「ウェルビーイング施策はきわめて費用対効果の高い経営戦略」 藤田医科大学総合診療科講師・長崎一哉医師 (前編)
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2日前

「ウェルビーイング施策はきわめて費用対効果の高い経営戦略」 藤田医科大学総合診療科講師・長崎一哉医師 (前編)

 「ウェルビーイング施策はきわめて費用対効果の高い経営戦略」 藤田医科大学総合診療科講師・長崎一哉医師 (前編)
2025年12月に刊行された『医療者のためのバーンアウト防止戦略 : Mayo Clinicに学ぶ12アクション』。 本書では、 医療者のバーンアウトを防ぐため、 組織のシステム作りにいち早く取り組んできた米国・Mayo Clinicでの実践などが紹介されている。 翻訳者の一人で、 藤田医科大学総合診療科講師の長崎一哉医師は、  「働き方改革の導入後も依然としてバーンアウトする医師は多く、 具体的な介入方法が記されている本書を参考にしてほしい」 と話す。 

バーンアウトの原因は労働時間だけではない

――今回刊行された『医療者のためのバーンアウト防止戦略 : Mayo Clinicに学ぶ12アクション』について教えてください。

「原著は、 世界有数の医療機関として知られる米国のMayo Clinic (メイヨー・クリニック) で取り組まれたウェルビーイングやバーンアウト対策の実践と、 研究結果を踏まえて執筆された本です。 Mayo Clinicの松尾貴公先生が翻訳プロジェクトを提案され、 同じくMayo Clinicの西村義人先生と私に声をかけてくださり、 3人で共同翻訳を進めることになりました」

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※写真はイメージです

「私にお声がけくださった理由の一つに、 私自身の研究領域が『研修医のウェルビーイング』であることが挙げられます。 大学院時代から、 研修医のバーンアウトや労働時間を主なテーマとして研究を進めてきました。 また、 後期研修先の水戸協同病院でチーフレジデントを経験した後に立ち上げた『日本チーフレジデント協会 (JACRA) 』で松尾先生と活動を共にしており、 そのつながりから今回の共同翻訳に至りました」

――この書籍の特色や、 ユニークな点を教えてください。

「従来のバーンアウトに関する書籍の多くは、 『どのような人がバーンアウトしやすいか』といったリスク要因の紹介にとどまっていました。 一方、 本書では『具体的にどう対応すべきか』まで言及しています。 特に、 労働時間以外の要因にも焦点を当て、 具体的な介入手法や、 それを検証した研究データ、 組織のあるべき文化の構築方法などが詳しく解説されています」

「『バーンアウト』という言葉は一般的になり、 広く認知されるようになりました。 一方で、 かつての私もそうでしたが、 多くの人が『労働時間を減らせばバーンアウトの問題はすべて解決する』と考えてしまいがちです。 しかし、 実際の原因は労働時間だけではありません。 職場からの支援の欠如や、 個人の価値観と組織の方針とのミスマッチも大きな要因となります」

「例えば、 『患者さんとじっくり向き合って質の高い医療を提供したい』と考える医師に、 効率よく多くの患者さんを診て経営効率を上げることを求めると、 ミスマッチが生じ、 やる気を失ってしまいます。 自分の頑張りが評価されない状況が続けば、 医師は働き続けることが難しくなります」

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「働き方改革が進み、 忙しさが緩和された後も、 依然としてバーンアウトに苦しむ医師は多くいます。 そうした状況だからこそ、 『バーンアウトを防止し、 職員のウェルビーイングを向上させるため、 組織として具体的にどのような手を打つべきか』が記されている本書を、 日本の医師に届けたいと思いました」

――具体的には、 どのようなアプローチが書かれているのでしょうか。

「本書では、 個人の仕事における裁量権や主体的な選択を尊重する『主体性』、 組織としての評価基準や価値観にぶれを作らない『一貫性』、 そして『仲間意識』という主に3つの軸に沿って、 具体的なアクションが体系的に整理されています」

「興味深い事例として紹介されていたのが、 会食を支援する制度です。 Mayo Clinicでは、 自発的に集まった5~6人のグループで定期的な会食の場を設ける場合、 病院がその費用を福利厚生として補助する制度があります。 仕事に関連する対話を行うことが条件ですが、 この制度の導入によって医師の孤独感が和らぎ、 バーンアウトが抑制されたという研究データを数値化し、 検証しています。 このように、 組織がシステムとして支援し、 効果検証まで行っている点が非常に興味深いと感じました」

ウェルビーイングの重要性を経営トップ層こそ理解すべき

――翻訳作業を通して、 どのような点が印象に残っていますか。

「原著の最初にある『総論』に記されていた、 『職員のウェルビーイング向上は経営に直結する』という点です。 日本では、 職員のウェルビーイングを高める取り組みは『余裕がある場合に行うオプション』のように捉えられがちです。 しかし、 米国の医療機関や先進企業では、 ウェルビーイングの向上はきわめて常識的な取り組みだと考えられています。 それは、 経営上のメリットが大きいからです」

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「多くの病院は、 医師をはじめとする職員の離職問題に頭を悩ませています。 優秀な人材を失えば、 莫大な採用コストが発生し、 組織にとって計り知れない損失となります。 したがって、 ウェルビーイングに時間や費用を投資し、 働きやすい環境を整えることは、 きわめて費用対効果の高い経営戦略であるというわけです」

「若手医師の立場になってみても、 粗雑に扱われたり、 理不尽に厳しい環境に置かれたりすれば、 その病院をすぐに辞めてしまうのは当然です。 この論理を組織のトップ層がしっかりと理解し、 病院全体でウェルビーイング向上に取り組むべきだというメッセージに、 強く共感しました」

――日本の医療現場で、 ウェルビーイングが軽視されがちなのはなぜだと考えますか。

「3つの理由があると考えています。 まず、 文化的な土壌として、 『長時間働き、 タフに業務をこなせる医師こそが有能である』といった考え方が根強く存在してきたことです。 過酷な勤務に耐え抜き、 完璧に仕事をこなす姿は確かに尊敬に値する面もありますが、 このような伝統的な精神論が、 ウェルビーイングの軽視につながってきた側面は大きいと思います」

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「次に、 多くの医療現場で、 人的・時間的・金銭的な余力がない点です。 ウェルビーイングを向上させるためには、 制度設計のための時間や資金、 人員への投資がある程度必要です。 最後に、 ウェルビーイングを高めることの経営的・組織的な価値が、 管理者に正しく理解されていない点です」

「『多少きつくても、 みんな頑張っているからこのままでよいのではないか』という認識にとどまっていることが原因だと思います。 しかし、 その結果として、 バーンアウトを引き起こしてしまうことが少なからずあります」

(>>続く)

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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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