HOKUTO編集部
1ヶ月前
悪性骨軟部腫瘍の薬物療法においては、 過去1~2年で大きな治療戦略の変化は見られていないものの、 組織型ごとの特性に応じた個別化治療が着実に進展しています。 これにより、 各腫瘍において新たな知見や新規薬剤の登場が報告されています。 本稿では、 それぞれの骨軟部腫瘍に焦点を当て、 最新の薬物療法に関するエビデンスを概説いたします。
骨肉腫の薬物療法では、 周術期治療におけるイホスファミドの有効性が検証されるとともに、 重篤な副作用の軽減を目的とした支持療法薬も新たに承認されました。
骨肉腫の周術期治療において、 術後にイホスファミドを追加する意義を検証したJCOG0905試験では、 無病生存期間 (DFS)、 全生存期間 (OS) ともに有意な改善は示されませんでした。
JCOG0905試験では、 高悪性度骨肉腫に対する術前MAP療法 (メトトレキサート+ドキソルビシン+シスプラチン) に反応不良だった患者を対象に、 術後イホスファミド (15 g/m²) の追加による効果を検証した。 主要評価項目であるDFSに差はなく (HR 1.05、 95%CI 0.55–1.98)、 OSもMAP単独群が良好な傾向を示した (HR 1.48、 95%CI 0.68–3.22)。
骨肉腫治療において、 大量メソトレキセート (MTX) 療法は高い有効性から標準治療とされていますが、 排泄遅延による腎障害などの重篤な有害事象が問題となることがあります。 これに対する支持療法として新たに承認されたグルカルピダーゼは、 MTXを加水分解する酵素製剤であり、 排泄が遅延した際に血中MTX濃度を迅速に低下させる作用を有します。
日本人を対象とした第II相試験では、 CIR (臨床的に重要な濃度低下) 達成率が77%と報告され、 別の企業治験では投与20分後の血中MTX濃度が中央値で約99%減少したことが示されている。
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骨軟部腫瘍においては、 他の固形がんと比べて免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法の有効性が示されていませんでした。 しかしながら、 胞巣状軟部肉腫 (ASPS) においては例外的に有効性が認められており、 このたび国内外の臨床試験結果を踏まえ、 2025年に日本でも抗PD-L1抗体アテゾリズマブがASPSに対して承認されました。
第Ⅱ相単群試験 (NCT03141684) において、 主要評価項目である客観的奏効率 (ORR) は37%であり、 完全奏効1例、 部分奏効18例が認められた。 奏効期間の中央値は24.7ヵ月、 無増悪生存期間 (PFS) の中央値は20.8ヵ月であり、 いずれも持続的な治療効果が示された。
滑膜肉腫や粘液型脂肪肉腫に対しては、 T細胞受容体導入T細胞療法 (TCR-T) の開発が進められており、 国内ではNY-ESO-1を標的としたTCR-Tの臨床試験が報告されています。 海外では、 MAGE-A4を標的としたTCR-T療法によるSPEARHEAD-1試験の結果を受けて、 両疾患に対するTCR-T療法として承認が得られています。
進行または再発滑膜肉腫に対して、 NY-ESO-1を標的とするTCR-T細胞療法TBI-1301の有効性と安全性が日本で検証された。 HLA-A02:01または02:06を有し、 NY-ESO-1陽性腫瘍を有する患者8例を対象とした第I/II相試験において、 主要評価項目であるORRは50.0%であり、 4例でRECIST v1.1またはirRECISTに基づく部分奏効が認められた。
NY-ESO-1特異的TCR-T細胞療法と、 TCRが認識可能なエピトープを担持するプルランナノゲル:LPA (long peptide antigen) ワクチンの併用療法が、 進行滑膜肉腫を対象に日本で第Ⅰ相試験として実施された。 HLA適合かつNY-ESO-1陽性の患者3例に対して、 リンパ球除去なしにTCR-T細胞を2回投与し、 ワクチンを前後に皮下接種した。 主要評価項目は安全性であり、 2例に軽度~中等度のサイトカイン放出症候群 (CRS) がみられたものの管理可能で、 安全性は良好とされた。 また、 1例では腫瘍縮小が2年以上持続し、 TCR-T細胞の長期残存も確認された。
MAGE-A4を標的としたTCR-T療法であるAfamitresgene autoleucel (afami-cel) は、 HLA-A*02陽性かつMAGE-A4発現の滑膜肉腫および粘液型円形細胞脂肪肉腫に対し、 主要評価項目であるORR37% (滑膜肉腫では39%) を示し、 重治療歴を有する患者に対する有効性が確認された。
ユーイング肉腫は、 特徴的な染色体転座によりEWS-FLI1融合遺伝子を形成しますが、 これまでこの分子を直接標的とした治療薬は承認されていませんでした。 近年、 新たな機序の薬剤として、 EWS-FLI1を標的とした抗体薬TK216の臨床試験が報告されており、 分子標的治療の選択肢がなかった骨軟部腫瘍領域においても、 新規薬剤の開発が進展しつつあります。
EWS::FLI1融合タンパク質を標的とするTK216は、 再発・難治性ユーイング肉腫に対する第I/II相試験において主要評価項目である抗腫瘍効果を示した。 推奨用量での14日間連続静注により、 完全奏効2例、 部分奏効1例、 6ヵ月無増悪生存率は11.9%であり、 限定的ながら臨床的有効性が確認された。
軟骨肉腫では、 一定の頻度でイソクエン酸デヒドロゲナーゼ (IDH) 変異が報告されており、 この変異を標的とした治療薬の開発が進められています。
進行性IDH1変異陽性軟骨肉腫を対象とした第I相試験において、 イボシデニブは奏効例を認めなかったものの、 PFSの中央値は5.6ヵ月、 6ヵ月時点の無増悪生存率は39.5%であり、 約半数の患者に病勢安定が得られた。
進行性IDH1変異陽性の従来型軟骨肉腫を対象とした第I相試験の長期追跡解析において、 イボシデニブのORRは23.1%、 奏効期間の中央値は53.5ヵ月、 PFSの中央値は7.4ヵ月であり、 一部の患者で長期にわたる病勢制御が確認された。
現在、 国内では横紋筋肉腫やユーイング肉腫の治療に用いられるアクチノマイシンD (コスメゲン®) の供給制限が問題となっています。
将来的に国内で当該薬剤の供給が途絶する可能性も懸念されており、 現在、 関連学会が供給維持に向けた働きかけを行うとともに、 代替治療選択肢の検討も進められています。 今後の動向が注目されます。
▼関連ガイドラインの紹介
専門 : 腫瘍内科 (骨軟部腫瘍、 頭頸部腫瘍、 原発不明癌、 希少がん、 その他がん薬物療法全般)
一言 : がん薬物療法に関する論文を中心に、 勉強した内容を記事にしています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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