HOKUTO編集部
4日前

2026年7月1~4日にドイツ・ミュンヘンで、 ESMO消化器癌会議 (ESMO-GI) 2026が開催されました。 本稿では、 国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科の森田竜一氏に、 消化器癌領域の注目演題3題をご解説いただきました (監修 : 国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 山本駿氏)。
HER2陰性胃癌、 TIGIT阻害薬上乗せはOS改善せず : STAR-221試験
zanidatamab併用で生存延長+QOL維持 : HERIZON-GEA-01試験
奏効率改善もPFS・OSは延長せず : KRYSTAL-10試験
ESMO-GIは、 消化器癌に焦点を当てた欧州臨床腫瘍学会 (ESMO) 主催の国際学会で、 毎年欧州で開催されています。 近年は大規模臨床試験の初回報告が行われるなど、 注目度が高まっている学会の一つです。 今回、 ミュンヘンで開催されたESMO-GI 2026に参加しましたので、 消化器癌領域の注目演題を共有します。

HER2陰性の切除不能な進行・再発胃癌や食道胃接合部癌に対する標準的な初回薬物療法の一つとして、 抗PD-1抗体+2剤併用化学療法が、 CheckMate 649試験・KEYNOTE-859試験・RATIONALE-305試験の結果から確立されています。 しかし、 治療効果は限定的であり、 特に免疫チェックポイント分子を標的とする薬剤の上乗せを中心とした治療開発が進められてきました。
こうした背景から、 T細胞やNK細胞に発現する免疫抑制性受容体であるTIGITを標的とし、 Fcサイレント設計されたdomvanalimab (Dom) の開発が抗PD-1抗体との併用で進められ、 今回、 国際共同治験であるSTAR-221試験の結果が報告されました。
STAR-221試験は、 未治療のHER2陰性、 切除不能な進行・再発胃癌、 食道胃接合部癌、 食道腺癌を有する1,040例を対象に、 Dom+zimberelimab (Zim)+化学療法とニボルマブ (Nivo)+化学療法のいずれかに1:1で無作為に割り付けました。
主要評価項目であるITT集団の全生存期間 (OS) でニボルマブ併用群に対する優越性は検証されず (p=0.526)、 PD-L1 TAP≥5%集団および≥1%集団でも改善は認められませんでした。 副次評価項目である無増悪生存期間 (PFS) や客観的奏効割合 (ORR) も同等で、 安全性上の新たな懸念は認められませんでした。

Domは、 以前に開発された抗TIGIT抗体とは異なり、 末梢血中の制御性T細胞を減少させることなくTIGIT–CD155経路を遮断するFcサイレント設計であり、 PD-1/PD-L1経路阻害との相乗効果が期待されていました。 しかし、 STAR-221試験では、 現行の標準治療と比較してOSの改善は得られませんでした。
抗TIGIT抗体については、 SKYSCRAPER-07/08試験などで消化管癌における検証が行われましたが、 特に前者では抗TIGIT抗体の上乗せ効果は示されませんでした。 原因として、 腫瘍免疫微小環境の不均一性や、 抗PD-1/PD-L1抗体と抗TIGIT抗体をそれぞれ投与する2剤併用では腫瘍局所で同一の免疫細胞を十分に標的化できない可能性などが考えられます。
1つの抗体でPD-1とTIGITを同時に標的とすれば、 同一のT細胞上の2つの免疫チェックポイント分子を効率よく解除し、 薬物動態や腫瘍局所での作用を最適化できる可能性があります。 今後は、 PD-1とTIGITを標的とする二重特異性抗体であるrilvegostomigの開発が期待されます。
HER2陽性の切除不能な進行・転移性胃癌・食道胃接合部癌では、 長らくトラスツズマブ (T-mab) +化学療法が1次治療の標準でした。 現在は、 PD-L1複合陽性スコア (CPS) <1の症例では従来の標準治療が継続される一方、 CPS≧1の症例に対しては抗PD-1抗体ペムブロリズマブを併用する治療が新たな標準治療として位置付けられています。
こうした中、 二重特異性抗HER2抗体zanidatamab+化学療法±チスレリズマブを検証した第III相HERIZON-GEA-01試験から、 健康関連QOL (HRQoL) の解析結果が報告されました。
HERIZON-GEA-01試験では、 zanidatamab+化学療法がPFS中央値を4ヵ月以上延長し、 さらにチスレリズマブ併用群ではOS中央値も7ヵ月以上改善しています。
今回のHRQoL解析では、 サイクル2時点での身体機能の低下はzanidatamab併用群でわずかであり、 対照であるT-mab+化学療法群との差は臨床的に意味のある7.5点を下回りました。 サイクル2からサイクル8までの期間において、 身体機能が維持または改善した患者の割合は3群いずれも高い結果でした。

HERIZON-GEA-01試験は、 HER2陽性の切除不能な進行胃癌・食道胃接合部癌の1次治療において、 従来の抗HER2抗体T-mabを軸とした治療から、 二重特異性抗体zanidatamabを軸とする治療へのパラダイムシフトを成し得たピボタル試験と考えられます。 非常に良好な治療成績であり、 本邦の実臨床での展開が期待されます。
一方で、 zanidatamabでは下痢が主要な有害事象として報告されており、 その管理が実臨床での鍵となります。 今回のHRQoL解析では、 治療による身体機能や全般的QOLの大きな低下は認められませんでしたが、 これは有害事象が適切に管理されたうえでの結果と捉えるべきです。 HERIZON-GEA-01試験ではロペラミドの予防投与が実施されていました。
用量調整を含めた副作用管理を十分に行うことができれば、 zanidatamab併用療法はQOLを維持しながら予後改善に寄与し得ると考えられます。
KRAS G12C変異は転移性大腸癌の約3%に認められる希少な分画です。 他のKRAS変異と比べて予後不良であり、 新たな治療開発が求められてきました。 従来はフッ化ピリミジン、 オキサリプラチン、 イリノテカンを含む治療が中心でしたが、 現在、 これらの治療歴を有する症例では、 KRAS G12C阻害薬を抗EGFR抗体パニツムマブと併用する標的治療が選択肢の一つとなっています。
大腸癌では、 KRAS G12C阻害に伴う負のフィードバック解除によりEGFRシグナルが亢進するため、 抗EGFR抗体を併用してこのフィードバックを遮断し、 KRAS G12C阻害薬の抗腫瘍効果を増強・持続させることが期待されます。 KRAS G12C阻害薬は複数開発されており、 今回のKRYSTAL-10試験では、 adagrasib+セツキシマブの2次治療としての有効性・安全性が第III相試験で評価されました。
KRYSTAL-10試験では、 既治療のKRAS G12C変異を有する転移性大腸癌461例を対象に、 adagrasib+セツキシマブと化学療法を直接比較しました。
主要評価項目であるOS・PFSはいずれも化学療法に対するadagrasib群の優越性は検証されませんでした (それぞれp=0.09、 p=0.32)。 一方、 ORRおよび完全奏効 (CR) 率は、 いずれもadagrasib群で良好でした。 安全性は管理可能でした。

KRYSTAL-10試験では、 adagrasib+セツキシマブにより奏効割合は改善したものの、 長期成績の重要な指標であるPFS・OSの優越性は示されず、 新たな標準治療の確立には至りませんでした。
現在、 adagrasib+セツキシマブに加え、 ソトラシブ+パニツムマブ、 divarasib+セツキシマブ、 olomorasib+セツキシマブなど、 抵抗性の克服を目指してKRAS G12C阻害薬と抗EGFR抗体を組み合わせる開発が進んでいます。 ただし、 これらの薬剤による早期治療ラインでの生存延長効果は限定的である可能性もあり、 今後の展開が注目されます。
ESMO-GIはミュンヘンやバルセロナで開催されており、 本邦からのアクセスは必ずしも容易ではありませんが、 消化器癌治療の最前線を理解するうえで貴重な機会です。 消化器癌診療に携わる先生方は、 ぜひ参加をご検討いただければ幸いです。



【速報】胃癌バイオマーカー検査の手引き、 2次治療前のHER2再評価の考え方を提示
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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