HOKUTO編集部
1年前
本企画は、4人の腫瘍内科医による共同企画です。がん診療専門医でない方でも、ちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けします。初回は虎の門病院・三浦裕司先生からです! ぜひご一読ください。
「患者さんを治したくて医師になった」という医師は多いでしょう。 また、 患者さんも「治してもらいたくて病院に来た」という人がほとんどだと思います。 そのため、 医学的に治癒が望めない転移のあるがん患者さんにどう向き合って良いのか分からない、 と思う医療者は多いのではないでしょうか?
しかし、 2人に1人ががんになり、 3人に1人ががんで亡くなる、 われわれはそんな時代に医師として働いています。 研修医の皆さんも、 がんの患者さんを担当する機会が必ずあると思いますし、 将来がんと関わりのない科に進んだとしても、 自分が診ている患者さんが、 その疾患とは別にがんになり、 がんの治療を行う、 なんてことはかなり高い確率で起きることでしょう。 そのような場面で患者さんから、 様々な質問が飛んでくるかもしれません。
こここでは、 日頃から転移のあるがん患者さんと接している腫瘍内科医が、 常日頃使っている「がんに対する考え方」「がん患者さんとの接し方」など、 皆さんの日常診療のヒントになるような内容をご紹介したいと思います。
「あなたは転移がありますので、 ステージ4です」
「手術の適応はありません」
「治療法は抗がん剤治療になります」
「使用する抗がん剤は〇〇です」
→治療開始
少し簡略化し過ぎてますが、 大まかにこのような説明で治療を開始すると、 何がいけないのでしょうか?理由は大きく分けて以下の3つになります。
患者さんは、 がんであるという診断を告げられたことで、 既に頭が真っ白になっている可能性があります。 その中で、 あれよあれよという間に治療が開始されてしまうことにより、 出口の見えないトンネルの中に放り込まれたような気持ちになってしまいます。
自分はこれからどうなってしまうのだろうか? 今やっている治療は本当に正しいのだろうか?と、 猜疑心も生まれることもあり、 それがドクターショッピングや民間療法に走ってしまう、 なんてことにも繋がりかねないわけです。
そのため、 最初にどのように話をするのかは、 非常に重要になります。
ポイントは、 以下の6つになります。
全身に存在するがん細胞に対応しなくてはならないため、 全身治療である薬物療法がメインであることを説明します。 そして、 その際に局所治療である手術や放射線治療の意味合いをきちんと説明しておきます。
大事なのは、 何を目的にその治療手段を選ぶのか、 ということであり、 症状緩和を目的とした場合、 手術や放射線治療を検討することがあることも説明しておくと良いでしょう。 そして、 局所治療は「できない」のではなく、 治療のメインではなく、 あくまでもサブであるため、 「 (やろうと思えばできるけど) 今はやらなくて良い」と説明するのも良いと思います。 また、 局所治療の話をする事で、 患者さんは、 この人に手術や放射線のことを相談しても良いんだ、 という気持ちになり、 ドクターショッピングを予防するという効果もあると思います。
💬 腫瘍内科医のTips
全身にがんが「広がっている」とか「散りばめられている」という言葉は、 患者さんにショックを与えることがあります。 同じ意味ではありますが、 なるだけマイルドになるように、 私は「存在している」という言葉を使うようにしています。
これからの治療では、 完治が難しく、 完治を目標とすることができないということも説明する必要があります。 この際に、 「がんという病気の性質として、 いつかはこの病気が命に関わる状態になることが予想される」という事も伝える様にしています。
完治が難しいのなら、 何を目標にするのか?治療の目標は「病気と治療とうまく長く付き合っていく」ことであることを説明します。 この目標を我々医療者と患者さんとで共有することが非常に重要になってきます。
💬 腫瘍内科医のTips
「がんと治療と」ではなく「病気と治療と」うまく長く付き合っていく、 と表現することで、 高血圧や糖尿病など生活習慣病に似た印象を与えることを狙っています。 ただ、 将来的には、 「がん」という言葉の持つ負のイメージを払拭できるような社会になればと思っています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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