ポイント
- 呼気中一酸化窒素濃度 (fractional exhaled nitric oxide : FeNO) は好酸球性気道炎症のバイオマーカーである.
- FeNO測定検査は日本では2013年に保険収載され, 気管支喘息の日常診療で測定されている.
- FeNOは気管支喘息の診断のみではなく治療反応予測や治療管理のバイオマーカーとして有用性が示されており, 最近では抗体製剤治療における有用性も注目されている.
- 再現性が高く簡便で非侵襲的な検査のため, 今後ますますの普及が期待される.
はじめに
- FeNOは好酸球性気道炎症のバイオマーカーであり, 気管支喘息 (以下, 喘息) の診断および治療管理のバイオマーカーとして有用である¹⁾~⁴⁾. 日本ではFeNO測定検査は2013年に保険収載され, 喘息の日常診療で広く測定されるようになった.
- NOはNO合成酵素 (nitric oxide synthase : NOS) により産生される. 喘息患者の気道ではIL-4, IL-13と言った炎症性サイトカインによりNOSの発現が増加し¹⁾, 好酸球やマクロファージなどの炎症細胞にもNOSが発現するため, 喘息患者ではFeNOが高値となる⁵⁾.
- 喘息患者においてFeNO値は, 喀痰や気管支肺胞洗浄液中の好酸球数, 気道の好酸球浸潤と正の相関を示すことが報告されており⁶⁾~⁸⁾, 下気道の好酸球性炎症を反映し, 喘息の診断や治療管理の指標となる.
測定方法
- FeNOの測定手技は簡便かつ非侵襲的で, 呼吸機能検査が施行できない高齢者や小児でも測定可能である⁹⁾. NIOX VERO®️による測定方法を以下に示す (図1, 2) .
- ノーズクリップは使用しない.
- 最大呼気まで息を全て吐き出す(図2 ①).
- マウスピースをくわえて, 口からマウスピースを通して最大吸気位まで息を深く吸い込む(図2 ②).
- 全肺気量まで吸気を行ったら, 息どめをせずに呼出を開始する.
- 10秒間呼出する(図2 ③).
- 約1分間で結果が表示される(図2 ④).
- 呼吸機能検査施行後はFeNO値が低下するため, 呼吸機能検査の前に測定する.
測定結果の解釈
診断マーカーとしてのFeNO
- 喘息の診断は, ① 発作性の呼吸困難, 喘鳴, 胸苦しさ, 咳などの症状の反復, ② 変動性・可逆性の気流制限, ③ 気道過敏性の亢進, ④ 気道炎症の存在, ⑤ アトピー素因の有無, ⑤ 他疾患の除外を目安に行う. FeNOは④ の気道炎症の評価方法として, 末梢血好酸球数, 喀痰中の好酸球比率と同様に有用で, FeNO高値は喘息の診断を支持する.
- 日本人では, アレルギー疾患のない非喫煙成人健常者のFeNO値の平均値は15ppb, 上限値は37ppbと算出されている¹⁰⁾. また, 成人健常者と喘息患者を鑑別する際のFeNO値のカットオフ値は22ppbとされる (感度91%, 特異度84%)¹¹⁾. 発作性の喘鳴などの喘息を疑う症状を有する吸入ステロイド (inhaled corticosteroid : ICS) 未使用の患者では, FeNO値が22ppb以上であれば喘息の可能性が高く, 37ppb以上であればほぼ確実に喘息と診断できる¹⁾¹¹⁾. ただし喘息診断のカットオフ値を37ppbとした場合の感度, 特異度は52%, 99%であり, 喘息患者を見落とす可能性があるため注意が必要である¹¹⁾. また, 慢性咳嗽と咳喘息を含む咳優位型喘息を鑑別するカットオフ値は29ppbとされる¹²⁾.
- アメリカ胸部学会 (American Thoracic Society : ATS) のガイドラインでは, 成人喘息患者において25ppb未満を正常域, 25-50ppbを中間域, 50ppb以上を高値域と定義している²⁾.
- 喘息以外の呼吸器疾患については, COPD患者ではFeNOは上昇せず, 高値の場合は喘息病態の合併 (asthma and COPD overlap : ACO) が考えられ, FeNO>35ppbがACOの診断基準の一つに入っている¹³⁾. 好酸球性肺炎では高値になることが知られている. また, 線毛機能不全症では鼻腔NOが低下するが, FeNOが異常低値の場合は本症を疑い鑑別を行う.
治療管理マーカーとしてのFeNO
- 治療反応予測マーカーとしては, 未治療の喘息患者でFeNO高値の場合 (FeNO>47ppb) ステロイド治療の有効性が示唆される¹⁴⁾. また, 抗体製剤の抗IgE抗体 (オマリズマブ) , 抗IL-5受容体α抗体 (ベンラリズマブ) , 抗IL-4/13受容体α鎖抗体 (デュピルマブ) では, 治療前のFeNO高値は増悪抑制などの治療効果の予測マーカーとなると報告されており¹⁵⁾~¹⁷⁾, 今後指標の確立が期待される.
- 治療管理のマーカーとしても有用である. FeNOはICS治療により速やかにかつ用量依存性に低下し¹⁸⁾, その改善度は1秒量や気道過敏性の改善度と相関する. 治療によりに低下しない場合はICS量の不足やアドヒアランス不良を考慮する必要がある. 喘息管理中のコントロール状態や増悪予測としては, 安定期喘息患者においてFeNO>36ppbは喀痰中好酸球比率>3%を予測するとされ⁷⁾, FeNO高値の場合は増悪や入院頻度が高くなりコントロール不良が示唆される. また, 1秒率の低値や経年的な1秒量の低下との関連もあり気道の炎症とリモデリングの関連が考えられ¹⁹⁾, 予後不良予測因子となり得る.
- 喘息長期管理中に治療管理ツールとしてFeNO値を用いて薬剤調整などを行う治療戦略については, 増悪の抑制やICS使用率の向上などの報告もあるが, まだ十分な見解は得られていない²⁰⁾.
FeNOに影響を与える因子
- FeNOに影響を与える因子として, 食品, 薬剤, 喫煙, アトピー素因, 感染症などがある. ステロイドは全身投与, 吸入投与のいずれもFeNOを減少させる. 喫煙はFeNOを減少させ, アトピー素因, アレルギー性鼻炎, 好酸球性副鼻腔炎の合併はFeNOを上昇させる. アレルギー性疾患患者では抗原曝露によって上昇するため注意が必要である.
おわりに
- 喘息診療においてFeNO測定は診断, 治療効果予測, 治療管理の評価に有用であるが, 実際の日常診療では症状や身体所見, 他の検査所見などと合わせて総合的に判断する必要がある.
参考文献
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著者
最終更新:2022年7月7日
監修:日本赤十字社医療センター呼吸器内科部長 出雲雄大先生