知っておきたい婦人科腫瘍領域のバイオマーカー5選
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HOKUTO編集部

2日前

知っておきたい婦人科腫瘍領域のバイオマーカー5選

知っておきたい婦人科腫瘍領域のバイオマーカー5選
近年、 婦人科腫瘍においても治療選択にバイオマーカーが活用される場面が増えてきました。 本稿では、 臨床で押さえておきたい5つの重要なバイオマーカーについて、 東京慈恵会医科大学産婦人科学講座講師の西川忠曉先生に解説いただきます。

バイオマーカーとは

2020年11月にFDA-NIH Biomarker Working Groupから発出されたBEST* Resourceによると、 バイオマーカーは 「正常な生物学的プロセルや病的プロセス、 あるいは治療を含む曝露や介入に対する生物学的反応の指標として測定可能な特性」 と定義される¹⁾。

*Biomarkers, EndpointS, and other Tools

本稿では、 婦人科腫瘍領域においてコンパニオン診断またはコンプリメンタリー診断として用いられるバイオマーカー5つを解説する。

なお、 バイオマーカーはDiagnostic、 Monitoring、 Multicomponent、 Predictive、 Prognostic、 Response、 Safety、 Susceptibility/Riskの8種類に分類されるが、 本稿で紹介するバイオマーカーはいずれもDiagnosticあるいはPredictiveのバイオマーカーである。

知っておきたいバイオマーカー5選

❶相同組み換え修復欠損 (HRD)

HRDは、 DNA修復機構の1つである相同組み換え修復に異常がある状態である。 卵巣癌をはじめ、 多くの癌でみられる²⁾。

HRD : homologous recombination deficiency

HRDを引き起こす代表的な原因としてBRCA1/2遺伝子が知られているが、 他にもさまざまな原因で生じ得る。

使用例 : PAOLAレジメンのコンパニオン診断

初発の進行卵巣癌に対してベバシズマブとオラパリブを維持療法として用いるPAOLAレジメンでは、 myChoice診断システムがコンパニオン診断とされている³⁾。

なお、 myChoice診断システムでは腫瘍細胞にBRCA1/2遺伝子の病的変異があるかどうかだけでなく、 ヘテロ接合性の消失 (LOH) やテロメアアレル不均衡 (TAI)、 大規模な状態遷移 (LST) という3つのゲノム不安定性を加味して、 HRDが評価される。

LOH : loss of heterozygosity、 TAI : telomeric allelic imbalance、 LST : large-scale state transition

❷ミスマッチ修復 (MMR)

MMRは、 DNA複製の際に生じるミスマッチ*を修復する機能を指す。 この機能が低下している状態をdMMR (MMR deficient)、 機能が保たれている状態をpMMR (MMR proficient) と呼ぶ。

MMR : mismatch repair、 *相補的ではない塩基対

使用例 : Pembro単剤、 tripletレジメンのコンパニオン診断

ペムブロリズマブ単剤ならびにDUO-E試験におけるtripletレジメンでは、 MMRタンパクを免疫組織化学染色で評価するMMR-IHC検査がコンパニオン診断とされている⁴⁾⁵⁾。

❸マイクロサテライト不安定性 (MSI)

MMR機能の低下により、 数塩基の繰り返し配列 (マイクロサテライト) の反復回数に変化が生じている状態がMSIである。 MSIが高頻度に認められる場合をMSI-high、 認められない場合をMSI-stableという。

MSI : microsatellite instability

なお、 MMR関連遺伝子 (MLH1 PMS2MSH2MSH6) の1つ以上に病的バリアントが検出された場合、 子宮体癌では91.2%がMSI-highを示す⁶⁾。 一方、 MMR関連遺伝子に病的バリアントを認めない場合にMSI-highを示す場合の多くは、 MLH1のプロモーター領域における高メチル化が原因と考えられている。

使用例 : Pembro単剤のコンパニオン診断

PCR法やCGPによるMSI検査が、 ペムブロリズマブ単剤のコンパニオン診断とされている⁴⁾。

CGP : comprehensive genomic profiling

❹腫瘍遺伝子変異量 (TMB)  

TMBは、 100万個の塩基あたりの遺伝子変異数 (変異/Mb) を単位とし、 癌細胞における体細胞遺伝子変異量を指す。 TMBスコア 10/Mb以上でTMB-highと定義される⁷⁾。

TMB : tumor mutation burden

使用例 : Pembro単剤のコンパニオン診断

CGP検査で評価可能な指標であり、 ペムブロリズマブ単剤のコンパニオン診断とされている。

❺PD-L1発現

免疫チェックポイント阻害薬を用いた薬物療法の効果予測として用いられることが多いPD-L1発現は、 主たるスコアリング方法としてCPSとTPSが挙げられる。

CPS : combined positive score、 TPS : tumor proportion score

CPSは腫瘍におけるPD-L1発現をIHCにより算出したスコアで、 分母に総腫瘍細胞数、 分子にはPD-L1陽性の腫瘍細胞に加えて、 リンパ球、 マクロファージを評価の対象としている点が特徴である。

一方、 腫瘍細胞のみのPD-L1発現をIHCで評価するのがTPSであり、 どちらを採用するかは癌種や薬剤によって異なる。

使用例 : KEYNOTE-826試験、 DUO-E試験のコンプリメンタリー診断

進行・再発子宮頸癌を対象に実施されたKEYNOTE-826試験では、 CPS検査 (1以上) がコンプリメンタリー診断として指定された⁸⁾。

進行・再発子宮体癌を対象に実施されたDUO-E試験でも、 CPS検査 (1以上) がコンプリメンタリー診断として開発中である (2025年6月現在)⁵⁾。


今後の展望

今後の婦人科腫瘍領域において実装が予想されるバイマーカーとして、 IHCによるHER2、 葉酸受容体α (Folate Receptor α; FRα) の評価などが挙げられる。

HER2についてはIHCによるタンパク発現評価のみならず、 cell-free DNA検査によるHER2 amplification評価も挙げられる。

 

特に抗体薬物複合体 (antibody drug-conjugate; ADC) については、 さまざまな抗体を用いた薬剤の開発が進んでおり、 IHCによるタンパク評価の重要性はますます増加することが予想される。

<出典>
1) FDA-NIH Biomarker Working Group : BEST (Biomarkers, EndpointS, and other Tools) Resource. Last Updated: 11, 2.02.
2) 日本婦人科腫瘍学会: 卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として相同組換え修復欠損 (homologous recombination deficiency : HRD) の検査を実施する際の考え方. 2021年3月改訂.
3) N Engl J Med. 2019 Dec 19;381(25):2416-2428.
4) J Clin Oncol. 2020 Jan 1;38(1):1-10.
5) J Clin Oncol. 2024 Jan 20;42(3):283-299.
6) Eur J Cancer. 2025 Feb 25:217:115233.
7) Lancet Oncol. 2020 Oct;21(10):1353-1365.
8) N Engl J Med. 2021 Nov 11;385(20):1856-1867.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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