北里研究所病院IBDセンター
17日前

北里大学北里研究所病院 (北研) IBDセンターの抄読会で実際に交わされた治療判断の視点や議論のエッセンスを凝縮してお届けします。
第8回は、 潰瘍性大腸炎 (UC) 患者を対象に、 自宅での積極的な便中カルプロテクチン (FC) モニタリングによる症候性再燃の予防効果を検討した前向き多施設共同無作為化比較試験を取り上げます。
Proactive Fecal Calprotectin Home Monitoring in Ulcerative Colitis: Results of a Prospective Randomized Control Trial
Gastroenterology. 2026年6月23日オンライン版.
FCは腸管炎症のバイオマーカーであり、 UC患者では症候性再燃の約3ヵ月前から上昇が検出されることがある。
本研究では症候的寛解期UC患者を対象に、 自宅での積極的なFCモニタリングが症候性再燃を予防するかどうかを検討した。
修正partial Mayoスコアが2点以下で、 直腸出血を認めない成人UC患者を、 標準診療群または自宅FCモニタリング群 (以下、 介入群) に無作為に割り付けた。
介入群では、 18ヵ月間または症候性再燃*が生じるまで、 2ヵ月ごとにFCを測定した。 FC 250μg/g以上の場合は2週間以内に再測定し、 結果を確認した。 FC測定結果に基づく治療変更は、 担当医の裁量に委ねた。
主要評価項目は症候性再燃までの期間とした。 副次評価項目として、 医療資源の利用状況、 薬剤使用、 生活の質 (QOL) などを評価した。
本試験には716例が登録され、 無作為化後、 介入開始前に追跡不能となった105例を除く611例 (標準診療群308例、 介入群303例) を解析対象とした。 平均年齢は42歳で、 47%が男性であった。 病変範囲の分布は両群で同様で、 約45%の患者が生物学的製剤や低分子薬等によるadvanced therapyを受けていた。
症候性再燃は、 標準診療群の31.5%、 介入群の31.7%に認められ、 再燃までの期間の中央値は未到達だった。 また、 症候性再燃リスクに群間差は認められず (全体解析 : HR 1.05、 95%CI 0.79–1.40、 p=0.72) 、 病変範囲別やadvanced therapy使用の有無別の解析でも同様であった。
ベースラインではFC 250μg/g未満で、 その後の確認検査でFC高値を認めた88例のうち、 39例 (44%) で治療が変更された。 再燃頻度は、 治療変更群で非変更群より低かった (49% vs 55%) ものの、 再燃リスクに有意差は認められなかった (相対リスク1.26、 95%CI 0.61–2.58、 p=0.53)。
副次評価項目についても、 両群間に差は認めなかった。
あらかじめ規定された治療強化 (protocolized escalation) を伴わない、 自宅での積極的なFCモニタリングは、 症候性再燃を予防しないことが示唆された。
FCモニタリングの最適な活用法や早期治療介入の有用性を明らかにするためには、 さらなる研究が必要である。

FCを2ヵ月ごとに自宅で測定するモニタリング戦略のみでは、 18ヵ月間の症候性再燃率は改善しないことが示されました。
本研究では、 FC高値に対する治療介入が標準化されていなかったことが大きな限界点だと思います。 ベースラインではFC 250μg/g未満で、 その後の確認検査でFC高値を認めた患者のうち、 治療変更が行われたのは44%にとどまっており、 介入の実施や内容も各担当医の裁量に委ねられていました。
FC高値かつ症候的寛解の患者に対して、 何かしらの定まったストラテジーで治療強化することが予後を改善するかというテーマが、 次の検討課題であると思いました。


ご指摘のとおりで、 本研究の結果はFC高値でも症候的寛解であれば経過観察とする診療スタイルが多いことを物語っていると思います。

本研究では、 FC測定結果は患者のアプリ上にも表示され、 医療者にも共有される仕組みとなっていました。 そのため、 患者がFC高値を認識することで症状に敏感になり、 症候性再燃が増えた可能性はあると思います。
論文の考察でも、 検出バイアスについて触れられていました。 また、 本研究の限界として、 主要評価項目が症候性再燃であり、 内視鏡などによる客観的評価ではないことが挙げられていました。

ご指摘のとおり、 臨床的寛解にある患者に対して、 FCのみを根拠に生物学的製剤を切り替えるなどの大きな治療変更を行うことには、 ややハードルがあると思います。
本研究では、 FC 250μg/g以上の場合の治療変更は 「担当医の裁量」 とされており、 どの程度の治療強化が行われたかについて、 統一された基準や具体的な記載はありませんでした。
どこまで介入すべきかについては、 再燃予防による利益と医療費・患者負担とのバランスを考慮する必要があり、 今後さらに検討が必要な課題だと思います。
1) Lancet. 2017 Dec 23;390(10114):2779-2789.
北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター (IBDセンター)

潰瘍性大腸炎・クローン病を中心とした炎症性腸疾患に対し、 消化器内科を軸に多職種が連携し、 先進的な診療と研究を推進する拠点である。 専門医が高度な治療選択を提供し、 IBD診療の質向上を目指して活動している。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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