(SUNRISE)が準備中である。 以下にこれまでの変遷と根拠となる臨床試験を紹介する。
局所進行食道がんは本邦の食道がんの約半数以上を占める集団であり、 その解剖学的特性や腫瘍学的特性から治療に難渋する疾患の一つである。 かつては手術単独による治療が行われていたが予後は限定的であった。 そのため、 本邦では手術自体の質の向上(3領域リンパ節郭清術)や周術期治療開発が進められた。
特に周術期治療に関しては、 当初JCOG9204試験で術後シスプラチンと5-FU併用(CF)療法の有効性が証明された¹。
その後、 最適な周術期治療の時期を明らかにするためJCOG9907試験で術前CF療法の有効性が証明された²⁾。 しかし、術前CF療法を行っても5年生存割合は55%にとどまっていたことから、 さらなる治療成績の向上を目指して術前治療の開発が進められた。
一つはドセタキセルをCF療法に上乗せしたDCF療法、 もう一つは海外の標準治療である術前化学放射線療法(CRT)の開発が本邦で進められ、 両者とも有望な治療成績が示されたことから、 術前CF療法、 術前DCF療法、 術前CRTを比較する第III相試験であるJCOG1109試験が行われた。
JCOG1109試験の結果、 術前DCF療法は術前CF療法と比較して全生存期間に関して優越性を証明し(HR[95%CI]: 0.68 [0.50-0.92])、 術前CRTは優越性を証明できなかった(HR[95%CI]: 0.84 [0.63-1.12])ことから、 術前DCF療法と手術が切除可能な局所進行食道がんの標準治療として確立された³⁾。
一方、 欧米ではCROSS試験⁴⁾やCALGB9781試験⁵⁾の結果から術前CRTが切除可能な局所進行食道がんの標準的な周術期治療であるが、 その治療を受けてもpCRが得られない対象の予後は不良と考えられたことから、 この対象に絞って術後ニボルマブ療法の有効性を検証した試験がCheckMate 577試験である。
この試験の主要評価項目である無病生存期間に関して術後ニボルマブ療法の優越性が証明された(HR[96.4%CI]: 0.69[0.56-0.86])⁶⁾ことから、 本邦でも術前治療でnon-pCR症例に限り食道がんでも保険診療下で使用可能となった。
術後ニボルマブ療法はCheckMate 577試験のサブ解析で、 プラセボと比較して無遠隔転移期間が良好な傾向が報告されており、 本邦の標準治療である術前DCF療法後の術後ニボルマブ療法により遠隔転移を制御し、 再発した場合でも局所であればCRTで治療し長期の腫瘍制御が得られる可能性を秘めている。
また、 実臨床では予後不良因子 (病理学的リンパ節転移陽性例など)を有する症例での術後ニボルマブ療法の使用も時に検討されるが、 CheckMate 577試験は術前CRTを受けた症例のみのデータであり、 本エビデンスを本邦の実臨床に単純に外挿することは難しく、 果たして術後ニボルマブ療法が有効性を示すのか明らかでない。
📊JCOG2206試験(SUNRISE)
このような中、 JCOGは現在の周術期治療の最大のCQを解決するため、 第II相試験で有望な結果を示した術後S-1療法を加えた、 術後無治療経過観察 vs 術後ニボルマブ療法 vs 術後S-1療法の3群を比較するランダム化第III相試験を準備中である。 この結果をもって本CQに対する明確な答えが得られるものと期待される。
食道癌 (扁平上皮癌/頚部・胸部食道癌-腺癌) のTNM分類(規約版)
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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