メイヨークリニック感染症科 松尾貴公
3日前
Tuberculous arthritis of native joints - a systematic review and European Bone and Joint Infection Society workgroup report
PRISMA-ScR (系統的レビューとスコーピングレビューの拡張ガイドライン)¹⁾に準拠し、 2010年~23年に報告された文献を対象とした。
20件の文献から9ヵ国における573例の患者データを抽出し、 診断法、 治療法、 予後に関する異質性を分析した。
脊椎、 仙腸関節、 胸鎖関節など末梢関節以外の結核性関節炎や、 10例未満の症例報告が含まれる研究は除外された。
感染は下肢関節が多く、 上肢関節はまれ
対象患者の平均年齢は42歳 (範囲18~76歳) で、 男女比はほぼ均等であった (男性52%)。
感染部位は膝 (48%)、 股関節 (32%)、 足関節 (15%) が多く、 肩や肘などの上肢関節は比較的まれであった (5%未満)。 HIV陽性の患者は全体の24%で、 特にアフリカ地域の報告で多かった。
抗結核薬治療が6ヵ月以下だと治療失敗率高い
抗結核薬治療は中央値12ヵ月 (IQR 8–16ヵ月) 行われ、 治療期間が6ヵ月以下の患者では治療失敗率が高い傾向があった (18% vs. 5%、 p<0.05)。 最初の2ヵ月は4剤併用療法 (HERZ)*¹が主流で、 その後2剤併用 (HR)*²に移行するプロトコルが採用される症例が80%以上を占めた。
多剤耐性結核 (MDR-TB) の患者は全体の3% (15例) で、 2次薬剤 (カナマイシンやフルオロキノロン) を用いた治療が必要となった。
87%の患者で手術を実施
手術は87% (499例) の患者に実施され、 主にデブリードマン (80%) が行われた。 関節置換術は人工股関節 (91例、 16%) が最多で、 膝や足関節では関節固定術が多かった (21例、 23%)。
足関節や股関節で再発が高率
再発率は全体で7.4% (35例) であり、 足関節 (26%) が最も高く、 次いで膝 (4%) と股関節 (3%) であった。 再発は治療終了後3~9ヵ月以内に多く発生し、 再発症例の67%が追加の外科治療を要した。
再発リスク因子として、 HIV陽性 (OR 2.4、 95% CI 1.3–4.5) や複数菌感染 (OR 3.1、 95%CI 1.7–5.8) が確認された。
股関節TBは良好な回復も、 足関節TBは関節拘縮や疼痛が長期残存
フォローアップ期間の中央値は26ヵ月であった (IQR 18–48ヵ月)。 股関節TB患者では93%が自立歩行可能になるなど良好な機能回復を示した一方、 足関節TB患者では関節拘縮や疼痛が長期間残存する症例が42%に達した。
結核性関節炎は非常にまれですが、 慢性の感染性関節炎の鑑別の一つとして、 リスクに応じて念頭に入れておく必要がある重要な疾患です。
本報告は、 欧州感染症学会による、 システマティックレビューにより診断や内科的・外科的手術の介入、 抗結核薬の治療期間、 予後や再発率を含めた治療成績をまとめた重要な報告です。 結核性関節炎は肺結核や全身症状が伴わないことが多いこと、 また関節液の抗酸菌染色や培養の感度は低いため、 疑う症例では積極的に関節組織の培養や病理組織診断、 NAAT (核酸増幅検査診断) などを複合的に用いる必要があります。
治療に関しては、 米疾病対策センター (CDC) のガイドラインによると抗結核薬治療を約6~9か月間継続することが推奨されていますが、 本研究では治療期間が6ヵ月以内であった患者の治療失敗率が高く、 多くの研究で約12ヵ月投与していることが分かりました。 また、 膿瘍が大きい場合、 壊死組織が疑われる場合、 内服治療に反応が乏しい場合には外科的介入が考慮されます。
今後の課題としては、 診断基準の標準化、 結核関節炎における早期デブリードマンの役割、 また再建手術の最適なタイミングに関する研究が必要とされています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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